経済・技術安全保障の重要性の高まりから、日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター(以下、「当センター」)では「経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ」を開催しています。その第5回会合が2022年5月23日に開催されました。会合には、上智大学の齊藤孝祐准教授をスピーカーとしてお招きし、「技術保護と経済安全保障の諸課題」と題し、ご講演いただきました。
はじめに、齊藤准教授は、経済安全保障の基本的な考え方について触れ、近年は、経済利益の保護ではなく、より総体的な国益の保護が目指されていると論じました。また、2020年の自民党による提言「『経済安全保障戦略策定』に向けて」で示された重要概念である「戦略的自律性」と「戦略的不可欠性」の議論を踏まえ、5月11日に成立した「経済安全保障推進法」における4本柱の意義などを解説しました。そのうえで、経済安全保障推進法の特徴として、他国への経済的手段の行使といった「攻め」ではなく、自国の産業や技術などを含む国益の保護という「守り」の色彩が強い法律であると指摘しました。続いて、このような経済安全保障政策が重視されるようになってきた文脈について、技術開発の担い手や効果における境界の曖昧化、米中関係の悪化、ロシア・ウクライナ戦争の影響、さらに産業競争力や科学研究能力の衰退といった日本固有の文脈があると解説しました。また、「統合イノベーション戦略2021」に示された方針に触れつつ、今後の動きとして「経済安全保障重要技術育成プログラム」といった重要技術への投資における課題や注目点を明らかにしました。最後に、当事者の課題として、日本政府と民間事業者それぞれのケースについて論じました。政府に関しては、経済安全保障の対象の合理的な範囲や政策のゴールをどう定めるか、経済と安全保障のバランスをどう調整するか、政策にかかるコストをどう負担するか、などが課題になると指摘されました。民間セクターについては、規制や支援の対象となる(あるいは将来的になりうる)技術の情報収集・判断能力の構築や、研究活動と安全保障の接近がもたらしうる諸問題、技術流出に対応するための規制の実施などが挙げられました。そして、今後、具体的な事業・技術指定の推移を注視していく必要があると論じました。
ご講演を受けて、当センターの髙山嘉顕研究員が、民間事業者による自社のサプライチェーン調査はどこまで詳細であるべきか、規制などを判断する際のリスク観はどうあるべきか、規制リストとして示される技術群の中からその対象となる具体的な技術をどう特定すべきなのか、などの質問を寄せ、議論を深めました。またQ&Aセッションでは、参加者から、国家安全保障の文脈における経済安全保障の位置づけや、経済安全保障推進法の成立を受けてさらなる取り組みが予想される分野、また、民間事業者が講じていくべき具体的な措置(セキュリティ・クリアランスなど)について質問が寄せられ、活発な議論が交わされました。