研究レポート

極端派による既成政党の乗っ取りの可能性 -- 2022年中間選挙への視点 --

2022-10-14
待鳥聡史(京都大学教授)
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「米国」研究会 FY2022-1号

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。

もう一つの焦点

2022年中間選挙が近づきつつある。最大の焦点は、現在のところ連邦議会の両院で多数党である民主党が、それを維持できるかどうかであろう。近年のアメリカ政治においては、二大政党の双方が党内的な結束を強めつつ相手党とのイデオロギー的対立を深める、分極化傾向が顕著になっている。分極化するほど、政権党が議会で多数を占められない分割政府の場合に、政策過程の行き詰まりが生じやすくなる。このことを考えれば、民主党が両院で多数党を維持できるかどうかが、バイデン政権にとって大きな意味を持つことは明らかである。

もう一つの無視できないポイントは、共和党におけるトランプ派の伸長がどの程度か、である。トランプ派といっても、何らかの具体的な組織やまとまった行動があるわけではなく、その厳密な定義は難しい。しかし、前大統領であるドナルド・トランプの主張に共鳴し、彼の支援を得て当選を目指そうとする共和党候補者、およびその支持者のことを、ここでは便宜的にトランプ派と呼んでおくことにしよう。アメリカでときに揶揄的に使われる 『MAGA Republicans』 と、ほぼ重なると考えて差し支えない。

トランプ派、あるいは『MAGA Republicans』は、今日の共和党支持者の35%程度ではないかと考えられている。たとえば、22年9月のNBCの世論調査では、共和党支持者(共和党寄りを含む)に対して「あなたはご自身がドナルド・トランプの支持者としての面が大きいか、共和党の支持者としての面が大きいか、いずれだとお考えですか("Do you consider yourself to be more of a supporter of Donald Trump or more of a supporter of the Republican Party?")」と尋ねている。回答者のうち33%がトランプ支持者、58%が共和党支持者であった。この数字は調査時期による変動もあり、8月時点では41%と50%となっていたが、昨年春以降は常に共和党支持者という回答の方が多い(https://www.politifact.com/article/2022/sep/21/what-maga-republican/)。

その一方で、さまざまな報道や調査で既に明らかになっているように、トランプ派候補者は共和党の予備選挙において高い勝率を示している。予備選挙は活動家(activist)と呼ばれる熱心な党員の影響力の大きな機会であることを考えれば、この結果は驚くに値しない。共和党員全体に占める割合でいえば少数派であるトランプ派は、活動家の間では明らかに多数派なのである。荒唐無稽といえるほどに極端な主張をするグループ(極端派:extremist)が活動家の支持を得て実態以上の勢力になることは、近年のアメリカ政治では決して珍しくない。

アメリカの国政選挙は二大政党それぞれの擁立する候補の争いである以上、有権者は支持政党に基づく投票先の選択が基本となる。すなわち、ある選挙区にトランプ派の候補が立っていた場合、活動家以外の党員から見れば違和感があっても、共和党支持者はその候補に投票する可能性が高い。そもそも、2016年大統領選挙でのトランプの当選自体が、そのような投票行動の帰結であった。結果として、共和党支持者の多数派は望んでいないにもかかわらず、トランプ派が議会共和党の多数を占め、さらには議会各院の多数派になることも考えられる。つまり、トランプ派による共和党の乗っ取りである。

その実現可能性については多くの分析や予測が存在するのでひとまず措き、以下の本稿では、アメリカの政党政治においてこのような極端派の乗っ取りがいかなる意味を持つのか、さらに乗っ取りが生じた場合に何が起こると予測されるのかについて、少し理論的に検討しておくことにしたい。

なぜ乗っ取りが生じるようになったのか

トランプ派に限らず、特定の党内グループの伸長さらには乗っ取りが持つ意味を考えるためには、アメリカの大統領制の特徴を踏まえる必要がある。大統領制は、アメリカの政治制度の柱である権力分立の、連邦政府次元における具体的な姿である。権力分立に基づく政治制度とその運用が、アメリカ合衆国憲法の制定に大きく貢献したジェイムズ・マディソンにちなんで「マディソン主義(Madisonian)」と呼ぶことからも明らかなように、近代国家における大統領制を通じた権力分立は、合衆国憲法をその制度的起源とする。

