コラム

イランの核問題―IAEA緊急理事会後の展開について

2006-03-07
堀部 純子(軍縮センター研究員)
  • twitter
  • Facebook


2月4日のIAEA緊急理事会において、イランの核問題の国連安全保障理事会への付託決議が採択されたことについて、今後のイランの出方は?
―イランにとって核開発は国家威信の問題であり、イラン国民も強く支持している。よって、安保理付託の決議が採択されたことに対して当面イランの強い反発が続くことは避けられない。決議採択後、イランは、同国が任意で行なっている追加議定書に基づくIAEAの査察への協力の停止と大規模なウラン濃縮活動の実施を実行すると発表しており、言葉による脅しではなく実際に行動に移す可能性が高い。しかし、3月6日のIAEA定例理事会で、IAEAがイランについての報告を行なうことが予定されているため、イランは表向きには強気な姿勢を取るかもしれないが、関係諸国の反応を注視しながら、徐々に柔軟な姿勢を見せる可能性がある。イランが査察について極端に非協力的な態度を取れば、それが報告に繁栄され、その内容がイランにとって不利なものとなることは避けられない。そうなれば報告を吟味したうえでこの問題への対処を検討する安保理では、経済制裁等も含めた厳しい措置を取らざるを得ないという議論が出てくるのは必死であり、イランは強硬な態度に出れば出るほど自らの首を絞めることになるからだ。

次の節目となる2月半ばのウラン濃縮を巡るイランとロシアの協議の見通しは?
―ロシアが提示している案は、イランが自国で行いたいと主張するウラン濃縮をロシアが代わりに行ない、濃縮ウランをイランへ供給するというものだ。当初イランはこの提案に否定的だったが、自国の核問題の安保理付託が現実味を帯びてくると、前向きな姿勢を見せるようになった。こうした態度の変化からも見て取れるように、ロシア提案はイランにとって命綱に他ならず、これを足がかりとして協議を続けるしかない。他方、この提案の内容はイランの要望を満たすものではなく、重要な点において両国の溝は大きいと思われ、協議の難航が予想される。自前の濃縮技術を獲得したいというイランの要望に対して、欧米諸国の意向も加味したうえでロシアとイランがどこまで互いに妥協できるかが一つの焦点となるだろう。

イランが核にこだわる理由は何か?
イラン政府は、自国の核開発は平和利用に徹しており、電力の確保が目的であると説明している。さらに、石油は有限であり数十年で枯渇してしまううえ、イランにとって石油は外貨獲得のための貴重な資源であるため、国内消費をできるだけ減らしてその分を輸出に回したいという。イランでは人口も増加傾向にあり、電力需要が高まっているのは確かである。長期的なエネルギー安全保障の観点からポスト石油時代を睨み、諸外国に核燃料を依存することなくエネルギーの自給自足を図りたいという狙いがあると見られる。
他方、ウラン濃縮等の核開発技術は核兵器にも使いうるため、イランは平和利用を隠れ蓑にして核兵器の製造を目論んでいるのではないかという見方も欧米諸国を中心としてある。昨今の核を巡る国際的な状況をみると、核兵器を持っていなかったイラクに対してはアメリカは攻撃を行い、核兵器を持っていると見られる北朝鮮に対しては手を出せずにいる、また事実上の核兵器国となったインドとパキスタンに至っては、たった数年の経済制裁の後、今ではアメリカの同盟国となり、インドについては原子力協力についての協議すら始まっている。こうした状況を見て、イランが核兵器を持った者が勝ちと認識してもおかしくはない。主観ではあるが、イランの置かれた安全保障環境や対米脅威認識を考えるとイランが抑止力として核兵器を持ちたいという動機は十分にあると思う。

イラン核開発問題の今後の行方においてキーマンなどはいるか?
まず、イラン国内について、メディアは強硬な大統領の強気な発言に注目しているが、核問題に関する意思決定はハメネイ最高指導者の専権事項であるため、大統領の思うままの強硬姿勢で突っ走るわけではない。ハメネイ氏は、保守の強硬派・穏健派、改革派等、国内の様々な勢力の上でバランサー的役割を果たしており、それらの意見を聞き、さらに世論の動向も考慮したうえで決定を行なうという複雑なプロセスで意思決定を行なっているとみられる。ハメネイの一存だけでは決められないという点ではキーマンはいないが、一つ言えることは、イランを制裁等で追い詰めれば、国民の反欧米感情は高まり、強硬派が影響力を増しイランは強硬路線を強めるということだ。
国際的な場でみると、今後の展開で短期的にはロシアの存在は重要であるが、ロシアはイランに対して決定的な役割を果たせるほどの影響力はない。イランの核問題は政治的に非常に難しい問題であり、これといった解決の決め手はないのが現状であるが、イランが核兵器を持ちたいという誘因を減らすことが重要であり、そのためには米国による対イラン政策の変更が欠かせない。

(本稿は、2006年2月6日に放映されたブルームバーグのインタビューを再録したものです。)