コラム

『China Report』Vol. 23

習近平政治の検証⑤:国家監察委員会

2018-03-30
角崎信也(日本国際問題研究所研究員)
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はじめに

 2012年11月の中国共産党第18回全国代表大会(18全大会)開催から17年10月の19全大会開催、および18年3月の第13期全国人民代表大会(全人代)第1回会議までのわずか5年強の間に、習近平政権は、習総書記の強力なリーダーシップの下、中国の政治構造を大きく変容させてきた。その最大の特徴は、改めて指摘するまでもなく、中国共産党中央、とりわけその「核心」たる習に対する政策“決定”権限の集中である1。だが、むろん、習政権が実施している政治構造改革は、この一点のみに集約されるのではない。同時に注目すべきは、政策“執行”レベルにおける監視・監督が強化されているという点にある。習政権が発足以来大規模に展開してきた「反腐敗闘争」や、同じく一貫して強調し続けている「法治中国」建設は、そのための施策の一環としても位置づけられる2。そして、18年3月の全人代において正式に決定された「国家監察委員会」の設立は、こうした試みの延長線上にあり、その「制度化」の一環と見ることができるだろう。
 そこで本稿では、新たな国家機構として設立された監察委員会に焦点を当て、その職能・特徴と、設立の背景を論ずる。その上で、監察委員会の意義を整理し、またその限界とリスクを考察する。

1.監察委員会の職能

 中国において「監察」の名を冠した機関が設置されたのは、むろん、2018年3月が初めてではない。党の機関としては、古くは1927年の5全大会において初めて「中央監察委員会」が設立された。党の監察委員会は28年6月の6全大会においていったん廃止されたが、45年4月~6月の7全大会において再度設置され、中華人民共和国建国後の49年11月に「中央紀律検査委員会」に改組されるまで存続した3。その後、55年3月に開催された党全国代表会議において再び「中央監察委員会」の名称が復活し、「文化大革命」期に入って機能を停止(69年4月正式廃止)するまで活動した4。この党の機関としての「監察委員会」は、現在(1978年11月~現在)の「中央紀律検査委員会」の前身である。なおこの変遷は、「監察」という言葉と「紀律検査」という言葉の間に、本来大きな語義的な差異がないことを示唆している。
 国家機関としての「監察」機関は、1949年9月の中国人民政治協商会議(政協)第1回全体会議において設置が決定された「人民監察委員会」が最初である。人民監察委員会は、その後54年の9月の「中華人民共和国憲法」成立とともに「監察部」に名称を変更し、国務院の一下部組織として、59年4月に撤廃されるまで活動した。監察部は、86年12月の6期全人代常務委員会第18回会議において復活し、2018年3月まで監察の職務を執行してきた5
 第13期全人代第1回会議において設置が決定された「国家監察委員会」は国家系統の機関であり、これまで監察部が担ってきた職責を引き継ぐものである。ただし、過去の監察機関と大きく異なる点は、それが、国務院から独立した機関として、国務院、最高人民法院、最高人民検察院と同レベルに配置されたことにある(図1)。

図1 中国国家機構(中央レベル)における監察機関の位置


         出所:筆者作成

 この国家監察委員会および地方の各級監察委員会が担う職責は、同じく2018年3月の全人代にて採択された「中華人共和国監察法」によれば以下のとおりである6

 

(一)公職人員の、法に基づく職務の履行、公平な権力行使、清廉な政治・業務への従事、および道徳品行の状況に対する監督・検査。(=「監督」)

 

(二)汚職・贈収賄、職権濫用、職務怠慢、権力を使用したレントシーキング、便宜供与、私情のための不正および国家資材の浪費などの職務違法・職務犯罪容疑に対する調査。(=「調査」)

 

(三)法に違反した公職人員に対する、法に基づく政務処分の決定、職責の履行のために力を尽くさず、職責を果たさない領導人員に対する問責、および職務犯罪容疑の人民検察院への公訴の提起。(=「処置」)

 ここに示されている通り、監察委員会に直接帰属する主たる職責は、汚職・贈収賄を中心とした違法行為を取り締まることにある。他方、「監察法」の発効を以て廃止された「中華人民共和国行政監察法」は、監察部などの過去の監察機関の主たる職責が「行政紀律」の取り締まりにあることを記していた(第18条)7。「行政紀律」を取り締まることとはすなわち、「中央の大政方針を、割り引くことなく貫徹・実行する状況に対する監督・査察に注力し、…執行に力を入れない者、自分勝手に行動する者に対しては、厳粛に問責し、政令が滞りなく実行されることを確保する」ことを意味する8。このように、過去の監察機関は、法律に違反する腐敗行為だけでなく、必ずしも違法性を伴わない、下級幹部による中央ないし上級党・政府組織の指示・命令からの逸脱行為(=エージェンシー・スラック9)に対する監督をその職責としていた。したがって、新旧「監察法」の規定にのみ基づいて言えば、現在の監察機関の(法規定上の)職責は、過去の監察機関よりもむしろ限定されていると評価することが出来よう10
 ただし注意すべきは、監察委員会の人員が実際に担う職責は「監察法」に規定されているもののみに限られるのではないということである。なぜなら、各級監察委員会は、同級の紀律検査委員会と人員・機構を同じくする「業務合同(合署辦公)」、「党政合一」の機関として設立されており11、したがって当然、「紀律検査と監察の二つの職責を履行する」ことになるからである12
 監察委員会の主な監督の対象が「法」にあるとことに比して言えば、紀律検査委員会の対象は「紀律」ないし「政治」にある。「中国共産党党内監督条例」によれば、「紀律検査機関は、党の政治紀律と政治規則を首位に置かねばならず、上に政策があれば下に対策がある、命令があっても実行せず、禁じても止めない、口先だけで言うことを聞く、面従腹背をやる、徒党を組む、派閥を結成する、組織をだます、組織に対抗するなどの行為を断固として是正し、取り締まらなくてはならない」13。この「政治紀律」14遵守の状況の他、党内監督の主たる内容には、「中央および上級の党組織が割り振った任務の完成の状況」が含まれる(第5条)」15。「監察法」に対する公式の「釈義」によれば、「紀律検査機関の監督と監察機関の監督は、指導思想・基本原則において高度に一致しており」、「党内監督の内容、方式および要求は、すべて国家監察の監督にも適用される」16。したがって、監察委員会が実際に監督の対象とするのは、汚職・贈収賄行為などの狭義の腐敗行為に限定されるのではなく、党中央の示す命令から逸脱するあらゆる行為(エージェンシー・スラック)を含むものと考えられる。
 同時に注目すべきは、上記に示唆される通り、政策執行過程に対する広範囲の監督・問責の権限は、監察委員会そのものに付与されているというより、監察機関が、党の紀律検査委員会と一体となることによって行使し得る仕組みになっていることである。こうした制度設計は、国家機関である監察委員会が強大な権限を有して、党と国家の領導・被領導の関係を逆転させ、党の支配を動揺させるリスクを排除するための配慮であるだろう。この点は、「監察法」第2条に「中国共産党の国家監察工作に対する領導の堅持」が明記されていること17、および、国家監察委員会主任として、中央紀律検査委員会書記の趙楽際(政治局常務委員)の部下で同副書記である楊暁渡(政治局委員)が任じられたことにも見て取れる18

