2006年5月31日に韓国で統一地方選挙が実施され、第1野党であるハンナラ党が圧勝した。主要7市長と9道(県に相当)知事の16首長選で、ハンナラ党が12首長を確保した。与党であるヨルリン・ウリ党が確保したのは、たった1つであった。人口が集中している首都圏(ソウル特別市、仁川市、京畿道)の地方議会選挙における234の選挙区で、ハンナラ党の候補は全員当選した。ウリ党は選挙区では1人も当選せず、比例代表で5人が当選しただけであった。地方選挙とはいえ、ウリ党にとっては、目を覆いたくなるような惨敗である。
今回の地方選挙は、全国単位の選挙としては、来年の12月に控えている大統領選挙に直近のものである。そのため、与党ウリ党に対する国民の評価を示す選挙として考える見方が多かった。加えて、今回の地方選挙は、目新しいものが多い。もともと韓国の統一地方選挙は歴史的には新しいものである。1961年に廃止された韓国の地方自治制度が1987年の民主化によって復活することになり、1995年6月から統一地方選挙が始まった。4年ごとに実施され、今回で4回目になる(1回目と2回目の間だけは3年間)。今回の選挙では、全国単位の選挙としては初めて投票権が20歳から19歳以上に引き下げられた。さらに、新たに設けられた永住権制度によって、権利取得後3年を過ぎた外国人永住権者の投票権が初めて認められた。また、それまで小選挙区制(主要7市と道は比例代表制も導入)だったのが、主要7市と道の選挙では小選挙区、それ以外は中選挙区となり、さらに比例代表制が全ての選挙に導入された。
今回の地方選挙におけるハンナラ党の勝利は選挙前から確実視されていた。あらゆる世論調査で、ハンナラ党の優勢が伝えられてきた。しかも、蓋を開けてみると予想以上にハンナラ党の圧勝であった。なぜ、与党ウリ党はここまでの惨敗を喫し、野党ハンナラ党は圧勝したのであろうか?
■なぜ、野党が勝利したか?
今回の選挙は、盧武鉉大統領が就任して、約3年半が過ぎた時に行われた。これは、1995年に行われた第1回統一地方選挙と似た状況である。金泳三大統領が就任して約2年半後に実施されたのが第1回統一地方選挙であった。この地方選挙でも野党が勝利している。つまり、両選挙とも大統領が就任してからかなり月日が経った頃に行われ、野党が勝利した地方選挙なのである。
一般的に、大統領が就任して間もない時期に行われた選挙では与党に有利で、大統領任期の中間にあたる年に行われる中間選挙では野党に有利といわれている。韓国の大統領は再任が不可能なので、次の大統領選挙まで野党有利が続くことになる。実際に、大統領が就任して間もない頃に行われた地方選挙では、与党が勝利している。金大中大統領が就任して約半年後に行われた第2回統一地方選挙では、与党の勝利であった。反対に、金大中大統領の任期終了の約半年前に行われた第3回統一地方選挙では、野党が勝利している。つまり、大統領就任から時間が経った選挙では、野党に有利であるといえる。
選挙実施日 | 選挙の内容 | 勝利政党 |
1992. 12. 18 | 第14代大統領選挙 | |
1995. 06. 27 | 第1回統一地方選挙 | 野党 |
1997. 12. 18 | 第15代大統領選挙 | |
1998. 06. 04 | 第2回統一地方選挙 | 与党 |
2002. 06. 13 | 第3回統一地方選挙 | 野党 |
2002. 12. 19 | 第16代大統領選挙 | |
2006. 05. 31 | 第4回統一地方選挙 | 野党 |
2007. 12予定 | 第17代大統領選挙 |
大統領就任から時間が経てば野党が有利なのは、大統領支持率の低下と関連していると考えられる。中間選挙は、政権に対する過去の実績が問われる場合が多い。従って、大統領に対する支持率が低下していれば、それだけ野党には有利なのである。盧武鉉大統領の支持率は就任当初は約80%もあったが、3年目になると約20%まで落ち込んだ。金泳三や金大中大統領も任期3年目になると、30%台にまで支持率が落ち込んでいる。つまり、支持率が高い大統領就任当時に地方選挙が行われると与党が勝利しやすく、就任して月日が経ち支持率が低くなった頃に地方選挙が行われると野党が勝利しやすいという構造である。今回の統一地方選挙は、まさに大統領支持率が約20%まで低下した時期に行われ、野党が圧勝する条件が整っていた選挙だったのである。
■大統領選挙に影響するか?
この統一地方選挙は、全国単位で実施される選挙としては2007年12月に行われる予定の大統領選挙の直近のものである。そのために、この選挙の結果が大統領選に大きく影響すると考える向きは多い。
しかし、今回の選挙結果が、次の大統領選挙に大きく影響するかといえば、必ずしもそうとはいえない。というのは、韓国の大統領選挙では、政党よりも候補者個人に焦点が当てられる。ハンナラ党とハンナラ党候補への支持は必ずしも一致しない。従って、今回の選挙結果によって、大統領選挙でもハンナラ党候補が優勢になると考えるのは早計である。
今回の選挙結果が大統領選に影響を与えるとすれば、それに伴う政界再編である。第1野党であるハンナラ党が圧勝したことによって、与党であるウリ党は大変な危機感を覚えているであろう。それは、ウリ党代表である鄭東泳が大敗によって辞任したことからも分かる。大統領選挙では、ハンナラ党が単一候補を出してくることが想定されるので、反ハンナラ党陣営は団結して単一候補を出さなければ勝てないと焦燥感を抱き、政界再編に動く可能性がある。
鄭東泳が辞任した現在では、前国務総理である高建が反ハンナラ党陣営の最有力大統領候補である。その高建は6月2日に新党を結成することを宣言した。新党を結成した高建が、ウリ党や前与党であり現第2野党の民主党と連合し、反ハンナラ党陣営の単一候補として大統領選挙に出馬すれば、ハンナラ党候補が敗れる可能性も残されている。
もちろん、ハンナラ党が単一候補を出すことに失敗することもあり得ないわけではないし、高建に代わる反ハンナラ党陣営の候補が浮上してくる可能性もある。大統領選挙までは、まだ1年半も残されている。その間の政界再編がどのように動くかは、注意深く推移を見守るしかない。
余談だが、今回の地方選挙における与党の大敗によって、大統領の外交政策にも変化があるだろうと考える向きもある。しかし、韓国の選挙で外交政策は重要な争点になっていない。韓国の選挙において関心が高いのは、経済・福祉問題であり、政治・外交問題ではない(この傾向は、地方選挙に限らず、大統領選挙にもある)。今回の地方選挙でも、投票者がウリ党に投票しなかったのは、大統領の外交政策を批判するためだったのではない。大統領の外交政策は投票者から批判されていないのである。ということは、大統領は必ずしも外交政策を変える必要がないということになる。従って、たとえ大統領の外交政策に変化があっても、それが選挙結果によるものとは限らない。また、次の大統領選挙を意識して大統領が外交政策を変えたとしても、選挙に及ぼす影響は、あまり大きくないであろう。