国問研戦略コメント

戦略年次報告2022
第1章 概観

2023-02-13
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2022年2月に開始されたロシアのウクライナ侵略により、欧州の安全保障秩序は根底から覆され、徐々に緊張を高めながらも比較的安定し協力的な大国間関係が存在した「ポスト冷戦」時代は完全に終わりを迎えた。日本を含む西側諸国は、力による現状変更を許さないとの原則を守る強い決意の下で前例のない対露経済制裁や対ウクライナ支援を実施し、自国の安全保障政策を転換した国も多い。しかし、ウクライナにおける戦争終結への道筋が見えない中で、エネルギー供給の不安定化やインフレに直面する西側諸国では、対ウクライナ支援の持続可能性と民主主義の強靱性が試されている。

インド太平洋地域では、数年来高まりを見せてきた米中間の緊張が2022年には特に台湾を巡って高まり、近い将来の大幅な緊張緩和は見通せない。ウクライナ戦争及び米中対立激化の中でロシアと中国は結束を強め、西側諸国との間で民主主義対権威主義の対峙、あるいは「新たな冷戦」とも呼ばれる世界のブロック化が生じつつある。多国間の枠組みを通じた国際協力は深刻な危機に陥り、食糧やエネルギー 危機の影響を最も強く受けるグローバル・サウスの国々は、不安定化する国際秩序の中での国益の確保という課題に直面している。世界は、冷戦終結以来の安全保障体制の前提がもはや維持されず、第二次世界大戦終結時に構築されて以来米国が主導してきた、ルールに基づく国際秩序の根幹も脅かされる、分断と不安定化の新たな時代に入った。

『戦略年次報告2022』は、国際情勢が激変した2022年を振り返り、米国主導の国際秩序の現状を分析しつつ「ポスト冷戦」後の時代を展望し、その中での日本の取り組みについて提言する。