コラム

中国のアフリカ戦略:中国はアフリカに発展をもたらすのか

2006-11-13
下谷内奈緒(研究員)
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 中国とアフリカ48カ国の首脳らが集まり、11月4日、5日の両日、北京で「中国アフリカ協力フォーラム北京サミット」が開かれた。アフリカに対する中国の援助と投資、貿易関係の拡大が確認された同サミットの開催中、北京の街はアフリカを象徴するキリンや象を描いた巨大なポスターで彩られ、中国政府によるアフリカ諸国との関係強化に向けた熱い思いが内外に示された。キャッチフレーズは「友情、平和、協力、発展」。内政不干渉を原則に相手国の統治システムや人権状況を問題とせずに経済協力関係の構築を押し進める中国の積極的なアフリカ戦略は、援助先進国である欧米諸国の批判を招きながらも、現在最も多くの最貧国を抱えるアフリカに対する援助のあり方について、いくつかの重要な問題を提起している。

 援助国は1990年代以降、援助供与の条件として相手国に政治・経済・社会運営のあり方(ガバナンス)の改善を求める政策をとってきた。これは、第二次世界大戦後の一連の国際開発援助手法を踏まえ、開発から取り残された国々への対策として登場したものである。IMF・世界銀行等の開発機関は、途上国政府の能力に期待し、国家主導の開発計画や反対に市場自由化を促す構造調整プログラムを試みてきたものの、政策実行能力を欠く低開発国の中にはかえって貧困を増大させる結果となった。よい例がアフリカ諸国である。「効果的な制度がなければ、貧しい人々と貧しい国家はますます市場から得られる利益から排除される」とは、ニコラス・スターン元世界銀行チーフエコノミストの言葉だ。

 とはいえ、相手国の統治システムに注文をつけることは、主権国家で構成される国際社会の根本原則である内政不干渉に抵触する。世界銀行の定款にも「政治的分野には介入しない」と明記されている。そこで国際社会は、「民主化」ではなく「ガバナンス」という言葉を用いて政治色を和らげ、ガバナンス改善を求めるのは政治的理由ではなく、資源の効率的な配分を期待する経済的理由によるものだ、というロジックを使って、この新しい概念の正当化を計った。冷戦終結に伴い民主主義市場経済体制が国際的に望ましい体制として認知されたこと、この時期にアジア・中南米で民主化が進展したことも重要な背景にある。

 欧米諸国にとって中国のアフリカ戦略は、こうした国際開発援助の潮流をあからさまに無視したものと映る。今年1月に中国政府が発表したアフリカ政策白書には、「政治的条件を付けずに援助を提供する」と明記されている。中国のアフリカ進出は、著しい経済成長を維持するための資源獲得が狙いで、エネルギー供給協定締結と引き換えに援助やゼロ関税などの優遇措置を与えることを特色とする。すでに計4つある中国の国営石油会社はアフリカの主要石油産出国に進出し、現地の石油産業と協力関係を結んでいる。なかでも欧米の批判を浴びているのが、スーダン、アンゴラ、ジンバブエとの関係だ。

 スーダンは米政府やメディアが「ジェノサイド」と形容するダルフール紛争(国連は「ジェノサイド」とは認定していない)を抱え、国際社会から強く非難されている。しかし1996年以降、同国の原油採掘に多額を投じてきた中国は、国連による制裁措置に対して一貫して反対してきた。アンゴラは現在、中国にとって最大の石油輸入相手国だ。同国に対してはIMFが汚職対策と会計の透明性を求めて援助に厳しい条件を付けて対応してきたが、2004年に中国がより低利かつ償還期間の長い20億ドルの融資を提示すると、アンゴラはIMFの厳しい汚職対策スキームを避けるように中国の申し出を受け入れた。独裁者の汚名を着るジンバブエのムガベ大統領も、欧米の民主化圧力を避けて中国からの融資に転換しており、国内政治に介入しない中国は、アフリカのいわゆる独裁国家にとって魅力的なパートナーとして映っている。

 中国とアフリカ諸国の関係は、1996年に江沢民・国家主席(当時)がアフリカ6カ国を訪問して以来、質・量ともに変化した。江沢民氏は冷戦期のイデオロギー色を廃して経済を軸とした関係にシフトすることを宣言、その後10年間で貿易額は約10倍に伸びた(中国税関統計:2005年の貿易は397億ドル)。資源確保において欧米に出遅れた中国にとって、未開発資源が期待されるアフリカは譲れない地域であり、中国政府は経済関係を深めることでアフリカからの安定したエネルギー供給を確保しようと努めてきた。中国側統計によると2006年上半期に中国がアフリカから輸入した原油は全体の32%を占める。中国は2000年から3年ごとに閣僚級でアフリカ諸国とのフォーラムを開催し、アフリカとの国交樹立50周年となる今年、首脳レベルのサミットに格上げした。

 ガバナンスを問題としない中国のやり方に批判がある一方で、中国からの投資がアフリカ全体の経済成長に貢献しているのも確かである。1995年から2004年までの10年間にアフリカは世界平均を上回る3.96%の平均経済成長率を記録した(日本貿易振興機構アジア経済研究所『企業が変えるアフリカ-南アフリカ企業と中国企業のアフリカ展開』)。しかし、援助の観点から見た場合、より重要な問題は成長の成果が国民に還元されているのかどうかである。この点、例えば国連の報告書によると、アフリカでは、1日1ドル未満の極度の貧困下で生活する人々の割合は、1990年と2002年で比較した場合、44.6%から44.0%とわずかな減少をみせたのみである(”Millenium Development Goals Report 2006”)。

 第二次世界大戦後、途上国の開発問題に取り組んできた国際社会にとって、アフリカの発展は残された最大の課題である。とりわけ独裁政権の存在に手を焼いてきた経験から、国家にガバナンスの改善を求めつつも、国家を構成する人間に着目した、個人の能力向上を目指すアプローチに関心が集まっている。「人間の安全保障」に代表されるこの概念と、中国のアフリカ戦略は、共存できるのだろうか。

 中国は自らを「世界最大の発展途上国」と称し、アフリカの発展問題のよき理解者だとアピールしている。今回のサミットで採択された宣言には「中国とアフリカが政治面では平等と相互信頼、経済面では協力と相互利益、文化面では交流と相互参考という、新しいタイプの戦略的パートナーシップを構築する」とある。一方で、1月に発表された中国の対アフリカ政策白書には、国連が定めたミレニアム開発目標達成を支援し、他の援助国と協力関係を築いていくとも書かれている。中国が多額の投資や通商上の利益を保全するためには、いずれはアフリカ諸国の統治問題を無視できなくなるのではないか、との見方も出てている。

 国際社会がアフリカの問題に真剣に向き合い始めたのは、国連ミレニアムサミットが開催された2000年以降といっていい。まだ手探りで進められているアフリカへの国際援助のあり方に、資源確保を背景とした中国の積極的なアフリカ戦略は一石を投じている。