※この連載(習近平政治の検証)は、習近平政権前半期(第18期)の政治運営を総括し、さらに今後を展望するための視座を獲得しようとするものである。
2012年末から13年初めにかけて成立した習近平政権の最大の特徴の一つは、党中央指導部、とりわけ総書記たる習近平個人に対する権力の集中、並びに、その習近平率いる党中央によるトップ・ダウン式の政治運営スタイルにあるといえる。習近平政権は、その発足以来、習を頂点とする中央の指導部が、中国全土に関わる重要政策の策定からその執行の管理までを統一的に差配すること、すなわち、中国語で言うところの「頂層設計(top-level design)」を実行すべきことを一貫して強調してきた。2013年11月の中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(18期3中全会)において設立が決定された「全面深化改革領導小組」は、その「頂層設計」の理念を具現化したものである。習近平は、中国における経済・政治・社会・文化の各方面における改革を統一計画・按配するためのこの新設機関の組長に自ら就任することによって、彼の前任者である胡錦濤を凌ぐ強力なリーダーシップを発揮してきたといえる。
ではなぜ、習近平政権下において、その政治運営方式として「頂層設計」が重視され、党中央、並びに習近平のリーダーシップが強調されるのか。このコラムは、「頂層設計」が党中央の政治運営方式として採択され、それを実行する機関として「全面深化改革領導小組」が設立されるプロセスを分析することで、「頂層設計」の歴史的意義を確認し、さらに、習近平が有している権力の背景と基盤の一端を明らかにしようとするものである。
1.「頂層設計」の背景
「頂層設計」という言葉は、本来システム工学上の概念である。例えば大規模で複雑な機械設備を建設しようとする際、各部品や要素の間で矛盾や重複が生じることを回避するため、設備全体を設計する段階で、総体的な構想や主旨はもちろん、各部品の具体的基準や配置に至るまで詳細に設定しておくことが、プロジェクトの効率的かつ迅速な完成に有利であると考えられる。国家統治においてこの言葉が使われる場合、それは、トップレベルの政治機関(中国の場合党・政府の中央機関)が、政策課題の策定の段階で、全体的な理念や目標はもちろん、政策の実行を担う各機関の具体的な目標や任務、及び必要資源の配置箇所に至るまで比較的詳細に設定し、トップ・ダウンの形式でその政策を効率的かつ迅速に実現していくことを意味する1。後述するように、こうしたトップ・ダウン型の政策執行システムは、各地方・部門の党・政府機関の比較的自立的な政策執行を前提としてきた「改革開放」以来のボトム・アップ型のシステムとは大きく異なる。
この「頂層設計」という文言が、党中央が署名する公式文書に初めて登場するのは、習近平政権期ではなく、胡錦濤政権後期の2010年10月に採択された第12次5ヵ年計画においてである。このタイミングで「頂層設計」なる概念が採用され、トップ・ダウン式の政治運営方式が強調されねばならなかった背景にあるのは、経済構造改革が遅々として進展していなかったことであり、また改革の緊急性が2008年の世界金融危機によって大きく上昇したことである。
(1)経済構造改革の遅滞と世界金融危機の発生
1990年代後半以降における中国共産党の指導部にとって最大の政策的課題の一つは、経済発展方式の転換を進め、中国経済を持続的成長の軌道に乗せることにあった。早くは江沢民政権下の1996年3月に、「経済成長方式を粗放型から集約型へ転換すること」、環境保護と経済発展を両立させ「持続可能な発展」を目指すこと等が国家の基本任務として採択されている。こうした長期目標を引き継いだ胡錦濤政権は、「科学的発展観」を掲げ、中国経済の発展パターンの転換を政権の最重要課題と位置付けて様々な方針を打ち出してきた。
だが、こうした中央指導部の諸決定にもかかわらず、経済発展パターンの転換は遅々として進まなかった。2010年当時、鄭永年(シンガポール国立大学東アジア研究所所長)は過去数年間の中国を「無改革」と表現し、また中国社会科学院のボード・メンバーとして重要公式文書の執筆に参加してきた張卓元も、2003年以来約10年間、改革の速度が緩慢であったことを認めざるを得なかった2。
