コラム

トランプ大統領に対する世論の推移をどうみるか —大統領選挙から1年が経って—

2017-12-18
舟津奈緒子(日本国際問題研究所研究員)
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<支持4割、不支持6割が固定しつつあるトランプ大統領>
  トランプ氏の大統領選挙当選から1年が経った。選挙期間中、型破りな言動を繰り返したトランプ氏の当選を予測できた者は少なく、稀に見る驚きの選挙結果となったわけだが、トランプ氏は大統領就任後もその傾向を弱めておらず、「驚き」はトランプ氏の大統領就任後も続いている。3つのI(Intuition[直感]、Impulse[衝動]、Ignorance[伝統的な政治手法に不案内])に基づくとも形容されるトランプ大統領の政策決定は予測不可能性を孕んでおり、米国政治の不確実性は未知の領域にある。
  そのようなトランプ氏を大統領に選んだ米国民は実際にトランプ大統領の統治が始まってから、大統領に対してどのような視線を投げかけているのだろうか。結論を先に述べると、各種世論調査の結果からは全般的にトランプ支持離れが進みつつあるようだ。キニピアック大学が実施した世論調査によると、「トランプ大統領は大統領職を全うしているかどうか」という問いに対して、大統領就任直後は「全うしている」と「全うしていない」が4割前後で拮抗していたが、時間の経過とともに「全うしていない」の回答が増え、それが本年3月後半以降は6割前後で固定している状況が続いている(表1)1

  「大統領は平均的な米国人を思いやっているかどうか」という問いに対しても同じく3月後半以降、「思いやっていない」が6割前後、「思いやっている」が4割前後で固定されるという傾向が続いている(表2)2

  また、ギャラップ社の世論調査によると、2017年11月6日時点でのトランプ大統領に対する支持率は37%、不支持率は57%と、不支持が支持を大きく上回り、こちらも3月後半以降は不支持が6割前後、支持が4割前後の固定傾向にある(表3)3

  さらに、トランプ大統領を支持する保守層を反映していると言われる保守系民間調査会社のラスムッセンの世論調査を見てみても、トランプ大統領に対する好意的なとらえ方が伸張しているわけではない。ラスムッセンの2017年11月7日付の調査では支持率56%、不支持率43%であり、中立的と言われるギャラップの世論調査と大きな差異が認められなくなってきている(表4)4

<大統領選でキャスティング・ボートを握った浮動票者層のトランプ支持に陰りか>
  それでは、2016年の大統領選挙でキャスティング・ボートを握った接戦州をはじめとする選挙毎に共和党と民主党とで勝者が入れ替わる地域はどうであろうか。製鉄や炭鉱などかつて製造業で発展したが、今は衰退しつつある五大湖周辺の中西部と大西洋岸中部地域に代表される「ラスト・ベルト(錆びついた工業地帯)」と呼ばれるウィスコンシン州、ミシガン州、オハイオ州、ペンシルバニア州などの接戦州は、2016年の大統領選挙でトランプ氏がクリントン氏に僅差で勝利したことが大統領選の勝敗を分けたという意味でトランプ大統領誕生の立役者であり、こうした浮動票者層のトランプ支持・不支持の動向は見逃せない。
  三大ネットワークの1つであるNBCと全国紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、大統領選挙の結果を郡(カウンティ)単位にまで落とし込み、2012年の大統領選挙では民主党のオバマ氏が勝利したが、2016年大統領選挙では共和党のトランプ氏が勝利したカウンティを「トランプ・カウンティ」と規定し、トランプ・カウンティを対象とした共同世論調査を2017年11月1~4日に実施した(表5)5。それによると、トランプ・カウンティの2017年11月のトランプ大統領に対する不支持率(50%)が調査開始の7月(46%)から拡大している。一般的にトランプ大統領の支持基盤は揺るぎないと言われているが、まだそれほど大きな変化とは言えないものの、選挙戦を左右する浮動有権者層の間のトランプ大統領への支持に陰りがみえてきているという点において注目に値しよう。

