米国製の朝鮮半島の航空図における竹島の記載について
執筆者:舩杉力修(島根大学法文学部准教授)
この概要については、調査者の個人的見解であり、日本国際問題研究所の見解を代表するものではない。
<航空図の概要>
①タイトル:KOREA JPC-29【別紙1】
※JPC:Jet Pilotage Charts(ジェットパイロテージチャート=航空図)とみられる
※米国議会図書館の目録によると、JPCは、1970年代~1980年代に、地域別に作製された米軍製航空図のシリーズで、各航空図で縮尺が異なっている。米国議会図書館には、Africa(JPC-30、31)、China (JPC-11)、Near East(JPC-4R)、Sino-Soviet bloc(JPC-20)、Baltic Sea(JPC-14)、Black Sea(JPC-15)、Northern Europe(JPC-6R)、Europe and North Africa(JPC-3R)、Central America(JPC-39)、Germany(JPC-13)、Cuba(JPC-12)、Indonesia--Philippines(JPC-27)、South America(JPC-40、41、40a、41a)がある。
・縮尺:128万3031分1
・発行年月:1972年5月
・発行者:USAF ACIC(THE AERONAUTICAL CHART AND INFORMATION CENTER)
(米国空軍 航空図・情報センター)
・所蔵:米国国立公文書館
・図法:ランベルト正角円錐図法(標準緯線 37°N と 65°N)
・記載内容
- ・日本海には鬱陵島と竹島が出ており、鬱陵島と竹島との間には、国境線が引かれ、'KOREA/JAPAN'とし、竹島には島名はないものの、日本領と記している
- ・朝鮮半島には、'KOREA'と記し、北朝鮮と韓国との間にも点線(境界線)が引かれ、北朝鮮と中国は赤色に彩色されている。
- ・鴨緑江河口にも中国と朝鮮との国境線が引かれ、CHINA/'KOREA'と記している。
- ・北方限界線の南側に位置する、韓国領の西海五島のうち白翎島・大青島・小青島・延坪島は、彩色がなく、韓国領としている。
②タイトル:KOREA JPC-29 EDITION2【別紙2】
・縮尺:128万3031分1
・発行年月:1982年6月
・発行者:DMAAC(The Defense Mapping Agency Aerospace Center)
((米国国防総省)国防地図局航空宇宙センター)
・所蔵:米国国立公文書館
・図法:ランベルト正角円錐図法(標準緯線 37°N と 65°N)
・記載内容
- ・①と②はセットの航空図である。
- ・日本海には鬱陵島と竹島が出ており、鬱陵島には'(REPUBLIC OF KOREA)'と記し、韓国領とする一方で、竹島には島名がないものの、'(JAPAN)'と記し、日本領と記している。
- ・北朝鮮と韓国との間にも点線(境界線)が引かれ、北朝鮮は'NORTH KOREA'、韓国は、'REPUBLIC OF KOREA'と記している。
- ・鴨緑江河口では、北朝鮮の西端の薪島には'(NORTH KOREA)'と記し、その西に位置する小鹿島、大鹿島には'(CHINA)'と記し、鴨緑江河口が中国・北朝鮮の国境であることが分かる。
- ・北方限界線の南側に位置する、韓国領の西海五島のうち白翎島・大青島・小青島・延坪島など、北方限界線の南側の島には、'(REPUBLIC OF KOREA)'と記し、韓国領とし、北方限界線の北側の島には'(NORTH KOREA)'と記し、北朝鮮領としている。
- ・すなわち第2版では国境線の記載方式が変更されている。
- ・ただし、②には、注記として、"Note:This chart is not an authority for international boundaries."(「この航空図は、国際的な境界線に対して権威あるものではない」)と記している。これは、1977 年以降、200 海里問題の設定で、日韓の間で竹島問題が顕在化したことと関係し、米国は日韓とも同盟国という立場から、積極的に竹島問題に介入したくないという意向が反映されていると考えられる。
③タイトル:KOREA JPC-29A【別紙3】
・縮尺:256 万6062 分1
・発行年月:1972年5月
・発行者:USAF ACIC(THE AERONAUTICAL CHART AND INFORMATION CENTER)
(米国空軍 航空図・情報センター)
・所蔵:米国国立公文書館
・図法:ランベルト正角円錐図法(標準緯線 37°N と 65°N)
・記載内容 ①とほぼ同じ
- ・日本海には鬱陵島と竹島が出ており、鬱陵島と竹島との間には、国境線が引かれ、'KOREA/JAPAN'とし、竹島には島名はないものの、日本領と記している
- ・朝鮮半島には、'KOREA'と記し、北朝鮮と韓国との間にも点線(境界線)が引かれ、北朝鮮と中国は赤色に彩色されている。
- ・鴨緑江河口にも中国と朝鮮との国境線が引かれ、CHINA/'KOREA'と記している。
- ・北方限界線の南側に位置する、韓国領の西海五島のうち白翎島・大青島・小青島・延坪島は、彩色がなく、韓国領としている。
④タイトル:KOREA JPC-29a EDITION2【別紙4】
・縮尺:256 万6062 分1
・発行年月:1982年6月
・発行者:DMAAC(The Defense Mapping Agency Aerospace Center)
((米国国防総省)国防地図局航空宇宙センター)
・所蔵:米国国立公文書館
・図法:ランベルト正角円錐図法(標準緯線 37°N と 65°N)
・記載内容 ②とほぼ同じ
- ・③と④はセットの航空図である。
- ・日本海には鬱陵島と竹島が出ており、鬱陵島には'(REPUBLIC OF KOREA)'と記し、韓国領とする一方で、竹島には島名がないものの、'(JAPAN)'と記し、日本領と記している。
- ・北朝鮮と韓国との間にも点線(境界線)が引かれ、北朝鮮は'NORTH KOREA'、韓国は、'REPUBLIC OF KOREA'と記している。
- ・鴨緑江河口では、北朝鮮の西端の薪島には'(NORTH KOREA)'と記し、その西に位置する小鹿島、大鹿島には'(CHINA)'と記し、鴨緑江河口が中国・北朝鮮の国境であることが分かる。
- ・北方限界線の南側に位置する、韓国領の西海五島のうち白翎島・大青島・小青島・延坪島など、北方限界線の南側の島には、'(REPUBLIC OF KOREA)'と記し、韓国領とし、北方限界線の北側の島には'(NORTH KOREA)'と記し、北朝鮮領としている。
- ・すなわち第2版では国境線の記載方式が変更されている。
- ・都市は釜山、ソウル、平壌が記されている。
- ・ただし、④には、注記として、"Note:This chart is not an authority for international boundaries."(「この航空図は、国際的な境界線に対して権威あるものではない」)と記している。これは、1977 年以降、200 海里問題の設定で、日韓の間で竹島問題が顕在化したことと関係し、米国は日韓とも同盟国という立場から、積極的に竹島問題に介入したくないという意向が反映されていると考えられる。
<意義>
・米国政府作製の朝鮮半島の航空図で、竹島が日本領として記載されているのを確認したのは初めてである。
・これは、サンフランシスコ平和条約の起草国である米国が、竹島を日本領と認識していたことを反映していると考えられる。
<その他>
今回米国国立公文書館で発見された航空図4点のうち2点(①と②)の複製版は、島根県竹島資料室で、1月27日より展示されている。
参考:北方限界線(Wikipedia)