こうした状況を改善することを喫緊の課題に昇華させたのは、2008年の世界金融危機である。世界金融危機は、まず外需の急速な減退として中国経済を直撃した。一部企業の経営状態が悪化し、失業者が増加し始める中、中央が打ち出したのは、政府投資を大幅に引き上げることによって輸出減退の影響を相殺することであった。地方政府を主体とした4兆元の景気刺激策は、中国の経済成長率を維持し、失業者の急速な増加を回避することに確かに貢献した。だが同時に、すでに悪化していた投資効率をさらに引き下げ、同時に地方政府債務を危険な水域まで引き上げることになった。つまり、世界金融危機の発生は、中国が、外需と投資という経済成長を牽引してきた二つの推進力を同時に失うことを意味したといえる。こうした状況を受け、胡錦濤は、2009年の経済工作会議において、以下のことを述べている。
「今回の国際金融危機は、我が国の経済発展方式を転換する問題をさらに顕在化させた。国際金融危機が我が国の経済にもたらした衝突は、表面上は経済成長の速度に対する衝突だが、実質上は経済発展方式に対する衝突である。国際・国内経済情勢を総合的に見るに、経済発展方式を転換することにもはや一刻の猶予も無い」3。
すなわち、従来型の経済発展方式を続けることのできる猶予期間が、金融危機の発生によって大幅に短縮されたことにより、経済発展パターンを転換することの喫緊性が強く認識されることになったといえる。このような認識の下で、2010年10月の17期5中全会において採択された「第12次5ヵ年計画」は、経済発展方式の転換を「加速する」ことを強調することになるのである。
(2)「頂層設計」の提起と具現化
経済発展パターンを転換する必要は、中央指導部によって早い時期から認識されており、それを推進すべきとする指示も度々打ち出されてきた。明らかに、経済構造改革を重視した胡錦濤政権期においてむしろ改革が停滞するという現象が発生した原因は、中央指導部の政策「決定」にあるのではなく、主として各地方や各部門の幹部による政策「実行」にあった。
この点について、次期総書記就任が内定していた習近平は、2011年春に中央党校において「カギは実行に在る」と題した講話を行い、「幾つかの地方、部門及び単位は、中央の方針・政策及び重大差配に対し、口頭で述べ、文件に記すのみで、貫徹履行が不十分であり、中央が再三にわたって命令し警告していること、明文を持って禁止していることに対して、依然として一向に意に介さず自分のやり方を貫き、何度禁じても止めない」ことを率直に認めた。その上で習は、中央の政策が額面通りに実行されることを確保することが、「12次5ヵ年計画時期の経済社会の発展目標・任務の実現を推進することに、党の執政地位を打ち固め、国家社会の長期安定を確保することに、十分に重要な意義を持つ」と述べた4。喫緊の課題であるところの経済構造改革を加速していくために、中央の命令を各地方と各部門によって確実に実行させるための政治的メカニズムの構築を急がねばならなかった。
「頂層設計」の必要性が広く議論されるようになったのは、このような文脈においてであり、その目的は、党中央による各地方・部門幹部に対する統制力を強化し、以て停滞していた改革を再び前進させることにあったといえる。当時、この必要を最も強く認識していた人物の一人は、当時国家発展改革委員会辦公室副主任の地位にあって実際に改革を担当し、後に習近平の経済政策のブレーンとなる劉鶴である5。彼らの発案により、2010年10月の第17期5中全会において採択された12次5ヵ年計画に関する「建議」において「頂層設計」を打ち立てるべきことが公式に主張されることになる。
ただし、すでに政権末期に差し掛かっていた胡錦濤政権に、大きな体制改革を実行する余力は残っていなかった6。これを引き継いだ習近平政権により、2013年11月の18期3中全会において「中央全面改革深化領導小組」の成立が決定され、「頂層設計」は具現化されることになる。この3中全会で採択された「全面的に改革を深化させることの若干の重大問題に関する決定」についての説明において習近平は、この領導小組設置の目的が「党の全局を統括し、各方面の協調を図る指導的中核としての役割をよりよく発揮させ、改革の順調な推進と各項目の改革任務の実行を保証するため」であることを示した7。
2.「頂層設計」の意義