2.監察委員会の特徴

 監察委員会が、紀律検査委員会と事実上一体となって両方の職責を担うという点は、中国の現行の監察体制を理解する上で極めて重要な事実である。ただし、監察機関と紀律検査機関が人員を共有し、業務を合同化するということ自体は、1993年よりすでに実施されており19、この点に今回の監察体制改革の特徴があるのではない。では、今回の監察委員会の設立は、どのような意味において過去の監察体制からの「強化」を示しているのか。
 第一は、党・国家が日常的に監察する対象がより拡大したことである。これまでの監察機関は、各級政府(国務院および各級人民政府)に直属していたため(図1)、自身より上級に位置する政府幹部(中央の監察部の場合国務院の中枢幹部、地方の監察庁の場合その地方の党・政府指導者)を有効に監察することができず、また、法院、検察院、人代、政協は監察の対象に含まれていなかった。むろんこれら機関の多くの人員は、紀律検査委員会の監督の対象に含まれてはいたが、紀律検査委員会の職責はあくまで「党内監督」にあるため、非党員幹部は除外されていた20。これに対して新設の監察委員会は、「公権力を行使するすべての公職人員に対する監察のすべて」を担う機関として21、政府、法院、検察院、人代、政協、および党機関に所属するすべての幹部を監察対象に含む。それのみならず、民主諸党派機関、国有企業、村民委員会等の大衆自治組織、および各種公益団体の幹部のすべても監察の対象となる(第15条)22。この際、改めて注意すべきは、監察機関は、紀律検査委員会との業務合同体制の下で、常に党の領導下にあるということである。すなわち、監察機関による監察対象の拡大は、党による(党外を含む)あらゆる公職人員に対する監督管理の拡大を意味することになる23
 第二は、監察・紀律検査機関以外の機関にも分散していた汚職・贈収賄取り締まり部門が、監察委員会に集約されたことである。今回の改革によって、2007年に設置されていた国家預防腐敗局は統合・廃止となり、検察院の汚職・贈収賄取り締まり部門も監察委員会へ移管された。これによって、腐敗問題に対処するための人員・資源の分散が解消され、それらのより効率的かつ統一的な運用が可能になるのみならず24、一部で存在していた25、腐敗監督責任の分散に起因する職責回避(あるいは押し付け合い)の傾向が改められることになると考えられる。
 第三は、監察機関の監察対象からの独立性が強化されること、あるいは、監察機関(および紀律検査機関)が、「内部(同体)監督」者ではなく、「外部(異体)監督」者としての性格を強めることになる、という点である26
 中国国内の多くの研究が指摘している通り、これまで中央・地方各級の監察機関は、とりわけ同級の党・政府機関の領導幹部に対する監察において担うべき職能を発揮できず、有名無実と呼ぶべき状態にあった27。その主たる原因は、図1に示した通り、監察機関が、政府機関の一部門として、各級政府の下部組織に位置づけられていたことにある。監察機関の人事・財政に関する決定権限は主として同級の党・政府領導幹部によって握られており、そのような状況下において「監察機関が所属する政府あるいは政府部門の影響と統制を抜け出すことは不可能」であった28
 このことは同時に、党の紀律検査機関があるべき機能を発揮できていなかったことを意味するだろう。監察機関と紀律検査機関は事実上一体化し、業務を共有して活動しているため、監察機関の機能不全とは、紀律検査機関の機能不全と同義と考えられるからである。紀律検査機関は党の機関であり、制度上同級政府機関から独立しているものの、監察機関と機構と人員を同じくする以上、おそらくその影響を回避することは困難であったと考えられる。事実、紀律検査機関が、同級の党政領導者を監督する職責を十分に発揮してこなかったことも、多くの研究者や記者によって指摘されている29。例えば黄武らによれば、当地に深刻な不正・腐敗問題が発生している場合も、同地の紀律検査委員会はそれを明確に把握しておらず、また調査しようともしなかった30。2016年10月に採択された「中国共産党党内監督条例」が、「同級の党委員会の職責の履行、権力行使の状況に対する監督を強化する」(第26条(1))ことを強調したことは、そうした状況が広く存在したことの証左でもあるだろう31。そして、そうした状況が発生していた原因としてやはり、紀律検査委員の人事や福利厚生に関わることの全てが、同級の党・政府によって握られていたことが指摘されているのである32
 おそらくはこうした状況に対処するため、各級監察機関は同級政府と同格に格上げされ、またこれに伴い、「行政監察法」における、「監察機関は同級人民政府と上一級監察機関の両方に責務を負う」(第7条)との規定は33、「同級の人民代表大会、その常務委員会および上一級の監察委員会に対して責を負う」(第9条)との規定に改められた34。中国において人代(議会)は、制度上、政府機関、司法機関、検察機関等の上位に位置づけられているが(図1)、よく知られているように、同級政府機関に比して実質的な権限は弱い。したがって今回の改革以後、実際上、各地方監察委員会は、上級の監察委員会の命のみに従うことになると考えられる。事実この規定は、「釈義」によれば「上下級の紀律検査委の間の領導・被領導関係と整合する」ものである35。また第10条には、「上級の監察委員会が下級の監察委員会の工作を領導する」ことが明記されている36。「釈義」が示唆するところによればこの規定は、習近平が度々強調してきた「上級紀律検査委の下級紀律検査委に対する監督を強化する」ことに「法的保障」を提供するためのものである37。これらの規定からも看取されるように、監察委員会の同級政府からの自立化には、党紀律検査委員会の同級党委員会からの自立性を高める効果も期待されている。これらの法規定により、監察機関、ひいては紀律検査機関に対する、同級党・政府の影響を低めることによって、両機関の「外部監督者」としての性格を強化しようとしている点に、今回の改革の大きな特徴があると言えよう。
 
