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経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ 第16回「中国台頭と通商秩序の行方」

2023-08-08
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米中覇権競争の下、自由貿易体制は危機に瀕しています。特に中国は、政策が不透明であるため通商ルールの適用が難しいと指摘されています。日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター(以下、「当センター」)は「経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ」第16回会合を2023年8月8日に開催しました。報告者に宗像直子東京大学公共政策大学院教授をお招きし、「地政学競争下の通商秩序の動揺~中国の産業政策を中心に~」と題して、中国の産業政策を中心にご講演いただきました。

まず、近年の米中の経済的威圧を巡る非難の応酬が確認された後、現在の対中デカップリングや相互依存の危機は、そもそも中国による膨大な国家補助や保護主義などに由来するものであるとのEU産業界の見方が紹介されました。

次に、中国の台頭と国際秩序への挑戦について取り上げられました。2010年に名目GDPで世界第二位の経済大国に成長した中国は、経済と国防を「協調」して発展させることを重視しており、軍民融合の発展を国家戦略に格上げし、「中国製造2025」を策定したことが紹介されました。また、中国は海洋覇権を公然と追求しているとして、南シナ海の九段線に関する国際仲裁判断を無視した事例が紹介されました。国際秩序のメリットは享受するものの、ルールの受け入れは選択的に行うという中国の外交姿勢は、通商分野にも通ずるものがあるのではないかとの指摘がなされました。

続いて、米国の対中政策の転換と分断のスパイラルについてご説明されました。米国が2022年の「国家安全保障戦略」で中国を地政学的な競争相手と位置づけ、自由で開かれた安全で豊かな世界を目指すとしているのに対して、中国は米国流の民主主義の押し付けを批判しており、両者の目指す将来像は完全に相容れず、国際秩序の基礎をなす基本的な信頼が失われている状況が指摘されました。また、AIや半導体、バイオなどの新興技術についても米中の競争が高まっており、米国による先進半導体の輸出管理や中国によるガリウム・ゲルマニウムの輸出管理について紹介がなされました。

さらに、中国には補助金などの産業政策を用いて世界を中国に依存させることでサプライチェーンの切断を抑止する狙いがあると解説されました。既存の通商ルールの限界が論じられ、現在の市場歪曲行為の多くにWTOルールが及んでいない状況と、中国の不透明性が抱える問題点が指摘されました。そして、開放的な国際秩序にただ乗りしつつ、「富国強兵」を進め、そこで得た経済力・軍事力で現在の国際秩序を塗り替えようとしている中国の姿勢が指摘されました。

最後に、中国への日本の対応として、技術優位性の確保や基幹インフラにおける脅威の低減、同盟国・有志国との連携などを通して交渉力を確保していくことの重要性が指摘されました。中国のCPTTP加入問題については、安易に加入を認めればWTOのような機能不全に陥る可能性があり、中国側の思惑も考慮して慎重に検討する必要があるとも指摘されました。

ご講演を受けて、当センターの髙山嘉顕研究員が、最近の米国による対中半導体輸出管理政策の方向性についてコメント・質問を寄せ、さらに議論を深めました。参加者とのQ&Aセッションでは、中国によるガリウムとゲルマニウムの輸出管理についての実態や中国の産業政策の実現可能性、国際ルールが果たしうる役割、中国国内の改革派の可能性、デカップリングを強めていく場合の日本への影響・対策などについて活発な議論が交わされました。