この「頂層設計」は、次の二つの意味において、中国の党・政府組織全体における権力の配分に大きな変化をもたらすものといえる。
(1)「分権的」政策執行システムの終焉8
第一に、「頂層設計」は、もしそれが額面通りに実行されれば、「改革開放」以来の急速な経済発展を可能にしてきた従来の政治経済メカニズムからの大きな転換を意味する。
中国の地方幹部は、中央から発せられる政策方針を執行するプロセスにおいて、政策を自らの地域のコンテクストに沿った形で調整し、あるいは自身の利益により近づく形に解釈するための事実上の裁量権を有してきた9。各地方幹部は、その大きな裁量権を駆使して(ときに当時の政策範囲を逸脱する形で)積極的に地域経済に介入し、地元企業と密接な関係を取り結ぶことによって、イノベーティブな経済発展方式(たとえば農業の生産責任制、国有企業改革、事実上民営の「郷鎮企業」の認可等)を次々に打ち出してきた。むろん、各地方の自主的な経済活動のすべてが成功するわけではないが、それらが地方の裁量権の範囲で行なわれる限りにおいて、そうした失敗が全局的な影響を与えることはなく、また失敗に起因する不信や不満が中央に向けられることもない10。中央は、地方の「実験」の成功例のみを抽出し、それを全国に押し広げることで、中国経済を急速かつ安定的に発展させることに成功してきたといえる11。
だが、地方が大きな裁量権を有するこうした分権的構造は、「粗放的」な高度経済成長に有利であった一方で、経済発展方式を持続可能なものに改革する上で、極めて不利に働いた。地方幹部にとって、地域経済に介入するための権限や地元企業との関係は、自身の業績を高め、昇進を獲得する手段であると同時に、私的な経済的利益を得る重要な手段であっため、彼らはこうした「既得権益」を容易に手放そうとはしなかった。結果として地方政府は、限られた財政資源を公共投資ではなく開発投資に費やすことを止めず、そのため民間の消費能力の向上は抑えられ、市場が本来の機能を発揮することは妨げられた12。
「頂層設計」が求められたのは、上述の通り、こうした地方主導型の体制構造的問題に対処することが、経済発展パターンの転換を進める上で不可欠と考えられたからである。それは、地方幹部が明文上、及び事実上有してきた経済活動への介入を含む様々な権限(裁量権)を大幅に縮小することによって、中央の指示する改革があらゆる既得権益の妨害を受けずにスムーズに各地方に行き渡り、着実に実行に移されることを確保しようとするものである13。
(2)党中央・総書記への権力集中
第二に、「頂層設計」は、中国において「中央」と位置付けられる党・政府機関の内、とりわけ共産党中央指導部への権力の集中を意味する。またそれは、究極的には、総書記(=習近平)に対する権限と責任の集中に帰結するものと考えられる。
上記の通り、「頂層設計」が必要とされたのは、遅々として進展しない経済発展パターンの転換を急ぎ前進させるためには、経済政策に関わる政策決定権限のみならず、下級機関の政策執行プロセスに関わるあらゆる権限(行政、司法、文化(規範))を統括的に担う機関の設置が必要と考えられたからである。それゆえ、「頂層設計」を担う機関、とりわけトップに就任するリーダーは、必然的に、極めて広範囲に渡る権限を一手に引き受けることになる。
この際、「頂層設計」を担う機関は「党中央」によって担われることが求められていた。例えば高尚全は、2011年年上半期の時点で「中央が直接領導する中央改革領導協調機構を成立させることが、全局的に改革のプロセスを把握するうえで有利である」ことを述べ、宋暁梧は、「国務院に相応の機構を成立させるのは限界があり、党中央が決心して推進する必要がある」ことを論じていた14。この背景として、第一に、国務院高官の中にも、改革を妨害する既得権益者が存在し、彼らが改革の履行を妨害したと目されていたことの他15、第二に、下級幹部による政策の遅滞なき執行を確保するためには、その政策決定を担う機関が、幹部に対し政策の遂行を動機づけるに十分な権威を備えていることが求められたことが挙げられよう16。
