近年、政策や事業展開を行う際に安全保障上の懸念を考慮する重要性が説かれ、経済・技術安全保障への関心が高まっています。日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター(以下、「当センター」)では、土屋貴裕・京都先端科学大学准教授をお迎えし、「経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ」の第4回会合を2022年4月21日に開催しました。土屋准教授には、「中国の経済・技術安全保障戦略」と題してご講演いただきました。
まず、土屋准教授は、中国の技術開発戦略について解説しました。中国は、第14次五カ年計画に基づき、イノベーションによる経済成長とともに食料やエネルギーなどを含む経済安全保障を目指していること、情報技術分野での発展計画や海外技術獲得のための税制優遇政策等を通じて、新たな科学技術の取得を目指していることを指摘しました。続いて、中国による近年の情報・技術の獲得状況として、軍民融合による新興科学技術やデュアルユース技術の研究開発について解説しました。特に、中国が次世代の基幹産業として掲げている「戦略的新興産業」は軍事転用リスクが高く、その技術開発の動向を注視していく必要があることを指摘しました。さらに、土屋准教授は、自国の経済安全保障強化を目標とした中国の国内法整備や国内標準制定の動きについても解説を加えました。例えば、米国の輸出管理強化措置に対抗する形で、他国による中国技術の盗取を防ぐため「中国人民共和国輸出管理法」を制定し、「総体国家安全観」のもとで輸出管理やリスト規制などを実施していることを紹介しました。また、安全保障の経済的側面にも触れ、これまでと同様に軍事技術の民間転用をするだけではなく、民間技術の発展支援とその軍事転用を行い、国防と経済を一体化させることで両者の発展を目指していると論じました。その例として、「認知空間」における新興技術の応用やAIのデュアルユース促進といった「軍事の知能化」に向けた動きなどを挙げました。最後に、これらの中国の動きに対する日本の課題として、重要技術・新興技術の特定、新たな分野における中国の基準・ルール形成への対応、同盟国・有志国との協働などを挙げ、日本自身の経済安全保障体制を確立したうえで中国との経済関係を健全化していく必要があると論じました。
講演後のQ&Aセッションでは、当センターの髙山嘉顕研究員が、中国の経済安全保障政策とWTOとの整合性に関する中国国内での議論の動向や、異なる価値観に基づく中国型経済システムを広める外交の動向について質問し、議論を深めました。その後、参加者から、中国がAIに着目する理由や「総体国家安全保障観」が生まれてきた背景などについて質問が寄せられ、活発な議論が交わされました。