3.監察体制改革の背景

 ではなぜ、上記のような監察体制強化のための改革が実施されねばならなかったのか。外部的要因と内部的要因に分けて概括すれば、以下の3点に整理できよう。
 外部的要因の一つは、政策執行のプロセスにおいて、党中央の決定が実行されず、結果様々な重要な改革が停滞する状況が広く問題視されるようになっていたことである。とりわけ胡錦濤政権期において、また習政権期に入って以降も、中央の政策が、地方の面従腹背により十分に貫徹されず、「政令が中南海を出ない」と揶揄される状況が生まれていたことは、多くの論文や報道が指摘してきたとおりである 38。中でも、大きな問題の一つとなってきたのは、地方党・政府幹部と地元企業との癒着構造(=「官商一体」構造)の解体が、地方幹部による事実上の政策軽視や不作為に直面し、遅々として進まなかったことである39。地方幹部にとって、地域経済に介入するための権限や地元企業との関係は、自身の業績を高め、昇進を獲得する手段であると同時に、私的な経済的利益を得る重要な手段でもあっため、彼らはこうした「既得権益」を容易に手放そうとはしなかった40。この結果、腐敗問題の深刻化に歯止めがかからず、また政権の最重要課題の一つであるところの経済発展パターンの転換が遅滞した41。ただし、こうした「エージェンシー・スラック」問題はおそらく「地方」のみに存在したのではない。政策執行を統括すべき国務院の機関が、既得権益に縛られ、改革の積極的な推進者となり得なかったことも指摘されている42
 習近平は、総書記に就任する以前よりこの問題を重視していた。習は、2011年春に中央党校において「カギは実行に在る」と題した講話を行い、「幾つかの地方、部門及び単位は、中央の方針・政策及び重大差配に対し、口頭で述べ、文件に記すのみで、貫徹履行が不十分であり、中央が再三にわたって命令し警告していること、明文を持って禁止していることに対して、依然として一向に意に介さず自分のやり方を貫き、何度禁じても止めない」こと指摘している43。総書記就任後も、習はしきりに「一分部署、九分落実(一割は指令に、九割は実行にある)」を強調し、下級幹部に対し中央の指示の着実なる執行を求めてきた44。この目的を達するためには、とりわけ紀律検査機関・監察機関を通した、政策執行を担う国務院および地方幹部に対する監視・監督の強化が不可欠であった45。別稿で論じたように、「反腐敗闘争」がそのためのキャンペーン的施策であったとすれば46、監察委員会設置はその効果を定着させるための制度的施策であると位置づけられよう。
 外部的要因のもう一つは、とりわけ胡錦濤政権期以来、党の一体性の弱化が強く懸念されていたことである47。この問題への対処は、「最大の腐敗」であるところの「政治腐敗」の問題として、習近平政権下において最も重要視されてきた。王岐山(前中央紀律検査委員会書記・現国家副主席)によれば、「政治腐敗」とは、「利益集団を結成し、党と国家の権力を簒奪しようたくらむこと」、および「山頭主義(派閥主義)・宗派主義(小集団主義)で非法組織活動をやり、党の集中統一を破壊すること」を指す48。こうした事態が実際に生じていたことは、2016年11月に公布された「新情勢下の党内政治生活に関する若干の准則」の序文にも見て取ることができる。そこには、高級幹部を含む一部の党員・幹部が、「ある時期以来…党に忠誠を誓わず、紀律をしっかりと守らず、…個人主義をやり、分散主義をやり、自由主義をやり、好人主義(事なかれ主義)をやり、宗派主義をやり、山頭主義をやり、拝金主義をやっている」結果、「党の団結と集中統一が深刻に破壊されている」こと記されている49。中国において「腐敗」が、上記のような「政治」状況を含む概念であることを改めて想起すれば、監察委員会にもそれを防ぐための監視・監督が求められていることは明らかである。紀律検査委員会・監察委員会の機関紙の記事の言葉を借りれば、「国家監察体制改革を深化させることは、党中央の権威と集中的統一領導を守るための重要な制度的保障である」50
 第三に、内部的な要因として、これらの外部的要因に起因にする、幹部に対する監視・監督強化の必要性に比して、上記の通り、現実の監察・紀律検査機関の機能があまりに弱体であったということがある。
 他方、とりわけ習近平政権期以降、紀律検査機関・監察機関による日常的な監督制度が機能しない状況下において、その役割をより非常態的な形で代替してきたのは、「巡視組」や派出駐在機構である51。とりわけ、2013年4月以来「反腐敗のための“利剣”」として活動してきた巡視組は52、上級機関が下級機関に対して派遣するものであり、監察対象者が所属する党・政府機関の影響を受けることなく調査・監督を実施してきた。中央・省部級レベルについて言えば、取り調べを受けた幹部の実に60%以上が、巡視組によって問題を指摘された者であった53。李永忠(中国紀検監察学院元副院長)らの指摘によれば、この巡視組によって「外部監察」の有用性が確認されたことが、監察委員会設置の大きな動因の一つになったという54。すなわち、監察体制改革の主たる目的の一つは、監察機関を「委員会」に格上げすることで同級党・政府から自立させ、以て監察機関、ひいては紀律検査委員会が本来発揮すべき常態的な監視・監督機能を実効化することにあったと言える。

