当研究所は2022年3月16日に緊急ウェビナー「核抑止の今日と東アジアの戦略環境」を実施し、ロシアのウクライナ侵略が続く中、米国の「核態勢の見直し」(NPR)への影響や日本を含む東アジアの戦略環境への波及について、日米の専門家が議論しました。
アンナ・ペッチェリ・米ローレンス・リバモア国立研究所グローバル・セキュリティー・リサーチセンター博士研究員は、過去のNPRには宣言政策、軍備管理、核兵器の近代化に関して継続性がみられ、バイデン政権のNPRもそうなるであろうと述べました。ブラッド・ロバーツ・米ローレンス・リバモア国立研究所グローバル・セキュリティー・リサーチセンター所長も、バイデン政権のNPRは継続を重視し、中国が核戦力を増強する中で東アジアに肯定的な影響をもたらすとする一方、ロシアのウクライナ侵略をうけて、欧州では拡大抑止の強化についてNATOの中でより積極的な議論が行われるであろうとの見解を示しました。高橋杉雄・防衛研究所政策研究部防衛政策研究室長は、NPRが米国内の核抑止派と核軍縮派の間の断絶に影響を受けていることに懸念を示すとともに、ウクライナ情勢をうけても東アジアの方がより危険な地域であることに変わりはなく、中国の核戦力の増強により米中が相互確証破壊の関係に近づいており、拡大抑止のあり方を考え直す必要があることを指摘しました。秋山信将・一橋大学教授/当研究所客員研究員は、米軍備管理専門家の中で大西洋派と太平洋派の間に断絶が見られることを指摘した上で、ウクライナでは米国と同盟国は危機の安定性の維持に失敗したが、アジアにおいては中国を軍備管理に引き込む可能性を高めることになるかもしれないと述べました。以上の発表をうけて、戸崎洋史・当研究所軍縮・科学技術センター所長は、核抑止に関してウクライナ戦争が突きつける新たな課題、中国が学んでいる教訓、次期NPRが核の近代化を後退させた場合の影響などについて質問しました。その後、市川とみ子・当研究所所長の司会の下で活発な議論と質疑応答が行われました。