研究レポート

習近平の人脈と第20回党大会の注目人物

2022-02-08
李昊(日本国際問題研究所研究員)
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「中国」研究会 FY2021-6号

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。

今日の中国において、中国共産党中央委員会総書記の習近平が圧倒的な権力を手中に収めていることについて、もはや疑問を挟む余地はない。反腐敗運動から始め、2016年の党中央の「核心」地位の獲得、2017年の第19回党大会、2018年の国家主席任期制限撤廃、2021年の歴史決議の採択と、その権力と権威は強化され続けてきた。習近平は、自らの統治を「新時代」と位置付け、毛沢東や鄧小平に並ぶ指導者として自己アピールをしている。習近平の地位は盤石であり、もはや党内には、習近平に対抗できるまとまった勢力はない。2022年の党大会において、最高指導者としての習近平の留任はもはや既定路線となっているといえよう。しかし、習近平の人脈に着目すると、その権力基盤の変質が進んでいることも見て取れる。本稿では、習近平の人脈について今一度整理し、秋の第20回党大会を展望する上での参考材料を提供することを目的とする。

習近平の人脈

浙江省関係者

習近平人脈の中で最も重要なのは、浙江省関係者、すなわち「之江新軍」である。習近平は、2002年から2007年まで約5年間浙江省の党委員会書記を務めていた。この時期の部下たちが今の習近平人脈の中心となっている。政治局委員として、李強(上海市党委員会書記)、陳敏爾(重慶市党員会書記)、黄坤明(中央宣伝部長)、蔡奇(北京市党委員会書記)などがいる。それ以外にも、夏宝龍(国務院香港マカオ事務弁公室主任)や、応勇(湖北省党委員会書記)、鍾紹軍(中央軍事委員会弁公庁主任)などが挙げられる。浙江省関係者の多くは、比較的若く、2017年の党大会時に抜擢を受けたものが多い。すなわち、2022年の党大会でさらに昇進し、次の指導部の中心となる可能性が高い人物が多く含まれている。

福建省関係者

浙江省に赴任する前、習近平は1985年から2002年まで、実に17年もの間、福建省に勤めた。厦門市党委員会常務委員、寧徳地区党委員会書記、福州市党委員会書記、福建省長を歴任した。浙江省にも勤めた黄坤明は福建省で習近平と知己を得た。また、第二期政権において、習近平の視察に同行している側近の一人の何立峰(国家発展改革委員会主任)は厦門で習近平の部下として働き、そこから昇進ルートが開かれた。2021年11月に公安部の党委員会書記に就任し、昇進が確実しされる王小洪は、習近平の下で福州市の公安局副局長を務めていた。

上海市関係者

習近平が上海に勤めたのは第17回党大会前の半年しかないが、そこでも人脈を広げ、何人かの部下は昇進を続けている。代表的なのは、中央弁公庁主任の丁薛祥である1。丁薛祥は習近平書記の下で上海市の秘書長を務め、2013年以降は中央弁公庁に移り、習近平弁公室の主任を務めた最側近である。政治局入りをした後も、積極的に習近平の権威強化に努めている。中央規律検査委員会副書記兼国家監察委員会主任の楊暁渡も習近平の上海時代の部下である。上海市関係者については、韓正にも言及する必要がある2。韓正は政治局常務委員として中央入りするまで一貫して江沢民の権力基盤である上海に勤めていた。かつて共青団上海市委員会書記を務めたことがあり、胡錦濤と関係があるとも言われる。そして、習近平が上海市党委員会書記を務めていた時の上海市長でもある。韓正は江沢民、胡錦濤、習近平三代の総書記とゆかりを持つ稀有な人物である。一般的にその絶妙なバランスゆえ、習近平の人脈には含まれないが、習近平との関係も良好であるとされる。

河北省関係者

習近平は、1980年代半に河北省の正定県の党委員会書記を務めていたが、同じ時期、隣町である無極県の党委員会書記だったのが栗戦書(全人代常務委員会委員長)である3。二人は会議などで顔を合わせる機会も多く、近い年齢同士、交流があったと言われる。栗戦書は2012年に中央弁公庁に抜擢され、習近平の大番頭として活躍し、2017年に最高指導部である政治局常務委員に昇進した。現指導部の中で最高齢であり、2022年秋の党大会で退任すると思われる。