おわりに
 
 本稿の主張は次の3点に集約されよう。第一に、2018年3月に正式決定された国家監察体制改革の主たる目的の一つは、監察・紀律検査機関を対象から分離し、その「外部性」を高めることによって、両機関による日常的な監視・監督機能を実効化することにある。これまで監察機関は同級政府の下部組織に過ぎず、また党紀律検査機関もそれと事実上一体化していたがゆえに、同級党・政府領導幹部に対してその職能を実行することは困難であった。それゆえ、「反腐敗闘争」などの活動は、各レベルに常設の機関ではなく、巡視組などの臨時機関に依存することになっていた。監察体制改革の主旨の一つは、各級に常設されている監察・紀律検査機関の地位を引き上げることでこうした状態を是正し、両機関をして、その本来の職能を日常的に発揮せしめることにある。
 第二に、この監察体制改革によって日常的な監視・監督対象を拡大させ、その機能を強化させることになるのは、実際上、党の紀律検査委員会である。監察機関の格上げは、それと人員・機構を共有する紀律検査委員会の監察対象からの自立性強化を同時に意味し、またおそらく後者の方にその主旨がある。監察委員会という文字通りの「党政合一」機関の機能性強化によって、「党政軍民学の各方面、東西南北中の一切を党が領導する」(総網)ことを確保することにこそ55、監察体制改革の目指すところがあるだろう。このことは、「監察法」総則の釈義において、国家監察体制改革の目的として第一に「党の、、反腐敗工作に対する統一領導を強化し、集中的に統一された、権威ある高効率の監察システムを打ち立てること」(傍点筆者)が挙げられていることにも見て取れる56
 第三に、監察機関が、紀律検査委員会と事実上一体化することで担う職能は、汚職や贈収賄などの狭義の腐敗に限定されるのではなく、政策執行過程全般にわたる監視・監督である。中国共産党史上に存在してきたあらゆる監察・紀律検査機関は、上級党・政府組織より出された指令の着実な執行に対する監督や、党のイデオロギーに反する発言や行動に対する調査をその職責としてきた57。この点は、現在の紀律検査委員会にもむろん引き継がれているし、また、その紀律検査委員会の職能が「適用」される現在の監察委員会も同じである。こうした広範な監視・監督の機能を担う機関の機能性強化が求められた背景には、「エージェンシー・スラック」の深刻化、および党の一体性弱化に対する中央指導部の強い危機感がある。
 歴史的に見れば、これらの点の体制構造的な意義は深遠である。なぜなら、「緩い集権制」58とも表現された比較的ソフトな監視・監督制度の下59、政策執行を担う各部門や地方の幹部が、政策の解釈や執行形式・順序等において大きな裁量権を有しているという点にこそ、中国政治構造上の大きな特徴があったからである60。とりわけ「改革開放」以降、各地方幹部は、その大きな裁量権を駆使して(ときに当時の政策範囲や法律を逸脱する形で)イノベーティブな経済発展方式を次々に打ち出し、それは実際に中国の急速な経済成長を牽引してきた61。中国は権威主義体制を敷く国家であるが、地方の実践が中央の決定に先行することが多々あり、その意味において、部分的に下意上達的で、「分権的」であった。しかし、習近平政権下で実施されてきた、「反腐敗闘争」や監察体制改革に代表される一連の施策は、その方向性として、下級幹部の政策執行に対する監視・監督をより厳格にすることで彼らの自由裁量権を大幅に縮小し62、以て、文字通り「集権的」な上意下達型の政治構造を作り上げようとするものである63。習政権下において中国の政治構造は明らかに、(現実は別として少なくともその政策的意図としては、)「緩い集権性」から「きつい集権性」へ、「曖昧な制度」64から「リジッドな制度」へと、その姿を変えつつある。
 ただしむろん、政策執行過程に対する監視・監督の強化がこのまま直線的に進展していくことが約束されているわけではない。共産党一党独裁体制が敷かれている限りにおいて、そうした改革の深度と効能は限定的なものにならざるを得ない。
 第一に、上記した監察委員会・紀律検査委員会の「外部性」には構造的な限界がある。両委員会の同級党・政府からの自立性が高められているとはいえ、各級の紀律検査委員会書記(地方レベルにおいては監察委員会主任を兼任)は同級党委員会常務委員でもあり、したがって監察対象の内部に位置している。また、「党規約」には依然として、「紀律検査委員会は同級の党委員会と上級の紀律検査委員会の二重指導の下で活動を行う」(第45条)との規定が保持されており、同級党委の同級紀律委員会に対する影響力は排除されていない65。この意味において、監察体制改革は言わば「中途半端」なものであり、監察・紀律検査機関が、同級党指導者に対して真にその職能を果たし得るかという点は依然として不透明である。しかし、監察・紀律検査機関を監察対象から完全に独立させた場合、それは党の中に別の強力な権力体系を形成することと同義である。そうなれば、党の一体性はむしろ損なわれることになるだろう。政治権力に対する監視・監督の基盤を民衆に置かない一党独裁国家において、監察者と被監察者の癒着を完全に回避することはそもそも不可能である。
 第二に、上記の問題とも関連するが、監察・紀律検査機関の権限が強化されるほどに、彼ら自身をいかに監察するかということが問題になる。監察委員会は人代の下部に置かれており、その権限の行使は制度上「人民」によって監督されることになるが、改めて指摘するまでもなく、人代にその機能を期待することは難しい。したがって、監察・紀律検査機関の暴走を防ぐために、同級・上級の党委員会による監督が不可欠となるが、それが強調されるほど、監察・紀律検査機関の「外部性」が損なわれるというジレンマに陥る。
 かつてスターリンは、労働者・農民査察官=ラブクリン(Rabkrin)を掌握し、幹部の監察に対する権限を一手に握ったことを背景に、最高権力者の座に昇りつめた66。「反腐敗闘争」が習近平の権力強化を可能にしたように、監察の権限を掌握することは事実上、党の組織(人事)に関わる権限を保有することと同義となり得る。ソ連共産党に学んで監察・紀律検査機関を設立した中国共産党は、それが、野心のある者にとって政治権力を奪取する極めて有効な手段となり得ることをよく理解しているはずである。1959年に監察部がいったん廃止されたことも67、党の紀律検査委員会が大きな存在感を示してこなかったことも68、根源的には、監察・紀律検査機関とその幹部が独立的で強力な権力を握ることのリスクが共有されていたからだろう。政策執行過程に対する厳格な監視・監督は、必要な改革の実行と党の一体性確保のために不可欠である一方、強力すぎる監視・監督権限はむしろ党の一体性を破壊する最大の脅威となる。共産党が一党独裁体制を取る限りにおいて、このジレンマから抜け出すことは不可能である。その意味では、監察・紀律検査機関の一見して中途半端な「外部性」は、中国の政策執行幹部に対する監視・監督強化の限界を示すものでもあるだろう。
 



