核爆発の直接の証拠となり得る放射性キセノン1)の監視装置SAUNA(Swedish Automatic Unit for Noble gas Acquisition)とその解析法を開発し、北朝鮮が2006年と2013年に実施した核爆発実験の放射性キセノンを検出した、スウェーデン防衛研究所(FOI)のAnders Ringbom博士による標記講演会を開催しました。講演会は、2023年10月23日、日本国際問題研究所においてハイブリット形式で開催され、わが国のCTBT(包括的核実験禁止条約)の専門家40名(対面式:26名、リモート式:14名)が参加しました。
講演では、FOIにおけるSAUNA開発の歴史と核爆発の検証研究に加え、北朝鮮が2006年2)と2013年3)に実施した核爆発実験の放射性キセノン検出の様子が紹介されました。
講演で特に強調された点は、現在開発が進められている希ガスの新しい検出コンセプトであるSAUNA-QBアレイシステム4)です。これは、CTBTの下で設置される希ガス監視観測所で使用される最新式のSAUNA-Ⅲよりも低分析感度、低価格、そして小型で設置が容易なSAUNA-QBを複数設置して、アレイ観測を行うとのコンセプトです。スウェーデンでは、このコンセプトの下で配備したアレイシステムが、2021年から運用されているとのことで、観測点の設置密度が増大することによって核爆発や医療用放射性同位体製造施設(MIPF)5)などから放出された放射性キセノンを含む気団を、複数の観測点で検出する確率を増大させることができる点で有用だと説明されました。また、スウェーデンによるこの開発は、大気輸送モデル解析(ATM)6)による放出源推定領域の面積を小さくすることができるとともに、検出された事象の正確な特徴付けも可能になることが分かりました。
講演では、このSAUNA-QBアレイシステムを日本に設置した場合に北朝鮮の核爆発実験で放出される放射性キセノンの測定を想定したコンピュータ・シミュレーション結果が紹介されました。その結果、核爆発によって放出された放射性キセノンを含む気団が検出システムに到達する確率、検出確率及び検出数は、SAUNA-Ⅲを備えた高崎観測所1か所よりも優れていたことが示されました。また、観測点数の増加によりATM解析における放出源の推定領域が小さくなるため、MIPFや原発などのバックグラウンド源との区別が容易になることも示されました。さらに講演では、コンピュータ・シミュレーション等、今後のわが国とスウェーデンとの共同研究の実施も提案されました。