不安定な習近平個人支配体制
習近平総書記への権力集中はとどまるところを知らない。党や国家の主要ポストは習近平の追従者によって占められており、メディアでは「人民領袖」なる尊称が打ち出され、その政治姿勢、能力、思想的卓越などを讃える個人崇拝キャンペーンが展開されている。権力基盤は安定しており、挑戦者となりうる勢力も見当たらない。今や中国は江沢民、胡錦濤時代の集団指導体制から逸脱し、習近平の個人支配体制が定着しているといえる。事故や健康問題などが発生しない限り、2025年においても、習近平による支配が動揺する可能性は小さいだろう。むしろ、すでに2027年の党大会において最高指導者の座にとどまることが広く予想されている。
しかし、安定的な権力基盤は必ずしも安定的な政権運営を意味するわけではない。秦剛元外交部長や李尚福元国防部長の失脚、ロケット軍の司令員と政治委員の更迭、高官の汚職腐敗による摘発など、2023年から政治スキャンダルが繰り返されており、政権運営は混乱が続いている。2024年11月には、苗華(中央軍事委員会政治工作部主任)が調査を受けていることが明らかになったほか、李尚福の後任である董軍国防部長の失脚も噂されている(英フィナンシャル・タイムズが報道)。
すでに習近平政権発足から10年以上経っており、反腐敗闘争もその間続けられてきたが、依然として高級幹部レベルでも腐敗が蔓延している。腐敗防止という観点から見れば、習近平の反腐敗闘争はほとんど効果を上げていないのである。政治過程について見れば、「トップレベルデザイン」のスローガンの下に、人事や政策における習近平の影響力が過大となり、周辺は忖度に徹している。都合の悪い情報は習近平の耳に届きにくくなり、客観的状況の把握が困難となっている。習近平自身、李強や蔡奇など、少数の側近に依存し、党や政府の幹部に十分信頼を寄せられていない。李強でさえ、2024年の全人代では首相記者会見を取り消し、一層存在感を低下させている。このような状況は2025年になっても大きく変わらないだろう。政策の停滞、さらなるスキャンダルの続出も予想される。
党大会への準備
次回の共産党大会は2027年秋に予定されている。2025年は、党大会に向けた準備が始められることとなる。注目すべきは地方指導者人事である。各地域の党委員会書記や政府トップの交替が始められると思われる。そこから、次期中央委員会の陣容が少しずつ見え始める。2022年の党大会では、「第七世代」に数えられる1970年代生まれが一人も中央委員に選出されず、若手の昇進が全体として遅れている。2024年11月現在、第七世代で各省の党委員会副書記を務めているのは、内モンゴル自治区の時光輝、浙江省の劉捷、湖北省の諸葛宇傑、上海市の朱忠明などがいるが、2025年の人事交替では、彼らのいずれかが省長に昇進する可能性がある。将来の指導者候補となる。
経済停滞と社会不安
今日の中国の最大の問題は、経済の停滞である。不動産価格が下落し、若年層の失業率は高止まりしている。消費の低減が見られ、デフレへの懸念が高まっている。経済政策をめぐる論争の影響もあり、三中全会の開催が2024年7月まで遅れた。三中全会では、地方財源の拡大などが決定され、少子高齢化に伴う社会保障負担の増大という長期的課題への備えの意識は見受けられるが、財政状況の改善や個人消費喚起のための具体策は不十分で、改革の実現可能性も不透明である。
習近平政権は、過剰な国家安全重視路線をとり、外国に対する警戒を強めている。外資企業からすれば、従業員が突如拘束されるリスクが高まっているため、投資を躊躇わざるをえず、経済減速の大きな原因となっている。それでも習近平は依然として国家安全の重視を強調し続けている。しかし、国家安全と声高に叫びながら、足元の治安は急速に悪化している。2024 年には、全国各地で多くの通り魔事件が発生し、死傷者が相次いでいる。外国人も標的になっており、特に6月に蘇州、9月に深圳の日本人学校に通う児童が標的となり、死者も出た。これらの事件は、経済情勢の悪化に伴う社会不安が排外主義と結びついたヘイトクライムである可能性がある。
このような経済停滞と社会不安に直面してなお、習近平政権は有効な対応をとることができていない。経済の回復も展望できず、2025年も引き続き不安定な情勢が続くだろう。
提言
- 在中邦人の安全確保は、重点的に取り組むべき課題である。2015年の反スパイ法施行以後、17人もの日本人が拘束されているが、中国側はほとんど事情を説明していない。日本人の訪中ビザ免除が再開され、民間の往来が増える中、日本側は中国側に透明性向上、合理性に基づく法の執行を要求し続けなければならない。
- 日本人学校に関連する殺傷事件の影響は深刻である。これは政治問題であり、これまで日本に対する敵対感情を助長し、日本人学校に関するデマや嫌がらせを放置してきた中国政府の失政である。日本は中国側に誠意ある対応を要求してきたが、それを継続すべきである。一方で、一連の凄惨な事件に対しては、中国の良識ある人々も心を痛め、追悼の動きが広がった。そういった状況を日本に伝えることも重要である。
- 日中両国は「一衣帯水」の間柄である。両国政府は「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築することを改めて確認したが、この方針が実態を伴ったものとなるよう実質的な協力を深めるべきである。特に、政府要人や若手政治家の往来は継続・拡大すべきである。同時に日本は、中国と常に複数の人的ルートを確保し、中国の内政事情で日中間の交流が途絶える状況を回避する必要がある。
(脱稿日2024年12月2日)