しかし、大統領制には多数のヴァリエーションが存在することは今日広く知られており、アメリカは大統領制のルーツ国ではあるが、典型例とまでは言い難くなっていることも確かである(Mainwaring and Shugart 1997; Kasuya 2013)。その大きな理由は、アメリカの大統領制は他の多くの国と比べて大統領の権限が乏しいことと、議会選挙が小選挙区制によっていることに求められる。18世紀末に誕生した大統領制は、その後の政府の役割拡大などに対応すべく、行政部門を率いる大統領の権限を強め、議会にはそれを多様な政治勢力によって抑制するよう比例代表制など比例性(proportionality)の高い選挙制度と組み合わせるケースが多くなった。今日、アメリカの大統領制はむしろ外れ値に近い。

大統領の権限と議会の選挙制度という二点において特徴的なアメリカの大統領制は、政治過程に以下のような特徴をもたらした。すなわち、大統領選挙を戦うために形成された全国的な二大政党が議会選挙でも中心になること、大統領選挙の勝利は二大政党の大きな目標だが大統領ポストを得るだけでは政策の実現にはつながらないことである。アメリカほどの人口や面積を持つ国の場合、国内の多様性が高まるために、小選挙区制の議会選挙は選挙区ごとの有力二候補の対決しかもたらさず、本来はカナダなどのように地域政党などが多く形成される可能性が高い。大統領選挙の存在がそれを抑止しているが、社会経済的多様性から全国的二大政党の内部の結束は弱く、必然的に党内分派が生じることになる。岡山裕が指摘するように、アメリカの二大政党は本来的に「テント」なのである(岡山 2020)。

したがって、党内分派が形成され、分派相互間の対立や競争が存在することは、アメリカの政党にとってはむしろ常態である。その裏返しとして、政策実現のための多数派形成は超党派で行われることが想定されていた。超党派の多数派形成は、一方において政党の存在意義をヨーロッパの教科書的な近代政党とは異ならせたが、他方においては厳格な権力分立の下での政策過程の行き詰まりを抑止する効果をもたらしていた。分割政府になっても重要立法は可能であるというデイヴィッド・メイヒューの古典的見解は、今や十分な説得力を持つとは言い難いが、このような政党政治のあり方を前提にすれば容易に了解可能であろう(Mayhew 2005)。

1990年代以降誰の目にも顕著になった政党間関係の分極化、すなわち政党間対立の激化と政党内対立の弱まりは、権力分立制や超党派の多数派形成と組み合わされた二大政党制というアメリカ政治の基本的条件を、大きく変化させた。超党派の多数派形成ができないのであれば、少数党や党内少数分派であることの価値は大きく低下する。逆に、党内多数派を握り、議会多数党や政権党の地位を確保できるようになれば、自らの望む政策を実現できる可能性は著しく高まる。結果として、党内分派相互間の競争は対立するグループを根絶やしにして党内覇権を握る動きに変わり、自らのグループが圧倒的な多数派となるよう党を乗っ取ることが追求されることになる。アメリカの政党は、多様な立場のグループが集い共存するテントから、不寛容で一枚岩的な戦闘集団へと転じたのだといえよう。

乗っ取りの試みは、トランプ派だけに見られるものではない。2010年代初頭には、ティーパーティー運動による共和党の乗っ取りの動きが見られた。同じく共和党において、1990年代半ばにニュート・ギングリッチらの台頭に際して進められた基本政策確立の試みも、乗っ取りに近いものだったと考えるべきなのだろう。今日、民主党における党内最左派(民主社会主義派)の非妥協的な姿勢も、その勢力からいって実際の乗っ取りは不可能であろうが、行動様式としては共通するところが大きい。極端派は、その主張そのものが強硬である場合も多く、党内覇権争いに適合的であることも指摘できよう。

乗っ取りはアメリカ政治に何をもたらすのか

ここまで述べてきたように、乗っ取りはアメリカ政党政治の基本的条件の変化、すなわち分極化に対する党内分派の応答という面を持つ。大統領選挙に勝つためだけであれば、党内に多様なグループの存在を認め、それらが協力し合うことで無党派層にも訴求できる公約を掲げることが最適なのであり、長らく二大政党にはそのようなダイナミクスが作用してきた。それは、ヨーロッパの組織政党を標準と見なす考え方からは異端視されながら、連邦議会における多数派形成の流動性につながることで、政策過程の行き詰まりを避ける効果を持っていた。