むろん、このことは、総書記個人の下に権力を集中させることについて広く合意形成がなされていたことを直接意味するわけではない。ただし、政策の遅滞なき決定と執行に「頂層設計」の本義を見出せるとすれば、政策の重要度と喫緊性が高い程、総書記自らが中核的役割を果たすことは情況的に必要であったと考えられる。中共中央党校の胡衛は、習近平自ら全面深化改革領導小組の組長に就任したことが、組織の「権威性を顕示する」上で、「執行を確保し、政令が滞りなく行き渡ることを保証し、上意下達の強力な推進力が実現する」上で有意義であることを論じている17。これは、「頂層設計」機関に、下級幹部をして政策を着実に実行せしめるに足る十分な権威を付与する必要があり、そのことが、総書記のトップ就任が求められた重要な一因であったことを示唆している。
鄭永年は、「頂層設計」の背景を論じる中で、「党内民主と集団領導体制の出現により、高層権力が相当程度分散化し、この結果各方面の既得権益が改革のプロセスを両側から抑え込む状況が容易に生じ、最終的に目下の“不改革”の現状がもたらされた」ことを論じている18。鄭のこの指摘は、明らかに、胡錦濤政権期において党中央のトップリーダー内部において権力の分有が過剰に進んだことが、政策決定・執行の遅れの原因となっていたことを示唆するものである。そうであるなら、政策の遅滞なき決定と執行を確保するために集権化を追求する「頂層設計」は、その論理的な帰結として、最高権力者であるところの総書記個人への権力の集中に行きつくものと考えられる。この意味おいて、18期6中全会において習近平の党中央の「核心」たる地位が公式に認知されたことは、論理上、「頂層設計」の確立が求められたことの延長線上にあると見ることもできるだろう19。再度鄭永年に依拠すれば、「核心の確立」が政治的に重要になったのは、胡錦濤政権期に「核心」なき党内民主が進展し、権力が過度に分散・均衡した結果、「現任の領導層が、有効な政策を形成することができず、むろんそれを執行することもできない」等のネガティブな状況が引き起こされていたからである20。
おわりに
上記の通り、習近平が現在強化している、党中央指導部の強力な権威と権限に基づくトップ・ダウン式の政治運営スタイル(=「頂層設計」)は、これまで中国の急速な経済発展を支えてきた比較的分権的な政治・経済メカニズムを大きく改めようとするものである。各部門や地方の党・政府幹部と経済的アクターの間の緊密な結びつき(=癒着)を切り離し、経済発展パターンの転換を前に進めるためには、下級幹部が伝統的に有してきた裁量権を縮小し、かつ彼らに対する中央の指導力を強化することが不可欠であった。むろん、これは党・政府の中枢から末端まで浸透した既得権益に大きく切り込むものであり、その分大きな困難を伴うことになる21。それゆえ、「頂層設計」が実効性を発揮するためには、党中央の「権威」を強化するための(習近平の「核心」化を含む)様々な試みの他、「反腐敗」、「法治」、及び各種の条例・法令の整備による下級幹部に対する監視・管理の強化が伴わなくてはならない22。
この「頂層設計」の提起と具現化をめぐるプロセスは、総書記(=習近平)の下に権力が集中する体制が、少なくとも部分的には、経済発展パターンの転換という喫緊の政策課題を達成するための不可欠の手段として、胡錦濤政権期後期から習近平政権期初期にかけて準備されたものであったことを示している。習近平の権力をめぐっては、「権力闘争」の側面のみに兎角注目が集まりがちだが、金融危機以降とりわけ、政策の遅滞なき「決定」と「執行」を確保するために中央指導者の強力なリーダーシップが情況的に求められていた事実を軽視すべきではない。全面深化改革領導小組組長のポジションに関していえば、習近平はその強力なリーダーシップを“勝ち取った”というより、むしろ“与えられた”と表現すべきかもしれない。そうだとすれば、習近平のリーダーシップは、比較的強力であると同時に、不安定でもある。経済発展パターンの転換が、「頂層設計」を以てしても遅々として進まない場合、その責任は主として習近平個人に帰することになり、そのとき習近平の権力と権威は一気に弱体化することになるからである。
他方で興味深い現象は、全面改革深化領導小組と同時に設立が決定された、国家の安全保障を担う「頂層設計」機関、すなわち中央国家安全委員会は、依然としてどうやら十分な作用を発揮していないということである。このことは、習近平にどの程度の権力を集中させるかを巡って、党内に一致した意見が存在しているわけではないことを示唆しており、その意味で習は依然確固たる権力基盤を固めているとはいえない。中央国家安全委員会というもう一つの最重要「頂層設計」機関が、今後どの程度存在感を示していくことができるかということが、19全大会以後における習近平の権力の強さを計る試金石になる。
