近年、経済や技術に関わる政策立案や事業展開を行う際に安全保障上の考慮を踏まえる必要性が指摘され、経済・技術安全保障の重要性が高まっています。そのような問題意識の下、日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター(以下、「当センター」)では「経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ」を開催することとなりました。その第8回会合が2022年8月4日に開かれ、佐藤幸人・日本貿易振興機構アジア経済研究所 新領域研究センター 上席主任調査研究員をスピーカーとしてお招きし、「半導体産業の変容と台湾の位置付け―現状と歴史―」と題して、台湾における半導体の重要性や発展の背景、現状についてご講演いただきました。
はじめに、半導体の種類、および半導体産業の工程と企業の種類について説明いただきました。次に、半導体産業における台湾の世界的な重要性について、半導体製造の各工程における台湾のシェアと、大手半導体企業における売上高を基に解説いただきました。また、台湾にとって高い生産性のある半導体産業は、製造業の中でも最大の産業であること、さらに対外的な脅威から台湾を守る「護国神山」(国の守り神。「シリコンの盾」とも)として見られていることが指摘されました。そして、TSMCをはじめとする台湾の半導体企業が注目される理由について、最先端分野で圧倒的なシェアを握る技術と生産能力の大きさという根本的な要因に加え、米中対立をはじめとする地政学的リスク、世界的な半導体不足、コロナ禍や5G、供給側の不安要因といった直近の要因を挙げ、それぞれ解説されました。講演の後半では、TSMCと台湾半導体産業のあゆみを、台湾の半導体産業が立ち上がった1970年代半ばから報告いただきました。そして、最近の注目点について、一部の半導体の需給関係が調整局面に移行しつつある兆候が見られること、技術開発競争の動向、技術開発の観点からの微細化の限界とそれに伴うパッケージングの3D化の動き、およびTSMCの日本への投資やグリーン投資を挙げて説明いただきました。
ご講演を受けて、当センターの髙山嘉顕研究員が、昨今の半導体業界の動きや台湾にいる日系企業の今後のビジネスの展開についてコメント・質問を寄せ、さらに議論を深めました。参加者とのQ&Aセッションでは、欧米での半導体の補助金獲得競争の問題や、半導体の需給バランスの動向、台湾からの人や技術の流出の問題への対応や半導体と武器システム製造との関係、半導体業界や経済安全保障の観点から日本が今後どのような取り組みを進めていくべきかなどについて活発な議論が交わされました。