2001年1月のブッシュ共和党政権誕生当初の一時期、同年4月の米軍偵察機接触事故やアメリカによる台湾への武器供与に象徴されるように、米中関係は冷え込んでいた…
2001年1月のブッシュ共和党政権誕生当初の一時期、同年4月の米軍偵察機接触事故やアメリカによる台湾への武器供与に象徴されるように、米中関係は冷え込んでいた。しかし、2001年9月11日の同時多発テロ発生以降、米中両国は、反テロリズム、イラク戦争、さらには北朝鮮の核開発を凍結するための6者協議の実施といった一連の国際問題への対応において安定した協力関係を築くことを重視するようになってきている。
近年、米中両国間では首脳・閣僚級の安全保障、防衛協議、人権対話等の様々な分野における交流が活発化している。また、経済関係では、中国にとって米国が、第1位の日本に次いで第2位の貿易相手国、さらには、米国にとって中国が第4の貿易相手国となる等、米中両国は経済相互依存の度合いを年々深めている。その一方で、2002年には米国の対中国貿易赤字は初めて1000億ドルを突破した。今後、アメリカにとって人民元の切り上げ問題が中国との経済関係の一つの焦点となるだろう。近年、人民元の切り上げ問題のほかにも、米中間において知的財産権保護問題、WTO約束履行問題などが生じてきている。
目下のところ、米中両国が共通の重要な外交課題として取り組んでいるのが北朝鮮の核開発問題である。近年、米中両国は6者協議を通じて、北東アジア地域における多国間安全保障枠組みの主要なプレーヤーとして緊密な連携を行ってきており、そのことが米中両国の関係安定化に繋がってきた側面もある。
とりわけ中国は、2002年10月に北朝鮮の核開発問題が表面化して以来、同問題の解決に乗り出し積極的な仲介外交を展開している。第1回の6者協議(2003年8月27日~29日)開催直前には、6月30日~7月3日の王毅外交部副部長がアメリカを訪問して北朝鮮の核問題への対応に関する米中協議を行った。このことを踏まえて、戴秉国外交部副部長が6者協議実施に向けての調整のためのシャトル外交として、ロシア(7月2日~4日)及び北朝鮮(7月12日~15日)を相次いで訪問した。それに続き、王毅外交部長が北朝鮮(8月7日)を、李肇星外交部長が日本及び韓国(8月10日~15日)を訪問した。このような中国の外交姿勢は、従来、比較的、国際問題に対して受動的な対応を見せてきた姿勢とは異なる様相を呈している。6者協議を円滑に進めるための中国政府関係者によるシャトル外交をアメリカは高く評価している。
北朝鮮の核問題解決のための6者協議は、2003年8月27日~29日に初の会合が北京で実施された後、第2回が2004年2月25日~28日に、第3回が6月23日~26日まで開催された。第4回は9月に行われる見込みである。
北朝鮮による米朝枠組み合意(1994年)の不履行という苦い過去の経験を活かして、アメリカは第2回の6者協議において北朝鮮の「(核兵器の)完全で検証可能かつ不可逆的廃棄(CVID:complete, verifiable and irreversible dismantling)」を求めた。これに対して北朝鮮は核凍結の見返りとして、エネルギー供給や食料支援を行うこと、さらには「安全の保証」を求めている。第3回の6者協議では、アメリカは、北朝鮮の外交姿勢の硬化を避けるべく、敢えてCVIDについては言及しなかったものも、北朝鮮の核放棄の約束と前提として、重油の供給や経済制裁の解除を行うといった具体的な提案を示した。北朝鮮は、アメリカの提案を「建設的」であると一定の評価を下している。だが、核凍結の範囲や核を放棄した場合の検証の方法等をめぐる対立の火種が依然として残っているのも事実である。
さらに、第2回の6者協議開催以降、準備会合として実施されることになった作業部会が2004年5月12日~15日、北京において開催された。6月26日には作業部会の活動原則が取り纏められ、今後、必要に応じて専門家を集めた作業部会を設置して、その討議内容は6カ国のコンセンサスを得た上で本会合である6者協議に諮ることとなった。次回作業部会は9月に予定されている6者協議に先駆けて、8月中旬頃に開催される見込みである。
最近、6者協議を将来的に北東アジア地域における多国間安全保障枠組みとして制度化すべきであるといった声も聞かれる。確かに、目下のところ、アジア太平洋地域の安全保障問題を扱う多国間協議の場は、アセアン地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)のみである。だが、ARFの「A」がアジア(ASIA)ではなく、あくまでもアセアン(ASEAN)であり、コンセンサスを最重要視するASEAN諸国主導であることからしても、北東アジア地域に残存する伝統的な安全保障問題に直接的に関与することには限界があると見るべきである。
北東アジア地域の多国間安全保障枠組みに関して、2004年7月15日、ケリー米国務次官補東アジア・太平洋担当は、上院外交委員会で行った証言のなかで「わたしたちは6者協議の参加国による相互の活発な討議を見てきたが、各国とも6者協議の結末には重大な関心を抱いている。現在は北朝鮮の核問題に焦点を当てているが、将来、それが拡充される可能性があると思う」と述べて、核問題解決後も、6者協議の枠組みを存続させて、北東アジア地域における安全保障対話の場とする可能性を明らかにした。
以上述べてきたように、近年、米中関係は、依然として台湾、人権、チベットといった対立要素を孕みつつも、6者協議の展開にともない、基本的には良好に推移していると言えよう。その一方で、最近、中国が武器禁輸の解除を求めてEU諸国への接近をはかっていることは、米中関係を揺るがし得る懸念材料として特に注視すべきである。2004年5月、EU拡大にともない、加盟国15カ国から25カ国となった。EU拡大と前後して、中国は天安門事件以来実施されてきたEU諸国による武器禁輸の解除に向けて積極的なロビー活動を行っている。これに対して、EU内ではフランスを中心として、中国に対する武器禁輸解除論が台頭しつつある。目下のところ、人権問題等を理由に、EUは対中国武器禁輸解除を一応のところ自制してはいるものの、近い将来、仮に中国軍が最新鋭の欧州製の武器を手にすることになった場合、アジア地域全体の軍事バランスを揺るがす懸念も出てくるだろう。イラク復興をめぐってアメリカと欧州との関係のきしみが指摘されるなか、このような中国の動きは米中関係を悪化させかねない不安定要因となっている。