2月27日から28日まで、ロシアのフラトコフ首相が多数の経済閣僚や実業家を伴って訪日し、日本の経済界と積極的な接触を持つなどした。この訪日に関して、2月28日に筆者は、ブルームバーグから「日ロ関係やロシアのエネルギー政策など」というテーマでインタビューを受けた。以下は、同インタビューを元に、簡単に整理したものである。
-フラトコフ首相訪日の意義は?
日ロ間では既に2003年に政治・経済・文化面での交流深化への取り組みを謳った「日ロ行動計画」が小泉首相(当時)とプーチン大統領の間で調印されている。そうした中で、ロシアは日本とのとりわけ経済関係強化に意欲をみせており、他方、日本もロシアとの関係拡大を重視していく意向をみせてきた。そんな延長線上において、今年1月には日ロ戦略会議と日ロエネルギー協議がモスクワで、また2月には日ロ貿易投資委員会が東京で、それぞれ開催されている。フラトコフ首相の訪日は、そうした一連の流れに沿うもので、日ロ経済関係強化の重要なステップとしての意義がある。
-経済と政治の関係において、日ロにはそれぞれの思惑があると思うが?
日ロ関係を考えるとき、北方領土問題は避けて通れない。日本にはロシアとの経済関係の強化を通じて北方領土問題を日本に有利に導きたい思惑があるが、見るところ、ロシアには日本との経済関係強化と北方領土問題での日本への譲歩をリンクさせる考えはない。両国が「北方領土問題解決の必要性で一致」したとはいえ、周知の通り、北方領土に対する両国の立場の違いは依然として大きいままであって、両国の経済関係の強化が北方領土問題を日本に有利に展開させるという見通しは容易に立ち難い。しかし、だからといって、北方領土問題を理由にロシアとの経済関係に慎重になることが日本の国益に適うかといえば、それもなかなか難しい話である。ロシアとの関係のあり方については、北方領土問題はもちろん、エネルギー需給、技術協力、安全保障など、二国間関係ならびに国際関係における総合的な視点に立って、現実的な検討がなされなければならないだろう。
-極東の資源開発も日ロ間の議論になったようだが、ロシアにおける極東の意義は?
ロシアは、経済成長を続けるアジア太平洋地域との関係強化に向けた取り組みを重視するようになっているが、そんなロシアにとって、極東は、自国とアジア太平洋地域との直接的な接点としての意義がある。とりわけ、エネルギー分野において占める意義は大きい。極東が中国をはじめとするエネルギー需要大国に隣接しているからである。ロシアのエネルギー輸出は、欧州がその中心になっているが、市場として成熟している欧州に今後のエネルギー需要の大きな伸びを望むことは難しい。
-ロシアはエネルギー供給者として日本と中国にどう対応しようとしているのか?
ロシアにとって日本と中国は、いずれもロシア産エネルギーの購入者として大切な存在である。ロシアからのエネルギー供給での所謂「日本と中国の競合」については、サハリン1と太平洋パイプラインの両プロジェクトにおいて、中国に優先的にエネルギーが供給されるような動きがあるが、それは、詳細は省くが、主にプロジェクト自体が含む諸事情に起因するのであって、ロシアがエネルギー供給において政治的意図から日本よりも中国を優先していることを必ずしも意味しない。エネルギー供給を安定的に進めるには供給先の多角化が重要な意味を持つ。その観点からすれば、むしろ供給先を中国に絞ってしまう方こそ危険である。このことは、ロシアも経験上理解していると思われる。
-「ロシアへのエネルギー依存度の高まりは日本にとって危険」との意見もあるが?
昨年初頭のロシアとウクライナの、及び今年初頭のロシアとベラルーシの「ガス紛争」について、「ロシアは資源を武器に恫喝外交を展開している」との見方が多く提示された。それを踏まえれば、「ロシアのエネルギーに頼ると、いずれそれをネタにロシアに恫喝される」という議論が起きるのも理解できる。しかし、ロシアとウクライナ及びベラルーシの「ガス紛争」は、基本的にはロシアの現実主義的かつ実利主義的なロシアの外交政策、簡単に言えばロシアが「旧ソ連構成国だからといって、CIS諸国に対して無条件に特恵待遇を与える理由はない」と判断したことによるものと見るべきで、「ガス紛争」を「ロシアがウクライナとベラルーシを懲らしめるために資源を武器にした」と解釈するのは不適切である。それよりも何よりも、ロシア・日本間のエネルギー需給とロシア・CIS諸国間のエネルギー需給は、経緯や態様などあらゆる条件が違いすぎ、同列に比較して論じられるものではない。日本がエネルギーを輸入に頼っている以上、相手が誰であれ、常に危険は伴う。それをどう回避していくかは、個々の場合における交渉の問題だ。
-ロシアはエネルギー供給国として信用できるのだろうか?
少なくとも、全く信用するに足りないとは考えられない。無論、ロシアには、法律や規則の頻繁な変更や賄賂の横行など、西側先進国の常識に照らして投資環境上極めて好ましくない状況が現存している。しかし、それはロシアの社会風土上やむを得ない面もある。エネルギー需給関係を築き互恵的に共存しようと思うなら、そうした問題点を克服していくよう対話を重ねていくしかない。先にも触れたように、ロシアの外交政策は現実主義と実利主義に立脚している。これは、難しさこそあれ、合理的な思考に基づく交渉が可能であることを意味するだろう。昨年のサハリン2プロジェクトへのガスプロムの参入についても、経緯を観察すれば、「ロシアが環境問題を奇貨として一方的に権益を奪取した」とは断定し難いことが分かる。事業費倍増や環境破壊は、ロシアで以前から問題になっていた。ロシアに迎合せず、しかしロシアの事情も斟酌することが、姿勢として重要ではないか。
-ロシアのエネルギー政策の課題は?
エネルギー政策の課題というよりは、エネルギー輸出に過度に依存する経済構造の改革が進んでいないことが課題であろう。このことは、ロシア指導部でも十分認識されてはいるものの、改革は進んでいない。なお、ロシアのエネルギー政策については、関係する国家機関間の行動の不統一や、エネルギー産業に対する国家ないしプーチン大統領側近集団の支配の強化、といったことも、解決されるべき課題として指摘される。