CDAST

所長就任あいさつ

2024-08-29
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このたび、公益財団法人日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター所長を拝命いたしました秋山信将です。

現在、軍備管理・軍縮及び不拡散をめぐる国際環境は悪化しています。

東アジアでは、中国と北朝鮮が核戦力の質的、量的な増強を続けています。中国は核兵器不拡散条約(NPT)上の核兵器国の中で唯一、核弾頭数を増加させています。北朝鮮は対米抑止力としてのみならず戦域レベルでの核兵器の使用も視野に入れた核戦力を構築しようとしており、また韓国に対してより敵対的な姿勢を強めています。両国の核戦力増強の趨勢が今後継続するようであれば、両国の核兵器は、日本の安全保障や東アジアの平和的秩序にさらに長く、濃い影を落とすことになるでしょう。

2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略では、ロシアによる核兵器使用を示唆するシグナリングや核テロを示唆するような偽情報作戦、原子力発電所への攻撃による原子力安全、核セキュリティ上の懸念の増大など、紛争における核兵器の存在が大きく高まるような事態が次々に発生しました。それによって、国際社会における核抑止のあり方や核リスクに関する議論が活発になりました。

中東においても、核兵器を保有しているとみられるイスラエルと、核兵器開発が疑われるイランの対立が激化していますが、もしイランがさらに核保有に向かって歩みを進めるようなことがあれば、安全保障環境の悪化も相まって域内各国において核保有の誘因を高めかねません。

このような中で、各国は安全保障政策や核抑止の強化への取り組みを進めており、軍備管理や核軍縮に対しては悲観論が広がっているような状態です。NPT運用検討プロセスでも、締約国間での意見の隔たりが顕著になり、国際社会の分断や、核軍縮の進展に対する諦念の広がりが見られます。

しかし、こうした困難な状況にあっても、国際社会として、また日本として、直面する危機やリスクへの対処のみならず、中長期的にリスクを低減し、脅威を削減していく手段として、軍備管理・軍縮を構想していくことは必要であると感じています。体制や立場の違いを乗り越えた共通の課題や安全保障上の利益のために議論や情報交換を重ねるプラットフォームとしての多国間の枠組みを維持していくことも重要です。例えば、本センターが国内実施体制事務局を務めている、包括的核実験禁止条約(CTBT)を通じて構築されたグローバルな核実験の監視体制の運用を維持していくことは、このような多国間の協調を下支えするテクニカルな基盤となるでしょう。

国際安全保障環境を複雑にしている要因として、人工知能や量子コンピューター、センサー技術、バイオテクノロジーなどいわゆる新興技術と呼ばれる領域のイノベーションがあります。当然ながらこれらの技術は我々の社会をより豊かにすることに貢献しています。他方で、これらの技術が安全保障や国家の競争力に与える影響は極めて重大であり、競争優位を獲得し維持するため、あるいは安全保障の向上のためにどのようにイノベーションを促進し、不法な移転などを阻止しながら健全な競争環境を維持していくのか、イノベーションに係るエコシステムの健全性と強靭性を確保していくのかは大きな課題となっています。

また、こうした技術の軍事的な応用が紛争やエスカレーションのリスクを高める可能性を指摘する声もあり、また技術獲得をめぐる不平等性が国際社会における分断を深めかねない状況を作りだすとの議論もあります。

本センターは、戸崎洋史前所長(現在広島大学)のリーダーシップの下でのこれらの課題への取り組みに立脚し、一層国際の平和と日本の安全と繁栄に貢献できるよう、国内外のパートナーシップを重視しながらこれらの課題への取り組みを強化していきたいと考えています。

2024年8月29日

(公財)日本国際問題研究所
軍縮・科学技術センター
所長 秋山 信将