  大統領選挙でトランプ氏を支持した人たちとはどんな人たちであろうか。大統領選挙時のCNNの出口調査6によると、男性(トランプ支持53%、クリントン支持41%)、白人の非大卒層(トランプ支持66%、クリントン支持29%)、保守層(トランプ支持81%、クリントン支持16%)であり、彼らの多くはかつて隆盛を極めた製造業に従事していたが、グローバリゼーションの進展に伴う産業構造の変化についていけず、経済的恩恵にあずかれない人たちと言われている。このような変わりゆく米国の中に自分たちの居場所を見つかられず、中産階級から転げ落ちてしまうことへの恐怖、焦り、怒りを感じている人たちが多いと言われるトランプ支持者を考えるときに、もう一点、注目したいのは米国で所得の格差の拡大傾向が是正されるかどうかという点である。もともと米国の貧富の差は先進国において高い水準にあり7、近年、その傾向は伸張の傾向が続いている(表6)8

  上記のようなトランプ支持者の背景に鑑みるに、2017年の数値が待たれる。なぜなら、彼らは自らが中産階級から転げ落ちていく状況を打破する期待をトランプ氏に賭け、その結果、トランプ大統領の誕生を可能にしたわけだが、2017年以降もこの傾向が続き、もしトランプ大統領によってさえも製造業の復活や雇用創出などの彼らが求めていた経済的成果がもたらされなかったと判断された場合に、2018年の中間選挙や2020年の大統領選挙で彼らがどのような投票行動に出るのかは未知数だからである。特に、中間選挙は現職大統領に対する信任投票という面を帯びており、選挙分析に定評のある米国の選挙レポート会社の「クック・ポリティカル・レポート」は現職大統領の職務能力に対する支持率が50%を切ると中間選挙で大統領が所属する政党が負ける確率が大きくなると分析している。さらに、この特徴が顕著に表れるのが2年毎に改選となる下院選挙であり、現職大統領の職務能力に対する支持率が50%を下回った際の、1966年以降の7回の中間選挙の下院選挙のうち6回で大統領が所属する政党が24議席以上を失い、その結果、議会多数党の立場を失っていると報告している9
  また、政治的分極化10による「決まらない政治」を打開するためにオバマ前大統領と同様、トランプ大統領も大統領令と大統領覚書11を多用しているが、トランプ大統領による大統領令および大統領覚書の使用は、国論を二分するような賛否両論を呼ぶものが多く、円滑に実現されていない。例えば、イスラム7か国(イエメン、イラク、イラン、シリア、スーダン、ソマリア、リビア)からの入国制限に関する大統領令(2017年1月27日署名)は司法との対立の末、部分的にしか認められていないし、メキシコとの国境に壁を建設するという大統領令(2017年1月25日署名)は予算措置が決まっておらず、実現できていない。トランプ大統領の大統領令および大統領覚書の使用がトランプ支持者にアピールする政策に関するものが多いことを考えると、この点も看過できない。