陝西省関係者

習近平の本籍地は陝西省であるが、実際に育ったのは北京であり、またキャリアの中でも陝西省に勤めたことはない。しかし、習近平が文化大革命中に下放されたのが陝西省の延安であり、そこで同様に下放されていた王岐山(国家副主席)と王晨(全人代常務委員会副委員長)とは親密な関係を持っている。王岐山は第一期習近平政権で大活躍を果たし、定年で中央委員会から退出したにも関わらず国家副主席となるほど習近平の寵愛を得た。しかし、近年、王岐山に近いとされる任志強(著名企業家)や董宏(元中央巡視組副組長)、海南航空関係者が摘発を受けており、習近平と王岐山の関係が悪化しているという観測が広がっている。

清華大学関係者

清華大学は習近平の母校である。文化大革命中、大学入試は中断され、習近平は「工農兵学員」として推薦を得て清華大学に入学した。そこでルームメイトとなったのが陳希(中央組織部長)である4。陳希の入党紹介者は習近平だったとも言われる。陳希は卒業後、まもなく清華大学に戻り、30年近く清華大学に勤めた。習近平は、2002年に清華大学で法学博士を取得するが、その時陳希は清華大学の党委員会副書記であった。中国共産党のエリート政治において、いわゆる学閥が重要な役割を果たすことは多くなく、習近平も清華大学の人脈を大規模に動員しているわけではないが、信頼できる友人と出会った場所である。

旧南京軍区関係者

今日の中国の政治指導者の中で、習近平に際立つ特徴は、その軍との関係の深さである。1979年に清華大学を卒業したとき、社会人となった習近平の最初の職務は、国務院弁公庁、中央軍事委員会弁公庁秘書であった。より具体的には、中央軍事委員会秘書長であった耿颷という将軍の秘書であった。習近平の公式略歴には、この時期の経歴について、「(現役)」という記述がある5。これはすなわち、軍籍を持つという意味である。習近平はそれ以後も殆どの期間において、勤務地の軍関連の役職も兼任し、一貫して軍との関係を維持してきた6。また、妻の彭麗媛も軍に所属する歌手であり、軍との密接な繋がりを持つ。

習近平は、キャリアの大半を福建省、浙江省、上海市で過ごした。これら地域は、いずれも旧南京軍区(現東部戦区)の管轄内である。そのため、習近平は、軍の中でも南京軍区と強いつながりを持つと言われる。『朝日新聞』は、その中でも、苗華(政治工作部主任)、韓衛国(前陸軍司令員)、丁来杭(前空軍司令員)などを紹介し、習近平と南京軍区出身者との繋がりを強調している7。韓衛国と丁来杭は引退したが、中央軍事委員会委員の苗華は党大会での軍事委員会副主席への昇進もありうる8。なお、習近平は早い段階で軍の忠誠を獲得しており9、党、政府に比べて、軍において、人脈に依存する程度は低い可能性もある。

紅二代

習近平が2007年の党大会で政治局常務委員に抜擢されたとき、いわゆる「太子党」として紹介されることがほとんどであった。多くのメディアは、太子党を一つの派閥と捉え、習近平をその筆頭とした。当の革命家の子弟たちは、自らを太子党とは呼ばず、革命第二世代という意味の「紅二代」を自称する。しかし、実際に習近平がこうした紅二代とどのような関係を有するのかは必ずしも明確ではない。紅二代という共通点は、必ずしも個人的な親密性を証明するものではない。

実際には、習近平政権は発足時より、指導部にほとんど紅二代が含まれておらず、存在感は必ずしも大きくなかった。ただし、反腐敗闘争においては、劉源が活躍したことを改めて指摘しなければならない。劉少奇の息子である劉源と習近平は年齢も近く、幼少時より親しかったと言われ、まさに紅二代的な繋がりの典型である。しかし、その劉源も中央軍事委員会への昇進が噂されながら10、結局第19回党大会の前に軍を離れ、全人代の財政経済委員会副主任委員という半引退ポストに移った。

