本年8月に開催された第10回核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議は、ロシアの反対により最終文書をコンセンサス採択できずに閉幕しました。日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター(以下、「当センター」)では、石井良実外務省軍備管理軍縮課長をお招きし、公開ウェビナー「第10回NPT運用検討会議と今後の核軍縮・不拡散問題」を開催しました。
はじめに石井課長から、第10回NPT運用検討会議の動向が概観されました。第1週では全体会合で論点が共有され、第2週では主要委員会および補助機関の下で「NPTの三本柱」(核軍縮、核不拡散、原子力の平和的利用)ごとに議論が行われ、第3週から第4週にかけて最終文書の策定・採択に向けた公式・非公式の協議が行われました。会議での主な争点として、核軍縮の交渉義務の位置づけ、核軍縮を進める際の安全保障環境、核兵器国と同盟関係にある国の責任、ならびに消極的安全保証が挙げられました。今回の会議は、核兵器国・非核兵器国間だけでなく核兵器国間の分断が顕著で、またロシアによるウクライナ侵略をはじめとして核問題を取り巻く環境の厳しさから、当初から見通しは明るくなく、最終的にはロシアがザポリージャ原発をかかる記述などに反対したことで、最終文書を採択することはできませんでした。しかしながら石井課長は、大多数の国がNPTの重要性を再確認し、最終文書の採択に向けて真剣に取り組んだことは評価できるとし、そのなかで日本もNPT体制の維持と強化を重ねて訴え、岸田総理による「ヒロシマ・アクション・プラン」や軍縮・不拡散教育など多くの国から支持を得られたことを強調されました。
ご講演を受けて、当センターの戸﨑洋史所長をモデレーターに、参加者とのQ&Aセッションが行われました。セッションでは、会議における日本の「橋渡し役」としての取り組みやリーダーシップ、非核兵器国による原子力潜水艦取得や核共有(nuclear sharing)といった問題での中国の積極的(assertive)な主張に対する各国の反応、ならびに今後の核軍縮・不拡散にかかる課題と日本の取り組みなどについて質問が寄せられ、活発な議論が交わされました。