1 張卓元の説明によれば、「頂層設計」の特徴は、最高層による①政策の理念・目標の決定、②全体の有機的連結のための関連部門の配置・調整、③政策の実行性・実現性の確保、の3点に纏められる。張卓元『中国改革頂層設計』中信出版社、2014年、26頁。
2 張卓元『中国改革頂層設計』中信出版社、2014年、前言。
3 胡錦濤「関於加快経済発展方式転変」(2009年12月5日)中共中央文献研究室編『十七大以来重要文献選編(中)』中央文献出版社、2011年、283頁。
4 習近平「関鍵在於落実」(2011年3月1日)中共中央文献研究室編『十七大以来重要文献選編(下)』中央文献出版社、2013年、197頁。
5 「劉鶴:“頂層設計”発明人」『長江商報』2013年11月10日;「首席経済智嚢劉鶴首提出“頂層設計”」『深圳晩報』2015年7月8日。
6 例えば、国務院発展研究中心研究員であった呉敬璉は、「頂層設計」に関し「次期の領導はいくつかの根本的な行動を起こさなければならない」ことを述べ、その実現を次の習近平政権に託していた。呉敬璉「目前的一個大問題是行政主導発展」『改革内参』2011年第30期(総第715期)(2011年8月)、15頁
7 習近平「『改革の全面深化における若干の重要問題に関する中共中央の決定』についての説明」(2013年11月9日)習近平『習近平 国政運営を語る』外文出版社、2014年、94頁。
8 角崎信也「中国の政治体制と『群体性事件』」鈴木隆・田中周編『転換期中国の政治と社会集団』国際書院、2013年、216-222頁。
9 例えば、Kenneth Lieberthal and Michel Oksenberg, Policy Making in China: Leaders, Structures, and Processes (New Jersey: Princeton University Press, 1988); Vivienne Shue, The Reach of the State: Sketches of the Chinese Body Politic (Stanford University Press, 1988) を参照。
10 加藤弘之『「曖昧な制度」としての中国型資本主義』NTT出版社、2013年、124-125頁。
11 Sebastian Heilmann, “Policy-Making through Experimentation: The formation of a Distinctive Policy Process”, in Sebastian Heilmann and Elizabeth J. Perry eds. Mao’s Invisible Hand: The Political Foundations of Adaptive Governance in China (Cambridge, MA: Harvard University Asia Center, 2011); K. Tsai, Capitalism without Democracy: The Private Sector in Contemporary China (Ithaka and London: Cornell University Press, 2007) 他。
12 張卓元『中国改革頂層設計』中信出版社、2014年、前言。
13 むろん、鈴木隆が的確に指摘している通り、「頂層設計」は、地方の自主性を重んじる従来的な方法の完全な否定を意味しない(菱田雅晴・鈴木隆『超大国・中国の行方3 共産党とガバナンス』東京大学出版会、2016年、172-179頁。ただし、例えば李克強が、地方政府の「職能転換」の文脈で、「中央と地方の二つの積極性を十分に引き出さなくてはならない」と述べた一方で、「我々は二つの積極性を引き出す上で、中央の権威を考慮しなければならず、地方は全国が一つの将棋盤であるとの理念を樹立しなければならず、自覚的に党中央、国務院の権威を維持し、命令があれば必ず実行し、禁じられたことはかならずやめるようにしなければならない」ことを強調した通り、現在の改革の重点は明らかに、「上意下達」の強化の方にある。李克強「在国務院第一次全体会議上的講話」(2013年3月20日)中共中央文件研究室『十八大以来重要文献選編(上)』中央文献出版社、2014年、254頁。