 
1 習近平政権期における総書記への権力集中の程度と背景については、拙稿「習近平政治の検証④:集権のジレンマ―習近平の権力の現状と背景(上)―」『China Report』Vol. 8(2018年2月16日掲載)http://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=277(最終閲覧:2018年3月26日)、同「習近平政治の検証④:集権のジレンマ―習近平の権力の現状と背景(下)―」『China Report』Vol. 9(2018年2月16日掲載)http://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=278(最終閲覧:2018年3月26日)を参照されたい。
2 拙稿「習近平政治の検証③:反腐敗」『China Report』Vol. 6(2017年3月31日掲載、11月10日改稿)http://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=267(最終閲覧:2018年1月18日)、同「なぜ『法治』か?―中国政治における第18期4中全会の位相―」『東亜』2015年8月号(No.578)を参照されたい。
3 王謙「浅析中共五大産生的中央監察委員会」『党的文献』2010年第6期(2010年)他。
4 王毅「新中国成立后党的紀検監察制度的演変」『党史博覧』2017年11期(2017年)他。
5 王毅「新中国成立后党的紀検監察制度的演変」『党史博覧』2017年11期(2017年)他。
6 「中華人民共和国監察法」(2018年3月20日採択)http://www.ccdi.gov.cn/fgk/law_display/6340(最終閲覧:2018年3月29日)。
7 「中華人民共和国行政監察法(2010年修正)」http://www.ccdi.gov.cn/fgk/law_display/5(最終閲覧:2018年3月29日)。
8 李克強「対腐敗行為和腐敗分子零容認、出重拳」『新華網』2014年2月11日、http://news.xinhuanet.com/politics/2014-02/11/c_119289258.htm(最終閲覧:2017年12月4日)。また「行政監察法」(2010年改訂)は、その第1条に、「監察工作を強化し、政令が滞りなく実行されることを保証し、行政紀律を保護し、廉政建設を促進し、行政管理を改善し、行政効能を向上させること」に本法制定の目的があることを記している。
9 エージェンシー・スラックとは、本人(Principal)よりも情報面で勝る代理人(Agent)が、本人の利益にならない行動をとることを意味する。この場合、統治者の決定を代理的に執行するエージェントが、統治者の示した目的や戦略とは異なる目的を追求することを指す。曽我謙悟『行政学』有斐閣、2013年、22-32頁を参照。
10 この点、例えば、上海社会科学研究院法学研究所の魏昌東は、国家監察体制改革を試験的に実施するに際し、2016年12月に採択された「北京市、山西省、浙江省において国家監察体制改革の試点工作を展開することに関する決定」において、監察委員会の監督権限が、合法性、清廉性、道徳品行の「腐敗」関連項目に限定されていることを問題視していた。魏の主張は以下のようなものである。腐敗行為は権力濫用の極端な表れの一つにすぎず、その形態の全てではない。だがこの規定では、監察機関は、権力濫用のごく一部を監督できるに過ぎないことになる。行政監察の重要な職能とは本来、公職者の適切な職責履行を督促し、行政効率を高め、人民の合法的な権益を保障することであるから、したがって監察委員会の職責はより広義のものに改められねばならない。魏昌東「国家監察委員会改革法案辨正:属性、職能与職責定位」『法学』2017年第3期(2017年)。魏のこのような指摘は一面で正しいが、しかし二つの点を見逃している。すなわち、後述するように、党の紀律検査委員会との「業務合同」化により、監察機関は事実上紀律検査委員会の職能を「共有」していること、および、監察委員会自体の職責が広域化すれば、その分党と国家の間の領導・被領導関係が動揺するリスクが高まるということである。したがって、魏の指摘した監察委員会の職責規定の「欠陥」は、むしろ意図的に準備されたものと見るべきだろう。
11 「反腐敗闘争圧倒性態勢已経形成(在国新辦新聞発布会上)」『人民日報』2017年1月10日。「国家監察体制改革試点工作綜述」『先鋒隊』2017年12月号下旬刊(2017年)、16頁。
12 「中共中央印発≪深化党和国家機構改革法案≫」『人民日報』2018年3月22日。同法案は、監察委員会の職責として最初に、「党規約とその他の党内法規を守り、党の路線・方針・政策および決議の執行状況を検査し、党員領導幹部の権力行使に対して監督を行う」ことを記ししている。
13 「中国共産党党内監督条例」(2016年10月27日採択)http://www.ccdi.gov.cn/fgk/law_display/6331(最終閲覧:2018年3月29日)。また、18全大会における中央紀律検査委員会の報告には、「党の路線・方針・政策と中央の重大な決定・手配の執行状況の監督・検査を紀律検査・監察機関の最重要の職責として、党と国家の重大決定、重大工作、重大活動、重大事件と適時に足並みをそろえ、これらに積極的に参与し、服務、監督、保障工作を適切にしっかりと実行し、中央の決定・手配が着実に実行され、政令が滞りなく行き渡ることを確保する」と明記されている。「中共中央紀律検査委員会向党的第十八次全国代表大会的工作報告」『人民日報』2012年11月20日。
14 習近平によれば、「党の紀律を厳正にするということはすなわち、主として政治紀律を厳正にするということ」であり、「党の政治紀律を遵守することの最も核心的なことは、党の領導を堅持し、党の基本理論、基本路線、基本綱領、基本経験、基本要求を堅持し、党中央との高度の一致を保持し、中央の権威を自覚的に維持するということである」。それには例えば、「地方と部門の保護主義、本位主義を防止しなければならず、“上に政策あれば、下に対策ある”ことを絶対に許さず、命令があっても実行せず、禁止しても止めないことを絶対に許さず、中央の決定・手配を、割り引いたり、選択したり、融通を利かしたりすることを絶対に許してはならない」ことも含まれる。習近平「厳明政治紀律、自覚維持党的団結統一」(2013年1月22日)『十八大以来重要文献選編(上)』中央文献出版社、2014年、131-132頁。