2017年の第19回党大会の後に発足した指導部において、紅二代は習近平を除いて、中央軍事委員会副主席の張又侠ただ一人であった11。習近平は現在ではほとんど紅二代の人脈を頼ることなく、政権運営していると言える。

以上、8つの系統から、習近平の人脈について整理した。この中で、紅二代、旧南京軍区、清華大学、陝西省、河北省などの関係者はほとんどが引退する年齢となった。習近平の人脈の中心は、これまでの古い友人たちから、福建省、浙江省、上海市時代の仕事の部下たちが中心となっている。彼らは若く、次の指導部でも留任することができる。そして、上司と部下の関係であったこともあり、習近平に忠実であると考えられる。上に挙げた以外にも、多くの政治エリートが習近平に忠誠を誓っている。例えば、李希(広東省党委員会書記)や李鴻忠(天津市党委員会書記)は習近平と経歴面での共通項は見られないが、いずれも習近平を賞賛する発言を繰り返しており、早くから習近平に追従した人物である。このように、習近平は党内で幅広い支持を得ており、安定的な権力基盤を形成していると言えよう。

第20回党大会における注目人物

次期最高指導部候補

習近平の留任が予測される中でも、指導部の若返りは、次世代人材育成という観点から必要である。そのため、若干名の次の世代の幹部の昇進はあると考えられる。これまで挙げた人物のうち、陳敏爾、李強、丁薛祥、李希、胡春華は次期最高指導部の有力候補でもある。陳敏爾は2017年の党大会前、『毎日新聞』は陳敏爾の最高指導部入りが内定したと報じられたことで有名となった12。李強は習近平の「之江新軍」の中でも最も華やかな経歴を持つエリートである。浙江省出身であり、習近平書記の下で、浙江省党委員会常務委員、秘書長を務めた。その後、浙江省長や江蘇省党委員会書記を経て、2017年の党大会後に上海市党委員会書記に就任した。浙江省、江蘇省、上海市という三つの重要な沿岸部地域の指導者を務め、地方行政経験が豊富であると言える。上海市党委員会書記は最高指導部への登竜門であり、江沢民以降、失脚した陳良宇を除いて、全員(江沢民、朱鎔基、呉邦国、黄菊、習近平、兪正声、韓正)が政治局常務委員に昇進している。そのため、李強の党大会での昇進は確実視される。ただし、李強は2022年秋には63歳になり、比較的高齢であるため、定年制ルールが完全撤廃されなければ、第21回党大会には退任する可能性が高い。メディアでは、陳敏爾、李強、李希が次期総理の有力候補とされるが13、2021年11月5日の香港華字紙『明報』は、李強と李希はまもなく北京に異動し、陳敏爾が上海市党委員会書記に移るという観測を掲載した14。これは観測の域を超えるものではなく、2022年2月現在、この人事は実現していない。 

丁薛祥は習近平の側近中の側近である。陳敏爾、李強、李希に比べると目立つ存在ではないが、比較的に若く、習近平との関係も深いため、昇進のチャンスは十分にある。ただ、これまで行政・政府の経験を全く持たないので、仮に政治局常務委員会入りするならば、中央書記処の筆頭書記や中央規律検査委員会書記などの党務に就く可能性が高い。

習近平と近い人物以外にも、胡春華の処遇も注目である。胡春華はかつて共青団中央書記処第一書記を務めた人物であり、胡錦濤と李克強の直系の人脈である。かつては失脚した孫政才と並んで第六世代指導者の筆頭候補であったが、習近平の権力掌握が進んだことで、最高指導者への道は殆ど潰えたと言える。現在、副総理を務めており、次期総理の有力候補である。通常、総理は副総理の中から選ばれるが、現在年齢面で、李克強退任後に総理に昇進できる副総理は胡春華のみである。しかし、全人代法が2021年に改正されたことで、全人代の閉会中に全人代常務委員会が副総理人事を行うことができるようになった。党大会及び2023年春の全人代を控えて、習近平に近い人物を抜擢する可能性があると報じられている15。首相でなくとも、胡春華が最高指導部に昇進できる可能性は十分残されている。

