2021年3月16日に東京で日米安全保障協議委員会(2プラス2)が開かれ、両国の外務・防衛閣僚によってその成果が共同発表された。バイデン政権のトニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官がコロナ禍において最初の訪問先に日本を選んだのは、インド太平洋の安全保障環境が厳しさを増す中で日米同盟を重視する姿勢の表れであった。準備期間が短かったにもかかわらず、共同発表の内容はかなり踏み込んだところもあった。日米は共同発表に基づいた具体的な作業を行い、年内に再度2プラス2を開催するとしている。以下では、共同発表のポイントを振り返り、日本が取り組むべき課題について考察する。
まず、共同発表では中国が政治的、経済的、軍事的、そして技術的な課題を国際社会に提起しているとし、中国がルールに基づく既存の国際秩序を損なう行動を取っていることを名指しで批判した。これは、日米両国が中国の威圧的な行動を深刻に受け止めていることを示している。また、日米が中国に関する経済的・技術的課題に言及したことは、ハイテク技術をめぐる競争やサプライチェーンの強靱化のため、中国との部分的な切り離し(デカップリング)を目指すことを暗示している。日本の産業・科学技術政策にも、日本企業の経営戦略にも、発想の転換が求められることになるであろう。
とりわけ、4閣僚が「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した」ことは、台湾に関する政策に変更をもたらす可能性がある。従来、日米は台湾問題について「対話を通じた平和的解決を促す」としていたが、今回は日米が共同対処を検討するとも解釈できる表現になった。中国が2021年に共産党結党100年、2027年に人民解放軍建軍100年を迎える中、台湾に対して軍事的な圧力を強めているため、数年内に中国が台湾の武力解放を目指すことへの懸念が高まっている。日米両国は、これまで主に朝鮮半島有事を想定して共同対処能力を高めてきたが、台湾有事に備える必要性も強く認識するようになったと考えられる。
次に、4閣僚は国連安保理決議に言及して、北朝鮮の完全な非核化を目指すことを確認した。バイデン政権は北朝鮮政策の見直しを行っているが、政権内の一部にイラン核合意をモデルに北朝鮮との軍備管理を目指すべきとの声がある中、あくまで完全な非核化の追求を確認できたことは重要である。しかし、日本を射程に収める準中距離ミサイルを含む能力の廃棄を明記しなかったことには若干の懸念が残った。3月25日に北朝鮮が短距離弾道ミサイルを発射したが、バイデン政権の反応は抑制的で、バイデン大統領も記者の質問に弾道ミサイル発射が国連安保理決議違反であるとの認識を示しつつも、外交を追求すると答えたため、軍備管理によって米本土に対する脅威の除去を優先する懸念は払拭されなかった。
共同発表では、日本が防衛能力の向上によって同盟の中でさらなる役割の拡大を決意する一方、米国は核の傘を含む拡大抑止の提供を改めて確認した。4閣僚は、役割・任務・能力に関する協議を通じて、日米同盟の抑止力・対処力の強化を深めること、および「実践的」な(realistic)二国間・多国間の演習・訓練の必要性を表明した。イージス・アショアの代替案が非常に高額となり、他の装備の購入に悪影響が出る懸念がある中、日本が役割を拡大するためには、日本は北朝鮮のミサイルに常時対処しつつ中国の海洋進出にも対応するという原点に戻り、早急に費用対効果の高い方向性を示す必要がある。議論が進んでいないミサイル阻止能力の保有についても検討を進める必要がある。指揮統制面での懸案となっている自衛隊の統合作戦司令官の設置も早急に実現するべきである。
また、日米が安全保障政策を調整して共同対処能力を上げるためには、2015年の日米防衛ガイドラインを見直すべきである。特に「盾と矛」という日米同盟の役割分担を改め、日本の攻撃能力の役割を位置づけることが求められる。また、宇宙、サイバー、電磁波という新領域においても日米の相互運用性を高める必要がある。尖閣諸島の防衛はもとより、朝鮮半島有事に加えて、台湾有事にも備えた日米の共同作戦計画の策定、およびそれに基づく訓練と演習も不可欠である。共同発表では、米軍の「世界的な戦力態勢の見直し」に関連して連携することが確認されたが、海兵隊が新たな部隊の沖縄配備を検討し、ポストINFミサイルの日本配備も予想される中、日本は同盟の強化と地元負担の軽減に同時に取り組むことが求められるであろう。
共同発表では、香港および新疆ウイグル自治区の人権状況についても深刻な懸念が共有された。2プラス2に先だって行われた日米外相会談では、両閣僚がミャンマーの軍事政権がデモ参加者を弾圧していることに懸念を表明し、民主体制の回復を求めた。米国は民主活動家への弾圧や人権侵害に対して制裁を含む強い措置を取っているが、日本はこれまで制裁にまでは踏み込んでいない。日本政府は国内法上安保理決議がなければ制裁を科すことができないとの立場であるが、欧米諸国が制裁を強化する中、懸念を表明するだけでは同盟国や友好国の理解を得られない可能性が高まっている。
今回の2プラス2は、バイデン政権が中国政策や北朝鮮政策を見直す中、日本の利益と懸念をインプットする絶好の機会となった。しかし、日本が取り組まなければならない課題も浮き彫りとなった。とりわけ、民主主義国家と権威主義国家の間で国際秩序のあり方をめぐる競争が拡大する中、日本がどのような立ち位置を示すのかが問われている。2013年に国家安全保障戦略を策定した当時とは、国際環境は大きく変わった。国家安保戦略を早急に改定し、外交と防衛だけでなく、経済安保や人権問題などについても国家の姿勢を示す必要がある。2022年は日中共同声明から50周年に当たり、中国は日本に接近を図って、日米同盟に揺さぶりをかけてくることも予想される。日本はとりわけ対中戦略を入念に練った上で、年内に再び開かれる2プラス2に向けて、米国と政策をすり合わせる必要がある。