15 「中国共産党党内監督条例」(2016年10月27日採択)http://www.ccdi.gov.cn/fgk/law_display/6331(最終閲覧:2018年3月29日)。なお、「党内監督の主要内容」は次の8項目で構成されている。すなわち、(1)党章党規の遵守に関する情況、(2)党中央集中統一領導を守り、政治意識、大局意識、核心意識、看斉意識を堅固に樹立し、党の理論と路線・方針・政策を貫徹実行し、命令があれば必ず執行し、禁じられれば必ずやめることを確保することに関する情況、(3)民主集中制を堅持することに関する情況、(4)全面的に厳格に党を治める責任を実行し、党の紀律、特に政治紀律と政治規則を厳格にし、党風廉政建設と反腐敗工作の情況を推進することに関する情況、(5)中央の発行規定精神を着実に実行することに関する情況、(7)清廉にして自信を律し、公平に権力を行使することに関する情況、(8)中央および上級の党組織が割り振った任務の完成情況、である。
16 中共中央紀律検査委員会・中華人民共和国国家監察委員会法規室編著『≪中華人民共和国監察法≫釈義』中国法政出版社、2018年、90-91頁。
17 「中華人民共和国監察法」(2018年3月20日採択)http://www.ccdi.gov.cn/fgk/law_display/6340(最終閲覧:2018年3月29日)。
18 なお、省、市、県の地方レベルにおいて、紀律検査機関と監察機関のトップは同一人物によって担われている。
19 袁曙宏「深化国家監察体制改革的四重意義」『中国紀検監察雑誌』2018年第5期(2018年)http://zgjjjc.ccdi.gov.cn/bqml/bqxx/201803/t20180317_166569.html(最終閲覧:2018年3月26日)。
20 なお、公務員全体の内党員が占める割合は80%、県処級以上の領導幹部の内党員の占める割合は95%以上である。中共中央紀律検査委員会・中華人民共和国国家監察委員会法規室編著『≪中華人民共和国監察法≫釈義』中国法政出版社、2018年、34頁。
21 王岐山「推動全面従厳治党向縦深発展 以優異成績迎接党的十九大召開―在中国共産党第十八届中央紀律検査委員会第七次全体会議上的工作報告」(2017年1月6日)『人民日報』2017年1月20日。
22 「中華人民共和国監察法」(2018年3月20日採択)http://www.ccdi.gov.cn/fgk/law_display/6340(最終閲覧:2018年3月29日)。
23 庄徳水「国家監察体制改革的行動邏輯与実践方向」『中共中央党校学報』第21巻第4期(2017年8月)、82頁;Willy Lam, “At China’s ‘Two Sessions’, Xi Jinping Leaves His Mark on the Party State” China Brief, Vo.18, Issue 5 (Mar. 26, 2018).
24 「国家監察体制改革試点工作綜述」『先鋒隊』2017年12月号下旬刊(2017年)、16頁;袁曙宏「深化国家監察体制改革的四重意義」『中国紀検監察雑誌』2018年第5期(2018年)http://zgjjjc.ccdi.gov.cn/bqml/bqxx/201803/t20180317_166569.html(最終閲覧:2018年3月26日)。
25 鄭智超「建立党統一領導下的反腐敗工作機構―従制度設計層面探析国家監察体制改革」『厦門特区登校学報』2017年第6期(総第158期)(2017年)、18頁他。
26 呉建雄「監察委員会的職能定位与実現路径」『中国党政幹部論壇』2017年2期。
27 王瑩「我国行政監察組織面臨的問題及解決辦法」『理論視野』2010年第10期(2010年)、43頁;王春業・王晨洋「論監察委員会体制的異体監察模式」『天津行政学院学報』第19巻第5期(2017年9月)、49頁他。
28 王瑩「我国行政監察組織面臨的問題及解決辦法」『理論視野』2010年第10期(2010年)、44頁。
29 黄武・余哲西「如何加強紀委対同級党委和党委委員的監督?堅持挺紀在前用担当体現忠誠」『中国紀検監察』2016年第22期、30頁;また滕明政(北京師範大学マルクス主義学院講師)によれば、当地で重大な問題が発生している場合も、「紀律検査委が主として同級の党委の領導を受ける体制の下、敢えて党委を超えて上級の紀律検査委に報告する紀律委領導はいなかった」。滕明政「十八大以来党内監督理論与実践研究綜述」『理論与改革』2017年第6期(2017年)、124頁。
30 黄武・余哲西「如何加強紀委対同級党委和党委委員的監督?堅持挺紀在前用担当体現忠誠」『中国紀検監察』2016年第22期、30頁。また滕明政によれば、「紀律検査委が主として同級の党委の領導を受ける体制の下、敢えて上級の紀律検査委に報告する者はいなかった」。滕明政「十八大以来党内監督理論与実践研究綜述」『理論与改革』2017年第6期(2017年)、124頁。
31 「中国共産党党内監督条例」(2016年10月27日採択)http://www.ccdi.gov.cn/fgk/law_display/6331(最終閲覧:2018年3月29日)。
32 徐理響「詩論中国共産党紀検制度的改革和改善」『政治学研究』2014年第1期(2014年)、18頁。および、黄暁輝「加強紀委対同級党委的監督」『理論探索』2015年第6期(総第216期)(2015年)、49頁。徐によれば「その結果党内監督の重点対象が有効に監督されず、『反腐敗』の有効性は大幅に割り引かれた」のであった。
33 「中華人民共和国行政監察法」(2010年6月25日修正)http://www.ccdi.gov.cn/fgk/law_display/5(最終閲覧:2018年3月29日)。
34 「中華人民共和国監察法」(2018年3月20日採択)http://www.ccdi.gov.cn/fgk/law_display/6340(最終閲覧:2018年3月29日)。なお、第4条には「監察委員会は法律の規定に基づき独立して監察権を行使し、行政機関、社会団体および個人の干渉を受けない」ことも明記されている。
35 中共中央紀律検査委員会・中華人民共和国国家監察委員会法規室編著『≪中華人民共和国監察法≫釈義』中国法政出版社、2018年、83頁。
36 「中華人民共和国監察法」(2018年3月20日採択)http://www.ccdi.gov.cn/fgk/law_display/6340(最終閲覧:2018年3月29日)。
37 中共中央紀律検査委員会・中華人民共和国国家監察委員会法規室編著『≪中華人民共和国監察法≫釈義』中国法政出版社、2018年、84頁。
