米中対立の経済的リスクが広く認知されるなかで、経済安全保障における中国の動向に関心が集まっています。日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター(以下、「当センター」)は「経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ」第14回会合を2023年6月15日に開催しました。報告者に江藤名保子学習院大学教授をお招きし、「中国からみる経済安全保障の論点―米中対立の対称性」と題して、中国が描いている経済安全保障の戦略についてご講演いただきました。
はじめに、米中対立の領域が多元化しており、①安全保障分野において戦闘領域が新領域に拡大し、②技術・経済分野での競争では半導体などをめぐる輸出規制の応酬があり、③政治体制をめぐる体制間競争では価値観の対立があると指摘されました。また、投資先としての中国の地位が低下していること、日本企業の対中ビジネス認識においても、地政学リスクや台湾有事が中国事業を展開する上での留意点として高まっていることなどが紹介されました。
次に、中国の「経済安全」論について、歴史的・理論的な観点から論じられました。中国は2014年の『総体国家安全観』の中で「経済」の安全保障を示し、2015年に成立・施行された国家安全法では「経済安全保障リスクを防止・解決するための制度的メカニズムを改善する」ことが規定され、国際経済との相互関係を位置付ける「双循環」のビジョンについてご解説いただきました。
最後に、中国の具体的対応・措置が取り上げられました。米国の半導体輸出規制に対するWTO提訴や、気球撃墜後に米国2社を「信頼できないエンティティリスト」に掲載したことなどの事例から、これまでの中国の対応はむしろ抑制的であったと指摘されました。そのうえで、中国の「経済安全」には変化が見られるとし、中国は米国による経済的措置に対する反撃力と抑止力を備えることで、米国に対する対称性を希求しているとご指摘されました。また、中国が5月21日にマイクロンテクノロジー製品の調達停止を指示したことについては、同措置がこれまでのような他国への対抗措置とは異なり、国家安全保障のための措置だと説明されたこと、また、同時期に開催されたG-7会合に対するシグナリングとしての意味を持っていたことについてもご指摘されました。
ご講演を受けて、当センターの髙山嘉顕研究員が、レガシー半導体やその他の技術等における中国の戦略的不可欠性に関するコメント・質問を寄せ、さらに議論を深めました。参加者とのQ&Aセッションでは、中国単独での先端半導体開発の実現性、経済的威圧の中国の意図、中国にとっての経済安全保障上の台湾の位置付け、G7で合意されたディリスキングに対する中国の認識、対中ビジネスにおいて注意を払うべき点などについて活発な議論が交わされました。