2018年の春、全国人民代表大会(全人代)に合わせて共産党が大規模な「党と国家機構改革」を発表し、中国共産党と中国政府の組織構造面で大きな改革が行われた。改革の方向性は明らかに党の存在感を高めるものであった。機構改革から約3年がたった今日、本稿では、改革の現状についてごく簡単に分析したい。
党と国家機構改革の概要
2018年の全人代当時、憲法の修正以外で最も注目されたのは、国家監察委員会の新設であった。この組織は、国家機構として作られ、党の中央規律検査委員会と共同で業務を行うとされた。国家監察委員会の設立に伴って、国務院の監察部及び国家腐敗予防局は廃止となった。
国家機構の組織構造も改革が行われ、統廃合や部門新設も行われた。注目に値するのは、多くの国家機構が党機関に事実上吸収されたことである。例えば、国家行政学院は事実上中央党校に統合され、党の直属事業単位として「一つの機構、二つの看板」となった。他には、国務院の国家公務員局や、ニュース、出版、ラジオ、テレビを司る国家新聞出版広電総局、国家宗教事務局、国務院僑務弁公室など、組織部門、宣伝部門、統一戦線工作部門、政法部門に関わる機構の統廃合が行われた。いずれも、国家機構の組織を看板だけ残すというもので、しかもそれを対外的に大々的に発表している。
党の組織においても改革が行われた。党中央政策決定議事協調機構と呼ばれるいくつかの重要な領導小組(中央全面深化改革領導小組、中央インターネット安全情報化領導小組、中央財経領導小組、中央外事工作領導小組)は、委員会に改組された。従来の領導小組は、あくまでも非公式的かつアドホックな協調機構という建前で設置され、必要に応じて、関係する部門担当者や幹部が参加するという形を取っていた。それが常設の正式な機構に改組された。それまでの領導小組が、政府の関連部門責任者による調整のための党のプラットフォームとして、党の領導的地位を支える存在であったことを考慮すると、委員会への格上げは、一層党の領導を強化する方策として打ち出されたものと理解できる。
この改革について、あるいは習近平政権それ自体の特徴を表すのは、「党政軍民学、東西南北中、党は全てを領導する」というスローガンである。党の領導は元より言われてきたが、「党政軍民学」と「東西南北中」を頭につけることで、「全て」をより強調する形となった。党と国家機構改革の方案の中ではもちろん、習近平は様々な場面でこのスローガンに言及し、党の領導を強化することを要求している。このスローガンは、必ずしも習近平政権になって現れたものではない。文化大革命期から華国鋒政権期にかけて用いられていたが、1980年代以降はほとんど見られなくなっていた。それが2016年以降、頻繁に登場するようになった。このことを以って直ちに習近平が毛沢東時代に逆戻りしようとしていると断言はできないものの、習近平が江沢民や胡錦濤の政権に比べて、毛沢東時代に使われたスローガンや概念に抵抗感がないことを表す一例である。今回の党と国家機構の改革は、毛沢東時代後半の極端な「党の代行主義」とまではいかないものの、党の存在感を名実ともに一層拡大しようとしたものであると言える。1987年の第13回党大会の主題ともなった党政分離の方向性との完全な決別である。
領導小組から委員会へ
党中央政策決定議事協調機構としての4つの領導小組の常設の委員会への改組は、2018年の党と国家機構の改革の重点の一つであった。4つの新たな委員会は、関係領域の重要な業務の「頂層設計、総体布局、統籌協調、整体推進、督促落実」(トップレベルデザイン、総体的な配置、統一的な計画と調整、全体的な推進、実行の促進)を担うとされた。
これらの改革は、改革方案に大々的に盛り込まれ、「格上げ」と説明されたが、その活動の状況には差異が見られる。委員会の開催情報は、習近平の活動報道として新華社に報道されたり、『人民日報』に掲載されたりするが、その報道状況はまちまちである。
まず、中央全面深化改革委員会である。前身の中央全面深化改革領導小組は2013年の18期三中全会で設置が決定され、2014年1月に発足した。これは習近平政権の肝煎りであり、習近平自身が組長となった「トップレベルデザイン」の代名詞のような組織である。中央全面深化改革領導小組は活発な活動が報じられてきた。2018年以降、新たな中央全面深化改革委員会も活発に活動し、2021年2月19日には、発足以来第18回の会議を開催した。18回の会議についてはいずれもある程度詳細な議論の内容も報じられている。
中央財経委員会についても、基本的に同様である。前身の中央財経領導小組は第18期指導部において、合計16回の会議を開催している。2018年に委員会に改組されてからは、2020年9月9日までに8回の会議を開催している。
これらとは対照的に、他の委員会の活動は殆ど見えてこない。外交関係者が最も関心を寄せる中央外事工作委員会は、2018年の改組後の5月15日に第1回会議を開催して以降、一度も会議の開催が報じられていない。事務局である中央外事工作委員会弁公室の主任である楊潔篪は、政治局委員以外に兼任職がなく、外国要人と会談する際にも、同弁公室主任の肩書を用いているにもかかわらず、その活動の様子が全く不明な状態である。中央インターネット安全情報化委員会に至っては、開催報道が殆どない。地方発の情報を確認すると、2020年3月までに第3回会議を開催しているらしい。おそらく、2018年以降、毎年3月頃に開催していると推測できる。
これまで見たように、領導小組から委員会への「格上げ」によって生じた変化は、今のところほとんど見られない。開催頻度や情報公開程度も、委員会ごとに差異はあるものの、それぞれ改組以前とほとんど変わりない。委員会という枠組について、将来的に活発化する余地が存在することは否定できないが、現時点では当初の注目に比べて、その効果が現れているとは言い難い。