疲弊するロシア・ウクライナと続く消耗戦、トランプ政権による停戦交渉は実現するのか
ロシアでは2024年3月の大統領選挙を経て、プーチン大統領の通算5期目の任期が開始された。同月編成の新政権では、経済専門家であるベロウソフが国防大臣に就任するなど侵略の長期化を見据えた戦時経済体制固めの人事が行われた。モスクワなど都市部では軍需に沸き、大統領・政権に対する国民の支持や継戦志向にも変化はない。他方、西側社会による経済制裁の影響で、ロシア軍の能力は減少傾向にあり、また、政権の支持率低下に直結する追加的動員には踏み切れずにいる。
ウクライナでは、ゼレンスキー大統領は4月、兵力不足を補うべく、動員可能年齢を拡張させる改正法案に署名した。また、米国をはじめとする西側諸国は軍事支援を継続、F16戦闘機やパトリオットなどを供与し、ウクライナの継戦能力維持に貢献をしている。しかし、同国の継戦能力は西側諸国の軍事支援に依存しており、支援が低下した場合、戦線の維持は困難となる。
両国に懸念材料がある中、8月にウクライナ軍はロシア領クルスク州へ侵攻、第2次世界大戦後初となる正規軍によるロシア国内への直接攻撃・領土占領に成功した。本攻撃はウクライナ東部に投入されているロシア軍兵力を分散させることを目的としたものであったが、ロシア軍は分散せず、当初は混乱していたロシア側の反撃体制が整うにつれ次第に占領地は奪還されつつあるなど、本稿執筆段階では行き詰まりを見せている。
ロシア・ウクライナ双方がこれまで見られてきた大規模な兵力による攻勢を行えずにいる中、兵器面でのエスカレートが進んでいる。11月に米英がウクライナへ供与している長距離ミサイルでのロシア国内への越境攻撃容認に対抗する形で、ロシアは新型極超音速中距離弾道ミサイルであるオレシュニクをウクライナに向けて発射した。このミサイルは欧州を射程圏内とするものであり、ウクライナへの軍事支援を続ける西側諸国に対するけん制であるのみならず、停戦の仲介に向かうであろう米国と、今後いかなる支援を継続するか検討を重ねている欧州とのデカップリングを見越したものでもあると考えられる。
このような混迷とした状況のなか、11月にトランプ前大統領が米大統領選に勝利した。選挙中の同氏の発言や閣僚の指名状況を踏まえて、仮にトランプ政権主導での停戦交渉が進展した場合、東部2州などウクライナ一部領土をロシアに譲渡あるいは現在の被占領地域を非武装地帯化する形での停戦が提起される可能性がある。ロシアはこれに加え、従来から主張をしてきたウクライナのNATO非加盟・ロシアにとっての「中立化」、すなわちウクライナの主権制限を要求することをもって停戦に合意したいと思われるが、ゼレンスキー政権はNATO加盟を通じた自国の安全確保と主権の維持を伴わない停戦には同意できず、トランプ政権の誕生までに少しでも交渉をウクライナ側優利で進めるべく、激烈な攻勢を行うであろう。仮に停戦に合意せず、継戦を選択した場合、米国に代わる大口の支援国は見出しがたく、またEU諸国がこれを穴埋めしうるか定かではなく、すでに多数の死傷者を出している自国民へのさらなる負担増という課題に対し難しい判断を迫られるであろう。
露中と露朝の結束が進み、東アジアに対する脅威の増大に
ウクライナ侵略が長期化する中、ロシアは中国や北朝鮮との関係強化に努めている。5月にプーチン大統領は再選後初の訪問先として中国を選択、また、BRICSやSCOなど、露中が主導する既存の枠組下での相互協力を推進している。さらには、中国軍が台湾周辺海域にて実施した軍事演習に前後して共同訓練を実施、同時期には中国海警局・ロシア国境警備隊が初の合同訓練を実施した。いずれの例も、海軍戦力の拡充を図る中国に対してロシアがノウハウを提供する構図を示している。
2025年も露中は軍事面のみならず、エネルギーや経済面など、多方面で連携を強化し続けると予想される。東アジア側面では台湾有事も念頭に、準軍事組織レベルから軍種間まで、両国が協働できうる体制の構築が進んでゆくであろう。
北朝鮮がロシアに対し武器・砲弾等を供給していることはすでに明白であり、さらに、6月にプーチン大統領は北朝鮮を訪問、「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名、11月に両国で批准されたことは、露朝がより密接な事実上の同盟関係へと進展していることの証である。ロシアは北朝鮮から武器弾薬を求め、その対価としてミサイル関連技術等の提供を受ける可能性がある。結果、ICBMの性能向上やSLBMの開発などの分野で北朝鮮のミサイル関連技術の格段の進化を促進することとなる。
いずれの例も、東アジア地域における脅威である中国や北朝鮮に対し、ロシアがそれぞれの国が欲する能力・技術を提供することで、戦略的連携をより深めている。すなわち、ロシアは同地域において間接的な脅威となっていると言える。
提言
- 双方の消耗戦の行き着く先は持久力に勝るロシアに有利となりかねず、それに加えて、トランプ政権の誕生はロシア有利での停戦をもたらしうる。日本はウクライナ支援を継続するであろうが、仮に停戦交渉が行われる場合、武力による一方的な現状変更を認めるような合意とならないよう関係各国へ関与をすべきである。すなわち、日本は北方領土問題という先例も鑑み、米露主導での停戦交渉が進展する場合においてもウクライナの領土主権が損なわれないよう、積極的に参画をする実益がある。
- 東アジア地域におけるロシアの間接的な脅威に対して、露中・露朝の連携が進む事態は望ましくない。これらの協力は不可逆なものではなく、国際情勢や大国間関係の動向により変化しうるものであり、同志国間の連携を通じるなどして、中長期的視座に立った機動的な取り組みが求められる。
- 侵略の帰趨にかかわらず、ロシアは日本の隣国として存在し続ける。トラック2会合や文化交流を通じたロシアとの対話チャンネルの維持・新規開拓は続けられるべきである。
(脱稿日2024年12月6日)