4月26日、北京で、上海協力機構(略称SCO。中国、ロシア、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタンが加盟)国防相会議が開催された。SCOの枠内では、合同反テロ演習が2003年以来実施されており、昨年8月の中ロ合同反テロ演習もその一環であるが、今般のSCO国防相会議では、ロシアのイワノフ副首相兼国防相が2007年にロシア領内ウラル地方でSCO加盟六カ国による合同反テロ演習を実施することを提案、これが採択された。この演習は、国境警備部隊と各部隊が協力してテロ組織を殲滅するものとして予定されている模様である。通常、この種の演習は、正規軍主体で行うものだが、これに国境警備部隊が参加するというのは、この演習がまさに国境をまたぐテロ集団をターゲットにしていることを示している。実際、中央アジア地域におけるテロ集団の活動は、この地域の安全保障にとって現実的な脅威となっており、これに対処するには関係各国間の協力が欠かせない。その意味から、こうした演習は、たしかに時代の要請に合致するものであろう。また、テロリストの資金源の一つが麻薬であるという意味から、麻薬対策をテロ対策の一環として挙げることができるが、4月20日に北京で、SCO麻薬捜査法執行会議が開催された。同会議では、麻薬犯罪取締りに向けた情報・資料の交換や、そのための各国間の協力関係の構築に関する協議がなされた模様である。アフガニスタンは世界の大麻生産量の大半を今も生産しており、同国に隣接するSCO諸国は、麻薬問題に深刻に悩まされているという。
他方、上記の二つの会議に先立つ4月18日には、北京でSCO評議会も開催されている。これについて関係者は、「SCOは地域の安全保障と経済協力に大きな役割を果たしている。SCOの枠内での経済協力は不断に前進している」、「SCO加盟国の間における経済発展の不均等や、地域のテロリズム・分離主義などの問題から、SCOが地域の安定に果たす役割は一層大きくなっている」、「SCOの枠内での経済協力、特にエネルギー分野での協力は重要である。SCOの枠内でのエネルギー協力は、地球規模でのエネルギー安全保障にとって利益である」などと指摘している。SCOは、6月中旬に首脳会議を開催するが、上記SCO評議会についての関係者の指摘を考慮すると、同首脳会議では、テロ対策のみならず、エネルギー分野を中心とした経済協力についても議論がなされるものと推察される。そういえば、7月に開催されるサンクトペテルブルグ・サミットでも、エネルギー安全保障が主要議題の一つとして予定されている。
以上のことから、最近のSCOは、加盟各国共通の問題に現実的に対応していく観点から、特にテロ対策と経済協力分野での相互関係の強化を進めている状況にあるということがいえる。こうした状況は、SCO加盟国をとりまく情勢に照らせば、当然そうあって然るべきものであろう。
さて、ところで、現在SCOが「米国抜き」の地域協力機構として積極的に活動していることは事実ながら、将来SCOがどれほどの地域協力機構になれるかを予想するのは、なお難しい。SCOには、正式加盟六カ国のほかに、モンゴル、イラン、インド、パキスタンがオブザーバーとして加盟しており、いずれこれら諸国の正式加盟についても取り上げられるとみられ、これら諸国が正式加盟すれば、SCOは極めて広範な地域をカバーすることとなり、この点にSCOが秘める大きな可能性を見る向きもあろう。しかし、加盟国が増えれば増えるほど、各国間の利害が対立する可能性も増大し、結果として機構の一体性を保つことは難しくなる。早くも昨年6月、ロシアの識者が「SCOは外見上立派な国際機構だが、加盟各国が意見をどう調整して何をどうしていくのか判然とせず、その実際の活動には疑問がある」旨指摘しているが、これは今も一定の説得力を持つ。加えて、中央アジアにはSCO以外にも地域協力機構が既に少なからず存在するわけで(注)、SCOは、現在においてさえ、中央アジア地域における唯一絶対的な地域協力機構ではない。こうしたことは、国際政治におけるSCOの位置づけを考えるにあたって、念頭に置いてよいだろう。
(注)ユーラシア経済共同体(ロシア、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタンが加盟)、集団安全保障条約機構(ロシア、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ベラルーシ、アルメニアが加盟)、統一経済圏(ロシア、カザフスタン、ベラルーシ、ウクライナが設立に向けて取り組み中)など。
さて、SCOは、昨年の中央アジア駐留米軍撤退期限明確化要求や、中ロ合同反テロ演習の際に明らかに見受けられたように、とかく「中ロの反米連携」ないし「中ロの軍事ブロック化」といった視点から論じられがちである。しかし、上記のようなことを踏まえれば、SCOが「反米連携」ないし「軍事ブロック化」するようなことは、まず想定できないだろう。中ロが米国に対して一定の警戒感を抱いていること、また中ロが世界の多極化を標榜していることは事実ながら、このことばかりに注目するのは、視点として偏向しているとのそしりを免れない。「潜在的な警戒感の存在」を「軍事的対立の可能性」にまで結びつけるのは、論理の飛躍に過ぎるというべきだろう。
この点に関し、ロシアにとってのSCOの位置づけについて、簡単に触れてみたい。端的にいえば、ロシアがSCOに見出している基本的な意義は、アジア外交推進上のものであって、米国への対抗上のものではない。ロシアは、現実主義かつ実利主義を基調とする外交政策を推進する中で、市場としての成長が著しいアジア太平洋地域との経済関係の強化に意欲を示している。あわせて、国家発展の前提となるべきロシアと中央アジア諸国との国境地域の安定、また極東及びシベリアという「経済的後進地域」の建て直しの必要にも迫られている。そんなロシアにとって、SCOは、安全保障や経済協力など多方面に発展する可能性を持つアジアの地域協力機構であるという点から、これを利用していく価値があるのである。