米国が大きくかじをきった。今回の中間選挙の結果は、米国民が共和党支配体制に否を突きつけたかたちとなった。しかし、それは、民主党の勝利というよりも共和党の敗北という色彩が強い。
米国民がブッシュ政権のイラク政策の軌道修正を求めていることは明らかだ。しかし、イラクについては、民主党側にも、明確な代替案があるわけではない。ただ今回は、現状に対する不満と危機感が、それを上回った。
ホワイトハウスは、選挙直前まで強気な発言を繰り返していた。しかし、敗北の可能性を見越していたのか、10月26日には、イラク政策の軌道修正をうかがわせる発言を記者会見の場でブッシュ大統領自身が行っている。ブッシュ政権としては、この演説を意識的に選挙直前に行うことで、選挙後、多数派となった民主党と協力するための伏線を敷こうとしていた見なすこともできるであろう。敗北後に協力姿勢を打ち出すよりは、選挙前に打ち出した方が説得力もある。
またラムズフェルド国防長官の解任にしても、今回の選挙で敗北した共和党候補者にしてみると、なぜ選挙前に解任してくれなかったのか、そう疑問に感じている人も少なくないに違いない。ラムズフェルド国防長官は、硬直するイラク政策を象徴する人物となっていたからだ。しかし、あえて選挙直後にそれを発表したのは、やはり民主党と協力していかざるをえないということを認めたシグナルと見るべきであろう。
議会で主導権を握ることになった民主党は、イラク政策の軌道修正の兆候を歓迎しつつも、それを慎重に見極めようとするであろう。ブッシュ政権下で生じたホワイトハウスに対する民主党の不信感は非常に強く、政権の提示した考えを素直にのみ込むことはできない。また党内リベラル派も、中途半端な協力姿勢を党指導部が打ち出すことは受け入れられないであろう。
テキサス州知事時代のブッシュ大統領は、民主党州議会とも協力できる政治家として知られていた。2000年の大統領選挙でブッシュ候補が支持された理由のひとつとして、ブッシュ候補ならば、クリントン政権時代に二つに割れた米国を修復できるかもしれないとの期待感があった。
しかし、ブッシュ大統領は亀裂を修復するどころか、亀裂をいまだかつてないほど深いものにした。さらに自らの支持基盤を強固なものにするため、亀裂をより深くすることそれ自体がいつしか政治目標となっていた。
米国民の多くは、この政治的亀裂にうんざりしている。今回の選挙で否定されたのは、このような「亀裂の政治戦略」でもあった。08年の大統領選挙では、米国民はこの分断を乗り越えられる候補者を欲するだろう。
今回の変化を日本としてどのように受け止めるべきか。外交、安全保障政策は大統領の専権事項であるため、急な展開があるとは考えにくい。しかし、今後米国は北朝鮮との距離の取り方などを微妙に変えていくかもしれない。日本としては、そのような兆候をいち早く察知する必要があるだろう。また08年の民主党政権誕生の可能性も視野に入れつつ、同党周辺の外交・安全保障サークルとの人脈を再構築していく必要があろう。
「共同通信11月10日配信」