14 高尚全「加強改革頂層設計」『改革内参』2011年第13期(総第698期)(2011年4月)、19頁;宋暁梧「頂層設計需要中央層面的推動」『改革内参』2011年第29期(総第714期)(2011年8月)、19頁。また呉敬璉は「頂層設計にはより高いレベルの領導の決断が必要である」ことを述べて、最高レベルの指導者が政策策定の責を担うことを求めた。呉敬璉「目前的一個大問題是行政主導発展」『改革内参』2011年第30期(総第715期)(2011年8月)、15頁。
15 例えば、12次5ヵ年計画の執筆にも参加した張卓元は、胡錦濤政権下において改革の任を主に担ってきた国家発展改革委員も既得権益者で、「本来は改革の対象」であり、彼らは「改革の全面深化の牽引者に相応しくなかった」と断じた上で、全面深化改革領導小組の設立は、そうした経験・教訓をくみ取って設置されたものであることを指摘した。張卓元『中国改革頂層設計』中信出版社、2014年、34頁。
16 これまでのボトム・アップ型の政策形成プロセスに対して、「頂層設計」によるトップ・ダウン型の政策形成は、地方の実行によって効果が裏打ちされているわけではない分、政策執行者にその意義を理解させることも難しく、そのことも「権威」の強化を急務としていたと言えよう。この点、伊藤信悟「習近平は政治改革を避けて通れない」『東洋経済ONLINE』2012年11月29日、http://toyokeizai.net/articles/-/11924?page=3(最終閲覧:2016年12月27日)を参照。
17 胡衛「習近平関於全面深化改革的頂層設計方法論」『太原理工大学学報(社会科学版)』第34巻第3期(2016年6月)、2-3頁。
18 鄭永年「中国改革的頂層設計、地方動力和社会力量」『聯合早報』(2011年9月13日)http://www.zaobao.com.sg/forum/expert/zheng-yong-nian/story20110913-56434(最終閲覧:2017年2月11日)。
19 これに加え、地方幹部の政策執行に対する意欲の低下や不作為、ないし「軟抵抗」に直面したことが、政策決定者の「権威」を急ぎ強化する必要をより強く認識させたと考えられる。「軟抵抗」の問題については、例えば、辻康吾「『軟抵抗』に直面する習近平主席 注目される金燦栄発言」『アジア時報』通巻520号(2016年10月);「習近平氏、国内改革進まず 地方役人が面従腹背」『日本経済新聞 電子版』2016年11月4日(原文はThe Economistに掲載)を参照されたい。
20 鄭永年「為甚麼中共要重新確立“核心”」『聯合早報』(2016年11月8日)http://www.zaobao.com.sg/forum/views/opinion/story20161108-687532(最終閲覧:2017年2月11日)。
21 少なくとも現時点ではどうやら、「頂層設計」はその執行の確保の面において依然十分な効果を発揮しているとは言えないようである。例えば祁凡驊(中国人民大学国家発展・戦略研究院国家ガバナンス研究センター副主任)は、「改革が深く掘り下げられ、中央レベルの頂層設計が日増しに鮮明になる中、改革の重点は執行力不足の問題を解決することにある」と論じている。このことは、「頂層設計」は、改革に関わる政策の全面的かつ遅滞なき決定に効果を発揮している一方で、その執行の確保には十分な機能を果たしていないことを示唆している。祁凡驊「“改革”,是名詞更是動詞(人民時評)」『人民日報』2017年2月8日。
22 「反腐敗」と「法治」については、角崎信也「『反腐敗』とは何か―ローカル・ポリティクスの視点から―」『海外事情』2016年1月号、同「なぜ『法治』か?―中国政治における第18期4中全会の位相―」『東亜』2015年8月号(No.578)、及び同「習近平政治の検証③『反腐敗』」http://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=269 を参照されたい。