コラム

2004年米国大統領選挙

2004-11-05
中山 俊宏(主任研究員)
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社会運動化した選挙戦
(読売新聞2004年11月5日16面「談論」に掲載)

9.11テロ攻撃後初の米大統領選は、「二つのアメリカ」の対立が先鋭化した選挙となった。今回の選挙戦の特色は、あたかも世界観を全く異にする二つの「社会運動」の対決という様相を呈したことだ。通常の選挙戦では見ることができない熱気と興奮が感じられたのである。

両陣営の支持者は、対テロ戦争、イラク情勢、中絶・同性婚などの価値にかかわる論争をめぐって激しく対立した。こうした主要争点自体が国論を二分したことは間違いない。しかし、対立の構図に社会運動の熱気が入り込んできたのにはいくつか他の要因もある。

ひとつには「2002年超党派選挙改正法」によって規制された政党組織への大口献金が、規制を受けない党派的政治団体に流れ込み、これが政党に代わって重要な役割を果たしたことが挙げられる。こうした団体は、両候補の選挙運動からは形式的には独立するかたちで、「空中戦」と呼ばれた派手なメディア合戦を繰り広げる一方、投票への動員や有権者登録促進など、地道な「地上戦」をも大規模に展開した。

まず先行したのは民主党系の「アメリカ・カミング・トゥゲザー」で、共和党系の「真実のための高速艇退役軍人の会」などが後を追った。

また、大口献金が規制された選挙運動本体は、数十ドル単位の小口政治献金をこれまでにない規模で集めることに努力し、これも草の根を活気づけたといえる。

本部のデータベースとつながった携帯情報端末を携えた草の根の活動家がドアを叩いてまわるという全く新しい地上戦が展開される中、結果としてこれまでにない規模の巨額の政治資金が動く選挙となった。

選挙運動の「社会運動化」の予兆は、すでに民主党予備選挙のディーン・キャンペーンで見られた。

しかし、この現象のために、これまでになく深い政治的・文化的亀裂が残った可能性は否定できない。その意味で、開票のもつれが法廷闘争という事態に発展していかなかったことの意味は大きい。二大政党制である以上、とりわけ選挙期間中は、国論が二極分化することは構造的にはやむを得ない。

今回動員されたエネルギーがこのまま勢いを維持すれば、政権運営については、新政権にとって重荷になっていく可能性がある。

ただブッシュ第二期政権には、再選を狙う必要もないし、チェイニー氏に大統領職への野心がないことから、副大統領を次期大統領として担ぎ上げる必要もない。政策実績を重視し、中道層を積極的に巻き込んでいく意思があれば、一期目とは異なって、国の分裂をある程度抑え、安定度を増すこともできるはずだ。現段階で、その兆しは見えないが、そこに期待したい。