2008年4月9日に韓国で国会議員選挙が実施された。この選挙は、大統領選挙からわずか4ヶ月後に行われたことで、大きな意味がある。韓国に限ったことではないが、大統領選挙からあまり日数を経ていない国会議員選挙は、与党にとって有利であることが多い(ハネムーン選挙という)。しかも韓国では、大統領の任期が5年、国会議員の任期が4年であることから、大統領選挙とほぼ同時に国会議員選挙が実施されるのは20年に一度しかない。その意味で、今回の国会議員選挙は、韓国の与党であるハンナラ党にとって、行政府と国会の両方を掌握する千載一遇の好機であった。 韓国で行政府と国会を同一の政党が掌握することが重要である理由を日本と韓国の比較によって整理しておきたい。行政府と国会の関係では、日本は議院内閣制であり、国会与党が行政府を掌握することになる。ただし、日本は両院制であって、議院ごとに掌握している政党が異なることが有り得る。現在の福田政権でも、参議院と衆議院で異なる政党が掌握しており、政権運営に障害が出ていることは周知の通りである。韓国は一院制なので、日本のようなことにはならない。ところが、韓国は大統領制であって、行政府と国会を異なる政党が掌握することが有り得る。日本では、参議院と衆議院で異なる政党が掌握していれば政権運営に大きな負担となるが、韓国では、行政府と国会を異なる政党が掌握していれば政権運営に大きな負担となるのである。
韓国では、表1のように、選挙前においてはどの政党も国会議席数の過半数を超えていなかった。もちろん与党であるハンナラ党も同様であり、これは李明博の政権運営に支障をきたしていた。大統領に就任する少し前に、李明博の政権引き継ぎ委員会が提出した統一部廃止案をめぐって与野党が国会で紛糾したことは、まだ記憶に新しい。しかも、統一部廃止案は国会を通過しなかった。もし、この選挙でハンナラ党が国会の過半数を獲得すれば、李明博政権が提出した法案は国会で通過しやすくなる。李明博が大統領としてリーダーシップを発揮するためにも、国会を与党によって掌握することが重要な課題となっていたのである。 今回の選挙で当選者を出した政党について説明しよう。まず、韓国の政党は保守勢力と進歩勢力に大別できる。李明博が所属するハンナラ党は、保守勢力を代表する大政党である。一方、進歩勢力を代表するのは統合民主党であり、大統合民主新党と民主党が合併して2008年2月17日に結成された。比例区当選者の比率が日本よりも低い小選挙区比例代表並立制を導入している韓国の国会選挙では、大政党であるハンナラ党と統合民主党の候補者が当選しやすい。 その他、保守勢力には自由先進党と親朴連帯がある。自由先進党は、大統領選挙に無所属で出馬して落選した李会昌を中心に2008年2月1日に結成された新政党である。2月12日には国民中心党と合併し、現在に至っている。親朴連帯は、鄭根謨を大統領候補として出馬させた参主人連合が3月12日に未来韓国党に改名し、さらに国会議員選挙の前にハンナラ党を脱党した親朴槿惠派を吸収して改名した政党である。ただし、親朴連帯の名前の源となっている朴槿惠は、元ハンナラ党党首であり、今もハンナラ党員である。 論者によっては、進歩勢力に民主労働党と創造韓国党を加える向きもあるが、あまり一般的ではないと思われる。民主労働党は、2000年1月30日に結成された政党であり、社会主義政党として知られている。創造韓国党は、2007年10月30日に結成され、中道左派政党として位置づけられている。いずれにせよ、ハンナラ党と統合民主党以外は、少数政党に過ぎない。
さて、選挙の結果であるが、ハンナラ党は僅かながら、過半数を超えることになった。韓国国会の定員は299名であり、150名以上の当選者を出せば過半数を確保できる。ハンナラ党は153名の当選者を出し、僅かであるが、過半数を超えることに成功した。それに対して、統合民主党は40%の議席を失う結果になった。李明博大統領はリーダーシップを発揮するための関門の一つを何とかくぐり抜けたといえよう。韓国の国会には解散がないので、政党が解散したり、分裂したり、統合したりしない限り、次の選挙が実施される4年後まで国会における政党の勢力図が大きく変わることは考えにくい(ただし、実際には、過去においても、政党の分裂などによって大きく変化することが多々あった)。 しかし、ハンナラ党の議席数は過半数を僅かに上回る程度であり、国会の常任委員会すべてで多数派になるための168議席には届かなかった。また、議員が辞職したり、死亡したりして補欠選挙が実施され、敗北した場合、過半数割れする可能性がある。よって、ハンナラ党は無所属議員などを吸収し、より安定した議席数を確保する必要に迫られることになる。ただし、それは李明博の政権運営に支障をきたす可能性がある。 もともと李明博はハンナラ党の主流ではない。ハンナラ党の主流はもともと朴槿惠派であるが、ハンナラ党の公選に不満を持った朴槿惠派の一部議員は選挙前に脱党し、親朴連帯や無所属として出馬して、意外に多くの当選者を出した。彼らを復党させると、ハンナラ党は国会での基盤をさらに安定させることになる。しかし、それはハンナラ党における朴槿惠派の勢力を強めることになり、李明博の政策に反対してくる可能性がある。実際、脱党した朴槿惠派は、李明博が公約に掲げた朝鮮半島大運河プロジェクトに反対している。将来、李明博派と朴槿惠派の対立によって、ハンナラ党が分裂することがないとは言い切れない。脱党朴槿惠派を復党させるか否か、これが今、ハンナラ党が直面している問題なのである。
|