したがって、乗っ取りが持つ最大の意味、あるいは乗っ取りを通じて目指されることは、連邦議会における党内の結束の向上にある。理念や体系的な政策の下に結束し、反対党との安易な妥協や党内分派の存在を許容しないことにより、大統領選挙に勝つだけでは政策の実現ができないという権力分立制の制約を克服することが、乗っ取りのもたらすものなのである。大統領制の政策過程とは、結局のところ議会における多数派形成をいかに行うかが鍵を握っており、アメリカのように議会の権限や自律性が大きい場合には、その意味は一層強まる。1980年代にレーガン政権誕生の原動力となった共和党保守派が、90年代に議会共和党に目を向けたことは示唆的である。

それだけに、乗っ取りがアメリカ政治に与える影響は大きい。直近の中間選挙についていえば、トランプ派による議会共和党の乗っ取りが実現した場合には、現在よりもさらに政党間対立は激しくなり、分極化傾向は強まる。多くの報道機関や調査機関は共和党が少なくとも下院では多数党となると予想しており、分割政府の出現も伴うことであろう。その場合には、バイデン政権が政策実現を図るための手段は大統領令の活用などの単独行動(unilateral action)によるしかなくなる可能性が高い。単独行動への依存はオバマ政権やトランプ政権にも見られた(梅川 2017)。しかし、現在は連邦最高裁もまた保守化傾向を強め、政党政治の分極化に関与していることを忘れてはならない。すなわち、バイデン政権による単独行動は、少なくない割合で連邦最高裁に退けられるとも考えられる。そうなった場合には、政策過程の行き詰まりはいっそう打開困難となるだろう。

さらに、共和党のトランプ派や民主党の民主社会主義派のような左右の極端派が二大政党を乗っ取る場合には、統一政府(政権党が両院において多数党である場合)と分割政府(政権党が少なくとも一院において少数党である場合)の政策過程は大きく異なったものとなり、統一政府における極端な政策の推進と分割政府における激しい行き詰まりが、アメリカ政治の常態になるであろう。かつてイギリスにおいて財政政策や金融政策の "stop-go"(あるいは "stop and go")と呼ばれる頻繁な転換が行われ、それがマクロ経済の疲弊をもたらしていると指摘された。アメリカの場合にも政策の振幅が著しく拡大し、近似した悪影響が生じる恐れは決して小さくない。それは外交・安全保障政策にまで大きな影響を及ぼしうる。

その延長線上に、極端派の乗っ取りに伴う統一政府と分割政府の対照性の強まりが、アメリカの政治制度、ひいては民主主義体制への信頼を損ねる危険性にも留意すべきであろう。トランプや彼の支持者が民主主義の破壊者であるという指摘は、既に多く見られる(たとえば、レビツキー=ジブラット 2018; ダイアモンド 2022)。その指摘には首肯できるところも多いが、より深刻なのは、二大政党の双方が極端派に乗っ取られてしまうことである。分割政府化や連邦最高裁の介入を伴って政策過程が完全に行き詰まる場合にも、統一政府であって一方の極端派の主張が次々に政策となる場合にも、国内の有権者の多数派の不信感は著しく高まり、世界的な民主主義体制への評価の低下も招きかねない。

そう考えるとき、アメリカ政治における極端派への死活的な防衛ラインは、大統領選挙ではなく連邦議会選挙であるといえるかもしれない。今回の中間選挙においては、この点にも目を向けておきたい。




参考文献

梅川 健(2017)「大統領による政策形成と「大統領令」」平成28年度外務省外交・安全保障調査研究事業報告書『米国の対外政策に影響を与える国内的諸要因』日本国際問題研究所。

岡山 裕(2020)『アメリカの政党政治』中公新書。

ダイアモンド、ラリー(2022)『侵食される民主主義』(市原麻衣子監訳)勁草書房。[Larry Diamond (2019), Ill Winds: Saving Democracy from Russian Rage, Chinese Ambition, and American Complacency. New York: Penguin Press.]

レビツキー、スティーブン=ダニエル・ジブラット(2018)『民主主義の死に方』(濱野大道訳)新潮社。[Steven Levitsky and Daniel Ziblatt (2018), How Democracy Dies. New York: Crown.]

Kasuya, Yuko, ed. (2013), Presidents, Assemblies and Policy-making in Asia. Houndmills: Palgrave Macmillan.

Mainwaring, Scott and Matthew Shugart (1997), Presidentialism and Democracy in Latin America. New York: Cambridge University Press.

Mayhew, David (2005), Divided We Govern (second edition). New Haven: Yale University Press.