コラム

『US Report』vol. 5
共和党の外交・安保思想

2015-10-13
高畑昭男 (白鷗大学教授)
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1. 米共和党の外交・安保思想の類型と系譜
 共和党を中心とした米国保守の外交・安全保障をめぐる政策思想は、以下の6つに大別できよう 1

1) 「リアリスト」:いわゆる現実主義穏健派。ニクソン・キッシンジャー型の現状維持や勢力均衡、交渉・妥協を重視し、協調を意識して武力行使には慎重。
2) 「保守強硬派」:国益と自主独立の保持を最重視し、「力による平和」を信奉する。国際協調を軽視し、他国への経済・人道支援、国家建設等に否定的で、保守大衆の感覚に近い。
3) 「新保守主義」:(neo-conservative)1970年代に民主党タカ派の一部が転向。ユダヤ系が多く、強烈な反全体主義・反専制思想に貫かれ、「力と正義」を掲げて米国型民主主義や自由の敷衍が米国と世界の国益と主張する。
4) 「孤立主義者」(paleo-conservative):非介入・孤立主義を掲げ、国際機関・同盟を通じた協調を忌避する。「アメリカ第一委員会」(America First Committee)のように、第二次大戦時には共和党の主流派を占めていた。
5) 「経済孤立主義者」(libertarian, paleo-libertarian):徹底的な「小さな政府」を求め、自由貿易や移民受け入れを支持する半面、対外介入や「世界の警察官」に反対し、北大西洋条約機構(NATO)、日米同盟等の解消を説く。
6) 「宗教保守」(evangelical):宗教的信念から信教の自由、中絶禁止、人身売買等に強い関心を示し、スーダン、中国、北朝鮮等への関与を訴えるが、武力行使には慎重である。――
 第二次大戦期まで共和党では全般的に孤立主義の伝統が強かったが、大戦後~冷戦中期にかけてニクソン外交のようにリアリストが主流となっていった。しかし、「強いアメリカ再生」を掲げて登場した1980年代のレーガン政権を機に、保守強硬派と新保守主義の連合が主流派に浮上し、レーガン軍拡、戦略防衛構想(SDI、後のミサイル防衛に発展)等の対ソ強硬外交を経て冷戦勝利をもたらしたといえる。
 だが、9/11同時テロ後のG.W.ブッシュ政権によるアフガニスタン、イラク戦争を経て保守強硬派と新保守主義は国民世論の支持を失った。オバマ民主党政権下の共和党内ではリアリスト、孤立主義者、保守強硬派等が混在する情勢に至り、いずれが主流派とは言い難い状況にある。

2. 共和党・保守のオバマ外交観と2016年大統領選
 にもかかわらず、「世界の警察官」役を放棄したオバマ政権の外交・安保路線に対し、共和党内では孤立主義者を除いては「アメリカを弱体化させた」「弱いアメリカはかえって敵を挑発し、危機を呼び込む」といった批判や不満の声が強い。とりわけシリア危機や「イスラム国」問題が一つのピークを迎えた2014年夏頃を機に、共和党から大統領選をめざす各候補・陣営では保守強硬路線が目立っている。
 その背景には、民主党リベラルから共和党保守まで米国全体を含めて「強いアメリカ」と「弱いアメリカ」をめぐる葛藤が指摘できる。米政治学者ウォルター・ラッセル・ミードらの分析によれば、米国の外交・安保思想には、①米国の経済権益を軸とする国際システムに中国などの取り込みを図る「ハミルトン主義」、②自由、人権、法治主義等の価値を軸とする国際システム構築をめざす「ウィルソン主義」、③戦争や介入を忌避し、現実的でコスト最小限の外交をめざす「ジェファソン主義」、④国際秩序には無関心で米国の防衛や名誉を重視する「ジャクソン主義」という4つの伝統的類型がある 2とする。共和党からみる限り、オバマ外交は対外関与を最小限にとどめる「ジェファソン主義」的要素と、理想的秩序の建設を求める「ウィルソン主義」的要素が合体した結果、「口では理想を掲げるが、実行手段が伴わず、結果としてアメリカを弱体化させてしまった」とする批判に結びついていると指摘されている 3

3. 大統領選に向けた動き
 2016年に向けた共和党各陣営にほぼ共通して(リバタリアン系を除く)、対外積極関与を訴える保守強硬主義の色彩が目立っているのは、恐らく上記のような事情から「強いアメリカ」の再生を主張するようになったとみてよいだろう。
 また、こうした傾向を支える政策・人材面の重要な要素として、2012年大統領選で敗北したミット・ロムニー共和党大統領候補陣営の外交顧問らが2013年に創設した「ジョン・ヘイ・イニシアチブ」(John Hay Initiative) 4という組織の存在が大きいことを指摘しておきたい。同イニシアチブの創設者はG・W・ブッシュ政権の要職にあった新保守主義系の人々で、約200人の外交・安保専門家を擁し、共和党から出馬をめざすジェブ・ブッシュ、マルコ・ルビオ、テッド・クルス、スコット・ウォーカー、カーリー・フィオリーナ等の主だった陣営に政策的助言や演説草稿作成支援等の手厚い支援を差し伸べており、「共和党陣営は外交・安保政策をアウトソーシングしている」とメディアに皮肉られるほどの活況を呈している。各陣営への助言内容や政策路線をみても、「強いアメリカの再興」「世界の自由を守る戦い」「アメリカの価値と道義の推進」といった新保守主義的な主張が見られるのが大きな特色といえる。
 共和党各陣営の外交・安保政策がどうなっていくかを見る上で、同イニシアチブの動向は極めて注目されよう。ただし、注意すべきは大統領選の現段階では各陣営ともにオバマ外交への対立軸を際立たせる政治的レトリックとして「積極関与、強硬路線」を強調している可能性も考えられることである。大統領本選に進出する候補が最終的にどのような外交・安保路線を打ち出してくるかは未定であり、有権者・世論の対応も含めて慎重にみていく必要があるのはいうまでもない。


1『アメリカ外交の諸潮流』,(国際問題研究所JIIA現代アメリカ8. 2007年)等による先行研究
2 Walter Russell Mead, Special Providence: American Foreign Policy and How It Changed the World, (Routledge, 2002).
3 Walter Russell Mead, "The President Falls Through the Ice," The American Interest, September 13, 2013.
4 "Republican Candidates Outsource Their Foreign Policy," Bloomberg, Aug 14, 2015.