<トランプ大統領の実績をどう評価するか>

  さらに注目すべきは、トランプ大統領の公約実行力に対して疑問符がつき始めている点である。三大ネットワークのABCと全国紙ワシントン・ポストが2017年10月29日から11月1日にかけて行った世論調査によると、トランプ大統領が選挙期間中に掲げた公約を実施しているかどうかについて、「あまり実行していない」と「ほとんど実行していない」をあわせた回答が65%に上った(表712 。これは、大統領就任100日後の回答の56%から9ポイントも増え、実に3分の2以上に上る勢いである。
  この結果は、トランプ大統領が選挙期間中に掲げた公約の成果が大きくないことを反映していると言えよう。トランプ大統領が掲げた公約の多くは、立法府である議会の協力を得ることに難航し、暗礁に乗り上げている。最たるものは大統領就任早々に着手した国民皆保険、いわゆるオバマケアの撤廃・代替法案作成の失敗である。トランプ大統領の政策には整合性が無く、その特徴を明確にすることは難しいが、「反オバマ」と特徴づけられることは明らかである。その「反オバマ」を象徴する目玉公約だったのがオバマケアの見直しであった。しかし、オバマケアの撤廃・代替法案作成は5月に下院をようやく通過したものの、野党の民主党からはもちろん、代替法案を認めずあくまでも完全撤廃にこだわる強硬派を中心に身内の共和党からの反対も多く、7月に上院で否決され、頓挫した。そして、トランプ大統領があくまでも年内の成立を目指しているもう一つの目玉公約である大幅減税をうたう税制法案については、11月16日に下院を賛成227、反対205で、12月2日に上院を賛成51、反対49の僅差で通過したものの13、議会との調整は困難を極め、多くの時間を費やした14
  大統領就任から日時が経つにつれ、実績が問われてくるのは当然の成り行きであり、トランプ大統領の政策実行力に対する世論の動向、そして、それがトランプ大統領の支持率にどのように影響していくのかは、今後のトランプ政権の命運を考える上で重要な鍵の一つとなろう。トランプ支持者は反エスタブリッシュメントというトランプ大統領のイメージに喝采を浴びせ、公約が実行されるかどうかには関心を払わないとも言われるが、いつまで彼らの支持が続くのかは見定められない。また、一貫性のある政策が示されず、トランプ大統領がどのように実績を作っていくのかも見定められないため、トランプ政権の趨勢を見極めることは極めて難しい。それゆえ、米国民がトランプ大統領に対してどのような判断を下しているのかを丁寧に理解することは時間の経過とともにますます重要になってこよう。(了)



1 https://poll.qu.edu/images/polling/us/us09272017_Uphy49k.pdf
2 https://poll.qu.edu/images/polling/us/us08232017_Usgdv94.pdf
3 http://news.gallup.com/poll/201617/gallup-daily-trump-job-approval.aspx
4 http://www.rasmussenreports.com/public_content/politics/trump_administration/trump_approval_index_history
5 https://www.wsj.com/articles/president-is-losing-support-in-trump-counties-a-wsj-nbc-news-poll-finds-1510031049
6 http://edition.cnn.com/election/results/exit-polls
7 CIAによる所得分配の不平等さを測るジニ係数の最新の調査によると、世界150か国中、米国は40位であり、日本73位、EU120位に比べて、先進国において所得格差が大きい(順位が下位であるほど、所得格差が小さいことを示す)。なお、1位はレソト、150位はフィンランドである。
8 http://apps.urban.org/features/wealth-inequality-charts/
9 https://www.cookpolitical.com/analysis/national/national-politics/will-2018-midterms-follow-historic-patterns
10 政治的分極化については、当研究所『US Report』vol. 6「米国の国内問題におけるイデオロギーの展開:政治・社会における分極化、多文化主義」(前嶋和弘)参照。http://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=254
11 大統領令と大統領覚書については、当研究所『US Report』vol. 7「米国の対外政策における制度的機能不全:大統領権限、議会と行政のねじれ」(梅川健)参照。http://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=255
12 http://abcnews.go.com/Politics/year-surprise-election-65-percent-trumps-achieved-poll/story?id=50907926
13 上院案と下院案では、法人減税の開始時期が異なる、上院案にのみオバマケアの定める個人による健康保険加入義務の撤廃が盛り込まれているなどの相違がある。これから両院を通過した法案の一本化を協議し、両院で一本化した法案を改めて可決する必要が残っている。
14特に、上院はセッションズ司法長官の政権入りに伴う上院議員辞職を受けて実施された2017年12月12日のアラバマ州上院補選で共和党候補のロイ・ムーア元アラバマ州最高裁長官が民主党候補のダグ・ジョーンズ元連邦検事に敗れたため、議席数が共和党51、民主党49となった。これにより、上院共和党は造反者が2名出れば法案通過が難しい状況となり、今後、党内強硬派や民主党との協議にさらに難しいかじ取りを迫られることになる。