中東では、「アラブの春」以降、国家、地域、国際レベルの三層からなる「力の真空」が依然として継続している。国家レベルでは、シリアやイエメン、リビア、さらにイラクなどが、国民国家としての凝集性の脆弱さと統治能力の喪失により内戦状態に陥り、他国の介入を許し、武装非国家主体の跳梁跋扈などを引き起こした。他方、内戦を免れた中東各国は、「アラブの春」によって提起された諸問題への根本的な解決を怠り、いっそう権威主義化し、自国の利益を優先させて地域全体の秩序形成の責を果たしておらず、地域レベルでも「力の真空」が生じている。これらの危機をさらに深刻にしているのが、国内支持基盤強化を最優先にした米国のドナルド・トランプ大統領の中東政策である。