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『ひろしまレポート』ウェビナー:核軍縮・不拡散・核セキュリティをめぐる2021年の動向とロシアによるウクライナ侵略の核問題への含意

2022-03-28
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ウェビナー要旨

1. 日時:2022年3月28日(月)14:00~16:00
2. テーマ:核軍縮・不拡散・核セキュリティをめぐる2021年の動向とロシアによるウクライナ侵略の核問題への含意
3. 登壇者:

秋山信将(一橋大学大学院 教授)
川崎 哲(ピースボート 共同代表)
菊地昌廣(きくりん国際政策技術研究所 代表)
黒澤 満(大阪大学 名誉教授)
玉井広史(日本核物質管理学会 会員)
西田 充(長崎大学 教授)
樋川和子(大阪女学院大学 教授)
堀部純子(名古屋外国語大学 准教授)
戸﨑洋史(当研究所 軍縮・科学技術センター 所長)(兼モデレーター)

4. 形式:オンライン(Zoomウェビナー)、日本語のみ、参加無料

『ひろしまレポート』について―『ひろしまレポート-核軍縮・核不拡散・核セキュリティを巡る動向』は、へいわ創造機構ひろしま(令和2年度までは広島県)「ひろしまレポート作成事業」の成果物として、事業を受託した(公財)日本国際問題研究所 軍縮・科学技術センターにより、平成24年度より取りまとめられてきた。広島県が平成23年に策定した「国際平和拠点ひろしま構想」に基づく事業である。『ひろしまレポート2022年版』は、今春刊行予定。

 実施報告

2022年3月28日、へいわ創造機構ひろしま(事務局:広島県)委託「ひろしまレポート作成事業」の一環として、日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター(以下、「当センター」)主催の公開ウェビナーがオンラインで開催された。

ウェビナーでは、まず、モデレーターも務めた戸崎洋史・当センター所長が核軍縮・核不拡散を巡る2021年の動向について、世界に存在する核兵器の総数は減少しているものの、核兵器の近代化や一部の国による増強が進んでいること、新STARTの5年間延長や核兵器禁止条約(TPNW)の発効の一方で、核軍縮をめぐる意見の相違がより顕著になってきていること、核拡散問題についても北朝鮮による核・ミサイル開発の進展や、イランによる包括的共同行動計画(JCPOA)の一部履行停止の拡大などが引き続き懸念されていることなどを報告した。次に、核セキュリティを巡る2021年の動向について、同事業研究会委員の堀部純子・名古屋外国語大学准教授が、核テロの脅威であるドローンやサイバー攻撃の事案の増加、内部脅威リスクの高まり、核セキュリティ向上に向けた政治的なレベルでの取組の機運の低下などを報告し、核セキュリティ文化のさらなる醸成が必要だと指摘した。

両報告に続いて、研究会委員の黒澤満・大阪大学名誉教授、西田充・長崎大学教授、川崎哲・ピースボート共同代表、樋川和子・大阪女学院大学教授、玉井広史・日本核物質管理学会会員、菊地昌廣・元核物質管理センター理事、秋山信将・一橋大学大学院教授が、核問題の今後の課題についてコメントした。

まず黒澤委員は、これまでの核軍縮の歴史を概観したうえで、今後の課題として①ミサイル防衛や新型ミサイルなどもアジェンダに含めた新START後継条約の検討(戦略核兵器の削減)、②非戦略核兵器の削減、③核使用リスクの低減、④TPNWの普遍化・緻密化の4点を挙げた。

西田委員は、これまで抑止のツールとして用いられてきた核兵器がロシアによるウクライナ侵略では核の恫喝という形で現状変更のための手段とされたことを指摘したうえで、この事例は、①核使用のタブーや規範の崩壊の可能性、②さらなる核拡散と既存の軍備管理・軍縮体制の後退、③今後の核軍縮・不拡散をめぐる国際的な合意形成を困難にする可能性という3つの危機をもたらすのではないかと指摘した。

川崎委員は、ロシアによるウクライナ侵略が提起した論点として、①核兵器は戦争を抑止するのではなく、戦争のための道具になったこと、②核兵器国が国際法を破壊するようなアクターでありうること、③「国家存亡の危機」において核使用は許されるのかということ、④核兵器の使用、ひいては人類の未来という問題を国家指導者のみに委ねていいのかということ、⑤ウクライナ侵略がさらなる核拡散をもたらしうることの5点を挙げ、このような状況だからこそTPNWの普遍化による核兵器の禁止が必要であると論じた。

樋川委員は、ロシアによるウクライナ侵略が、国際法の違反や国際条約からの脱退、国連安保理の機能不全といった問題にどう対処するのか、それらの枠組みはどの程度有効なものなのか、それらに替わる手段はないのかといった点を再検討する必要性を提起していると述べた。そうした手段の1つとして、国連で検討が進んでいる平和と持続可能な社会に向けた新たなアジェンダに核兵器の問題を含めようとする動きに言及した。

玉井委員は、ロシアの原子力施設・関連インフラに対する攻撃は許し難いものであると述べたうえで、これまでの核セキュリティの取組では、非国家主体による攻撃などが想定されていたため、正規軍の軍事兵器に対する原子力施設の脆弱性や長期戦になった場合への対処方法といった課題が十分に検討されてこなかったと論じた。また、ウクライナ侵略にかかるさらなる懸念として、傭兵部隊による核物質の盗取や混乱に乗じた形でのテロリストによる原子力施設の破壊・核物質の盗取といった危険性を指摘した。

菊地委員は、AUKUSのもとで行われる米国と英国による豪州への原子力潜水艦(原潜)取得への協力について、原潜用に軍事転用される核物質がIAEAによる査察対象外に該当し、保障措置の抜け穴(loophole)の先例となりうるリスクについて解説した。そのため、今後、上記の3か国とIAEAとの間でどのような協定が議論・締結されていくかを注視していく必要があると述べた。

最後に秋山委員が、ロシアによるウクライナ侵略が提起している論点として、①大国間での核戦争というレベルと地域における紛争というレベルとを分けたうえで核抑止の問題をどう考えるか、②国際的なルールや制度が破られるという事態にどう対処すべきか、③ウクライナ戦争終結後の国際秩序について、力による平和と制度による平和の両者をどのように組み合わせていくべきかという3点を挙げた。さらに、核兵器なき世界を目指すためには、核兵器を禁止する規範の重要性だけでなく、そこに至るためのプロセスについてもさらに議論を深める必要があると述べた。

続いて質疑応答が行われ、TPNWにおける核廃棄の検証方法や、核兵器のない世界における安全保障・抑止のあり方、核兵器をめぐる規範の役割や限界、ロシア核戦略における宣言政策の信憑性・曖昧さ、核セキュリティに関連する国際法と国家による武力攻撃との関係性、日本における核共有の議論、さらには核軍縮への機運を再醸成するための施策などについて活発な議論が交わされた。