国問研戦略コメント

戦略アウトルック2025
第3章 「米国第一主義」「MAGA」を推進:連邦政府3部門全てで共和党が優位

舟津奈緒子(日本国際問題研究所研究員)
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「2つの米国」とも言われるほどの分断により国内アジェンダの優先が継続

政治的分断は最近の米国政治の潮流であり、トランプ第1期政権、バイデン前政権のいずれの政権の支持率も、大統領の所属政党の支持者の支持率は8割程度、大統領の非所属政党の支持者の支持率は2割程度と、政党による支持が明確に分かれる傾向が継続している。2024年11月の大統領選挙では大接戦という事前の予想を覆し、共和党の「トランプ・ヴァンス」チームが民主党の「ハリス・ウォルズ」チームに選挙人得票数のみならず一般得票数でも勝利した。しかし、両党が志向する政策には依然大きな開きがあり、トランプ第2期政権の誕生後も米国政治の分断は続こう。

政治的分断の中では国内融和を目指すよりも自党の支持者へのアピールによって政策を遂行する姿勢がとられ、トランプ氏の優先課題である移民政策、減税、教育改革、「ディープ・ステイト」解体の名目の下での司法省や連邦捜査局(FBI)をはじめとする省庁改革など、国内アジェンダが優先されよう。

厳しい国境管理と経済的ナショナリズムの追求

今や共和党はトランプ党であり、伝統的な共和党の保守主義の政策というよりも、トランプ氏の主張する「米国第一主義」「MAGA(米国を再び偉大に)」に基づく政策が追求される。2024年選挙ではホワイトハウスと上下両院を共和党が掌握するトライフェクタとなった。さらに、最高裁判事も9名中6名を保守派が占め、連邦政府を構成する行政府、立法府、司法府の3部門の全てで共和党が優位な立場にあり、国内政治の深い分断にあってもトランプ大統領の主張する政策が推進されやすい状況にある。

こうしたなか、移民政策は引き続き米国の分断を表す象徴的な分野であり続けよう。かつては経済界寄りの共和党が外国人労働力の確保を望み、移民を積極的に受け入れる姿勢の民主党と方向性が一致していた。しかし、トランプ政権下では、「米国人の雇用が失われる」という論理に加えて、「米国の治安が悪化する」という論理で厳しい国境管理、排他的な移民管理政策がとられよう。不法滞在者の強制送還やメキシコとの壁建設、州兵や米軍の国境派遣が追求され、トランプ政権下の移民政策はアジア系移民を事実上排除した1924年成立の移民法が制定された時のような米国史上最も厳しい移民政策に並ぶと指摘する向きもある。他方、選挙期間中にトランプ氏が唱えた出生市民権廃止は合衆国憲法修正第14条の規定に反し実現が考えづらいなど、トランプ氏の主張する移民政策の実現性には注視が必要だ。移民政策は社会・文化的な影響も大きく、「移民の国・米国」の国柄を占う上で鍵となる分野である。

2024年大統領選で有権者が最も重視した分野は経済であった。近年の米国の内向き志向も反映し、トランプ第2期政権では経済的ナショナリズムの姿勢が強くなり、最も顕著な特徴が通商政策に現れよう。長らく共和党は自由貿易を推進してきたが、トランプ第2 期政権では10−20%の普遍的基本関税の導入や60%超の対中関税の実現など高関税を課す保護貿易的な通商政策が推進されよう。国際ルールに則った貿易秩序やマルチラテラルあるいはミニラテラルの貿易枠組みは米国が参加する形では動かず、関税や経済制裁を梃子とする二国間による取り決めが主流となる。さらに、日本製鉄のUSスチール買収計画への反対も継続され、米国の投資環境に対する不透明感も課題となる。

トランプ氏は2024年7月の共和党全国大会における大統領候補指名受託演説で、大統領就任初日に電気自動車(EV)の義務化を終わらせると述べており、テスラなど国内企業への一定の保護は見込まれるものの、バイデン政権下で進められたEV 推進策は撤回されよう。また、選挙キャンペーン中の標語「ドリル・ベイビー・ドリル(どんどん採掘しよう)」に則って、化石燃料の増産が見込まれる。気候変動対策も見直され、エネルギー政策の抜本的な転換が図られるのは必至だ。

トランプ第1期政権誕生時には政権移行の準備が整わず、重要な役職が空席の状態が続いたが、トランプ第2期政権発足にあたっては、大統領選勝利直後に新政権の人事を次々と発表した。しかし、大統領選の大口献金者である実業家のイーロン・マスク氏の連邦政府の支出を見直すために新設予定の政府効率化省トップへの指名をはじめ、政府要職経験のない人物の指名が相次ぎ、適格性をめぐって懸念の声も挙がっている。トライフェクタの下でも上院における共和党多数は僅差であり、大統領指名人事が上院で円滑に承認されるかどうかは注意を要する。ただし、トランプ陣営で選挙対策本部長を務めたスーザン・ワイルズ氏を政権の要となる大統領首席補佐官に起用するなど、総じて、トランプ大統領に忠実な人材が集結し、トランプ大統領の意向が強く反映された政権運営となることが予想される。

提言

  • トランプ第2期政権の政策は第1期時よりもより一層米国第一主義的、かつ、取引重視(ディール)型となる。同盟軽視をもたらしうると悲観する向きもあるが、同盟廃止やNATO 離脱までは考えにくく、第1期政権下では「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を推進しており、対中競争を背景にしたインド太平洋地域の重視に変化は予想されない。超党派で支持のある日米同盟の重要性をトランプ大統領や側近のみならず、連邦議会、州政府、シンクタンク、学術界など、多層的に幅広く働きかけ、米国第一主義を追求するトランプ政権に対して、日本の国益追求が米国の利益に重なる部分を主張していくことが求められる。
  • 日米両国が参加するG7や日米豪印(Quad)、日米韓、日米豪比などのマルチラテラルあるいはミニラテラルの協力枠組みの維持と強化に努め、米国の国際社会への関与を継続させることが重要である。さらに、米国第一主義が行き過ぎた場合には、米国が参加する・しないに関わらず、同志国との協力の深化を追求し、日本の国益を守るためのルール・仕組みづくりを予め準備、強化しておくことも怠らない。

(脱稿日2024年12月5日)