コラム

TIICAD III にむけて(時事通信社・外交知識普及会 『外交』 2002年12月/2003年1月号掲載)

2002-12-01
堀内伸介(グローバル・イシューズ客員研究員)
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第3回アフリカ開発会議(TICAD III)が本年9月末に開催される。1993年に第一回が開催されてから10年が経つ。冷戦が終わり、世界のアフリカへの関心が薄れた時に日本政府のイニシャティブでTICADが発足した。当時使われていなかった「アフリカのオーナーシップ」、「パートナーシップ」の概念を旗印としたTICADは、援助国、国際機関からの開発計画を押しつけられ、国内からは主体性を失っていると非難されていたアフリカの政府、非難していた知識層の両方に大いに歓迎された。TICADは日本政府、国連、UNDP、GCA(アフリカのためのグローバル連合)、世銀の共催であるが、アフリカでは日本のイニシャティブとして受取られている。 TICAD以降、援助国から、多数のアフリカ開発の計画が提案されているが、10年間コツコツと実績を積み上げてきたイニシャティブはTICAD以外にはない。

TICADはアフリカ開発の枠組みと戦略を示すものであり、開発の実施者ではないが、日本の発案であり、当初、日本の資金による開発プログラムとの誤解と期待がアフリカ側に強かったが、今でもそれが残っていないとは言えない。アフリカで働いた者として、日本がTICADプロセスで、さらに積極的な援助を展開して欲しいと常々思ってきたが、10年間の蓄積は1回限りのパフォーマンスとは比較にならない実績を残し、それが日本に対する信頼感としてアフリカに根付いている。TICADがなくとも、各国別にプロジェクトの集積によって日本が評価されたであろうが、TICADがあるために10年間もアフリカ開発に旗を振りつづけている日本のアフリカ全体への姿勢が評価されている。何物にも変え難い外交的財産が出来たのである。

今、アフリカでは、NEPAD(アフリカ開発のための新しいパートナーシップ)が、アフリカ人による、アフリカ人のための開発戦略として注目を浴び、G8、他の援助国、国連、国際機関も支援を前面に打ち出している。アフリカの政治指導者によるアフリカの再生への政治的意志の表明であり、平和、安定、良い統治の下に貧困の撲滅、アフリカを持続的可能な経済成長の道に乗せるための戦略を示したものである。リベラル民主主義への志向とネオ・リベラル経済学の理論と政策が基本であり、所謂、ワシントン・コンセンサスの枠組みを出ていない。アフリカの貧困と闘うには、弾薬が足りない様に思われる。NEPADの批判は容易であるが、アフリカの指導者の強い政治的意思の表明として、この機会を建設的に活用し、支持すべきであろう。 TICAD IIIはNEPADの足りない所を補完するプログラムを提唱すべきではないか。二、三の提案を行ないたい。

第一に、良い統治との関連で、民主主義政治の根幹である議会の立法と行政の監視能力の向上への支援である。 アフリカの中で大統領が大きな権力を持つ専制的な政治の改革機運が盛り上がっている今こそ、そのような支援が必要とされている。NEPADも良い統治が開発の大前提であることを強調している。

第二に、アジア‐アフリカ協力である。過去10年で多数の投資案件が進んだが、投資に限らず、東アジア、東南アジアの産業の多様化の経験‐各種の政策、国内産業の競争力強化の施策、資金の調達、技術の移転‐を組織的に開示することにより、アフリカに有効な経験をアフリカの同僚が自ら選択して活かしてゆくことである。

第三に、農村の総合開発である。70‐80%の貧困層は農村の小規模農家、女性世帯農家である。アフリカは独立以来農業を軽視してきた。大規模な投資は必要ないが、アフリカの コミュニティーの力を活かす包括的な施策で貧困は削減できる。市場原理では貧困は削減できない。

最後に、TICADはオール・ジャパンのプロジェクトである。わが国公務員諸君の最大の欠点である役所の縦割りを超えたチームで取りかからなければ、成功はおぼつかない。

(時事通信社・外交知識普及会 『外交』 2002年12月/2003年1月号掲載)