38 李海青「六中全会是中央治国理政方略的深度推進」『領導科学論壇』2017年第1期、10頁;陳志剛「全面従厳治党維度下的領導体制和執政方式的変革」『観察与思考』2015年第12期(2015年12月)、55頁;王春璽・任嬋「改革開放以来党中央集体領導機制的創新及其特点」『行政論壇』2016年第2期(総第134期)、26頁。近年の問題については、例えば、辻康吾「『軟抵抗』に直面する習近平主席 注目される金燦栄発言」『アジア時報』通巻520号(2016年10月)を参照されたい。
39 張卓元『中国改革頂層設計』中信出版社、2014年、前言。
40 張卓元『中国改革頂層設計』中信出版社、2014年、前言。
41 この問題について、より詳細は、拙稿「習近平政治の検証③:反腐敗」『China Report』Vol. 6(2017年3月31日掲載、11月10日改稿)http://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=267(最終閲覧:2018年1月18日)、同「なぜ『法治』か?―中国政治における第18期4中全会の位相―」『東亜』2015年8月号(No.578)を参照されたい。
42 張卓元によれば、「中国の経済体制改革は主として国家発展改革委員会が責任を負っていたが、実際は、発展改革委員会も改革の対象であった。自身を改革することは、自身の利益、とりわけ審査権に抵触することになるため、どうやら発展改革員会は改革の全面深化の牽引者に相応しくなかった」とも述べている。張卓元『中国改革頂層設計』中信出版社、2014年、34頁。
43 習近平「関鍵在於落実」(2011年3月1日)中共中央文献研究室編『十七大以来重要文献選編(下)』中央文献出版社、2013年、197頁。
44 「習近平治国理政関鍵詞:一分部署 九分落実」『中国共産党新聞網』http://theory.people.com.cn/n1/2017/0622/c40531-29354846.html(最終閲覧:3月26日)。なお、2017年6月に中共中央の名義で発布された「新情勢下における党の督促検査工作に関する意見」は、その集大成の一つである。「中共中央印発≪関於加強新形勢下党的督促検査工作的意見≫」『新華網』2017年6月5日、http://www.xinhuanet.com/politics/2017-06/05/c_1121089958.htm(最終閲覧:3月26日)。
45 この点例えば、習政権が大規模な「反腐敗闘争」に取り組む決意を明らかにした第18期中央紀律検査委員会第2回全体会議(18期中央紀委2回全会)において王岐山(中央紀律検査委員会書記・当時)は、「党の路線・方針・政策と決議の執行状況を検査することは各級紀律検査委員会の重要な職責である」として、「重大決定の執行状況に対する監督検査を重点的に展開しなければならない」ことを命じている。王岐山「深入学習貫徹党的十八大精神,努力開創党風廉政建設和反腐敗闘争新局面」(2013年1月21日)中共中央文件研究室『十八大以来重要文献選編(上)』中央文献出版社、2014年、123-124頁。
46 拙稿「習近平政治の検証③:反腐敗」『China Report』Vol. 6(2017年3月31日掲載、11月10日改稿)http://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=267(最終閲覧:2018年1月18日)。
47 この点についてより詳細は、拙稿「習近平政治の検証④:集権のジレンマ―習近平の権力の現状と背景(下)―」『China Report』Vol. 9(2018年2月16日掲載)http://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=278(最終閲覧:2018年3月26日)を参照されたい。
48 王岐山「開闢新時代 踏上新徴程」『人民日報』2017年10月7日。
49 「関於新形勢下党内政治生活的若干准則(全文)」『新華網』2016年11月2日。http://www.xinhuanet.com/politics/2016-11/02/c_1119838382.htm(最終閲覧:2018年3月23日)。
50 「完善党和国家自我監督,跳出歴史周期率」『中国紀検監察報』2018年3月30日。
51 山口信治「習近平政権の国内政治と対外政策」日本国際問題研究所編『中国の国内情勢と対外政策(平成28年度外務省外交・安全保障調査研究事業)』、2017年、100頁他を参照。
52 習近平「在中央政治局常委会審議『関於中央巡視工作領導小組第一次会議研究部署巡視工作情況的報告』時的講話」(2013年4月25日)中共中央紀律検査委員会・中共中央文献研究室『習近平関於党風廉政建設和反腐敗闘争論述摘編』中国方正出版社・中央文献出版社、2015年、107頁;習近平「在中央政治局常委会聴取中央巡視工作領導小組2014年中央巡視組首輪巡視状彙報時講話」(2014年6月26日)中共中央紀律検査委員会・中共中央文献研究室『習近平関於党風廉政建設和反腐敗闘争論述摘編』中国方正出版社・中央文献出版社、2015年、114頁。
53 「中央紀委立案審査的中管干部60%以上根据巡視移交問題線策査処」『中央紀委監察部網站』2017年8月29日、http://www.xinhuanet.com/legal/2017-08/29/c_129691685.htm(最終閲覧:2018年3月26日。
54 李永忠「制度監督与設立監察委員会」『中国党政幹部論壇』2017年第2期(2017年)、22-23頁;王春業・王晨洋「論監察委員会体制的異体監察模式」『天津行政学院学報』第19巻第5期(2017年9月)、49頁。
55 「中国共産党章程」(中国共産党第19回全国代表大会部分改定、2017年10月24日採択)『新華網』2017年10月28日、http://www.xinhuanet.com/politics/19cpcnc/2017-10/28/c_1121870794.htm(最終閲覧:2018年3月26日);なお、19全大会における「党規約」改定において、どの点が追記・削除・修正されたかにを知る上で、鈴木隆「〔資料紹介〕中国共産党第19回党大会『中国共産党規約』の新旧対照表」『国際情勢』第88号(2018年3月)が極めて有用である。
56 中共中央紀律検査委員会・中華人民共和国国家監察委員会法規室編著『≪中華人民共和国監察法≫釈義』中国法政出版社、2018年、52頁。なお「釈義」には、以上の文章に続いて、「監察法の公布はすなわち、党中央の政策決定・割り振りを貫徹実行し、党の主張を法定プロセスを通して国家意思と成らしめることである」ことが記されている。