第七世代

第20回党大会では、新たな指導部のみならず、そのさらに先を見据えた若手幹部の処遇も注目である。習近平の留任が既定路線となったことで、胡春華ら第六世代が指導部の中心となる可能性は殆どなくなった。続く第七世代は、1970年代生まれであり、現在、各省レベルの党委員会常務委員やそれに準じるレベルの幹部である。『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』は、代表的な人物を紹介しており、以下の人物が取り上げられている16

劉洪建 (1973年生、雲南省党委員会常務委員、昆明市党委員会書記)

呉浩  (1972年生、江西省党委員会常務委員、組織部長)

費高雲 (1971年生、江蘇省党委員会常務委員、常務副省長)

諸葛宇傑(1971年生、上海市党委員会常務委員、秘書長)

劉強  (1971年生、山東省党委員会常務委員、秘書長)

連茂君 (1970年生、天津市党委員会常務委員、浜海新区党委員会書記)

周紅波 (1970年生、海南省党委員会常務委員、三亜市党委員会書記)

李雲沢 (1970年生、四川省党委員会常務委員、副省長)

夏林茂 (1970年生、北京市党委員会常務委員、教育工作委員会書記)

劉捷  (1970年生、浙江省党委員会常務委員、杭州市党委員会書記)

時光輝 (1970年生、貴州省党委員会常務委員、政法委員会書記)

郭寧寧 (1970年生、福建省党委員会常務委員、副省長、女性)

覃偉中 (1971年生、深圳市党委員会副書記、市長)

周亮  (1971年生、中国銀行保険監督管理委員会副主席)

李欣然 (1972年生、中央規律検査委員会委員)

これらの人物は、まだキャリアの半ばにあり、習近平と李克強、胡春華と孫政才のように同世代の中で抜きん出た存在はまだない。福建省や浙江省、上海市などにゆかりがある人物は多いが、若いため、習近平の直接的な部下であったわけではない。情報も少なく、人脈関係や政策選好についても断定できる段階ではない。ここでは、紹介するにとどめる。仮に習近平が2032年まで、合計四期最高指導者にとどまるとすると、2032年秋には79歳になる。この時、ここで挙げた人物は、50代後半から60歳前後となる。この中にポスト習近平となる存在が現れるかは不透明ではあるものの、最高指導部の有力候補であることは間違いない。




6 なお、各地域の党委員会書記が勤務地の軍の党委員会第一書記を兼任するのは一般的であるが、通常それは公式略歴には記載されていない。習近平のように、軍関係の兼任職を詳細に略歴に記載しているのは、他に類を見ない。

7 西村大輔(2017)「習氏、軍中枢権力固め 旧南京軍区関係、4人」『朝日新聞』2017年10月8日。

8 三者の中で苗華が最高齢だが、中央軍事委員会委員は各軍種司令員より定年が遅い。

9 象徴的だったのは、2014年4月に、軍において高級幹部の学習会が開かれ、そこでの18人もの将軍たちの習近平のリーダーシップを支持する旨の発言が『解放軍報』に掲載されたことである。忠誠の表明であり、習近平の軍における影響力確立の一つのシグナルだったと言えよう。『解放軍報』2014年4月2日。

14 「部分省一把手未調整 或可更上層楼」『明報』2021年11月5日。『明報』は香港でも論調が中立的であり、South China Morning Postと並んで比較的に信頼性が高いとされる。

16 William Zheng "Communist Party rising stars: China's seventh-generation leaders who may eventually reach the top," South China Moring Post, 26 June 2021.




*関連する李昊の論考

「中国共産党第20回党大会と安全保障政策の展望」国問研戦略コメント

『中国共産党新政治局常務委員の"プロファイリング"』日本国際問題研究所、2019

「習近平政権の対外政策におけるエリート政治要因」『中国の対外政策と諸外国の対中政策』日本国際問題研究所、35-43頁、2020

・「3期目をにらむ習近平集権体制の不安」『e-World Premium』第76号、20-23頁、2020

・「全人代の注目人事 中国国家機関の新指導者たち」『外交』第48号、32-37頁、2018

・「最高指導部 政治局常務委員の横顔」『外交』第46号、19-23頁、2017