57 Franz Schurmann, Ideology and Organization in Communist China (Second Edition, Enlarged, Berkeley and Los Angeles: University of California Press, 1968), Chap. 5. また、5全大会において最初に設立された監察委員会は、「党の一体性と権威を打ち固める」ことを以て初志としていた。「更好担当起党和人民賦予的光栄使命―三論構建和完善中国特色国家監察体制」『中国紀検監察報』2018年3月26日。
58 中兼和津次「中国 社会主義経済制度の構造と展開」岩田昌征編『経済体制論 第Ⅳ巻 現代社会主義』東洋経済新報社、1979年、300頁。
59 Lynette H. Ong, Prosper or Perish: Credit and Fiscal System in Rural China (Cornell University press, 2012), pp. 82-83.
60 Vivienne Shue, The Reach of the State: Sketches of the Chinese Body Politic (Stanford University Press, 1988); 天児慧『現代中国 移行期の政治社会』東京大学出版社、1998年、78頁;拙稿「中国の政治体制と『群体性事件』」鈴木隆・田中周編『転換期中国の政治と社会集団』国際書院、2013年、216-222頁。
61 加藤弘之『「曖昧な制度」としての中国型資本主義』NTT出版社、2013年、124-125頁;Sebastian Heilmann, “Policy-Making through Experimentation: The formation of a Distinctive Policy Process”, in Sebastian Heilmann and Elizabeth J. Perry eds. Mao’s Invisible Hand: The Political Foundations of Adaptive Governance in China (Cambridge, MA: Harvard University Asia Center, 2011); Kellee. Tsai, Capitalism without Democracy: The Private Sector in Contemporary China (Ithaka and London: Cornell University Press, 2007) 他。
62 習近平政権は、一方で、「省級以下の機構にさらに多くの自主権を賦与する」ことを強調しているが、これは機構の新設や、各機構に対する職能の配置に関わる(法定手続きに基づく)権限であり、中央の決定した政策・方針に対する解釈や選択の裁量に関わるものではない。「中共中央関於深化党和国家機構改革的決定」(2018年2月28日中国共産党第19回中央委員会第3回全体会議通過)『人民日報』2018年3月5日;習近平「決勝全面建成小康社会 奪取新時代中国特色社会主義偉大勝利―在中国共産党第19次全国代表大会上的報告」(2017年10月18日)『新華網』2017年10月27日、http://www.xinhuanet.com/2017-10/27/c_1121867529.htm(最終閲覧:2018年3月26日)。
63 この点は、右の論考でも論じている。拙稿「習近平政治の検証①:頂層設計」『China Report』Vol. 4(2017年3月31日)http://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=267(最終閲覧:2018年1月18日)。
64 加藤弘之によれば、「中国では、制度移行に伴う一時的な制度の並存や重複を利用するだけでなく、『曖昧さ』を意識的に温存し、積極的に活用することで、組織や規則に縛られることなく個人が自由に意思決定できる範囲を広げ、機動的、効率的な制度運用をはかるという『曖昧な制度』が存在する」。加藤弘之『中国経済学入門』名古屋大学出版会、2016年、28頁。
65 「中国共産党章程」(中国共産党第19回全国代表大会部分改定、2017年10月24日採択)『新華網』2017年10月18日、http://www.xinhuanet.com/politics/19cpcnc/2017-10/28/c_1121870794.htm(最終閲覧:2018年3月26日)。中国研究者の間ではよく知られているように、中国の地方レベルの各機関(例えば省財政庁)は、通常、同系統の上級機関(例えば中央財政部)の指導を受け(=「条」)、同時に同級党・政府(例えば省党委員会書記)の指導を受ける(=「塊」)。この「条」の指示・命令系統によって中央から末端に至る上意下達の政策執行が確保され、同時に「塊」の組織構造によって、より地域の実情に即した政策執行が確保される。「条」を欠いては、中国は地方ごとにばらばらになり、「塊」を欠いては、中国の政策決定・執行は地域や民衆の実情から乖離する。中国の国家の規模と一党独裁という政治体制を所与とするとき、統治の一体性と柔軟性の両方を確保するためには、この「条」と「塊」の均衡が肝要である。したがって、この監察体制改革のように「条」が強調される場合も、「塊」が完全に失われるということはあり得ない。
66 Franz Schurmann, Ideology and Organization in Communist China (Second Edition, Enlarged, Berkeley and Los Angeles: University of California Press, 1968), p. 311.
67 ただし、王岐山が紀律検査委員会書記を務めた2012年終わりから17年終わりまでの期間、紀律検査委員会は「反腐敗」において顕著な存在感を示した。この期間において紀律検査委員会が大きな権限を行使し得たのは、習近平の王岐山に対する強い個人的な信頼があったからであろう。
68 Franz Schurmann, Ideology and Organization in Communist China (Second Edition, Enlarged, Berkeley and Los Angeles: University of California Press, 1968), pp. 361-363.