国問研戦略コメント(2026-14)NPT運用検討会議における核実験モラトリアムの堅持

髙畠真央(日本国際問題研究所研究員)
国問研戦略コメント(2026-14)NPT運用検討会議における核実験モラトリアムの堅持

「国問研戦略コメント」は、日本国際問題研究所の研究員等が執筆し、国際情勢上重要な案件について、コメントや政策と関連付けた分析をわかりやすくタイムリーに発信することを目的としています。

はじめに

2026年4月27日からニューヨークで開催されている核不拡散条約(NPT)運用検討会議では、過去2回(2015年、2022年)続けて最終文書が合意に至らなかった経緯から、今回も最終文書が採択されないのではないかという点に焦点が当たる傾向にある。しかし、過去に最終文書が採択されなかった間も、NPT運用検討会議で核実験モラトリアムの重要性が言及され続けてきた点を忘れてはいけない。核実験モラトリアムとは、核爆発実験を一時的に停止させることである。多くの場合、核兵器国(NWS)は自主的に核爆発実験を停止してきた経緯があり、この「事実上の休止(de facto pause)」は、国際的な信頼を築き、軍縮を促進させるための動きを示すものとされてきた1

しかし、今年2月に新戦略兵器削減条約(新START)が失効したことでNPT体制にも悪影響を与えるのではないかという懸念が広まっている中、NPT運用検討会議でも核実験モラトリアムが核軍縮・不拡散における枠組みとして言及され続けるかが注目される。特に米国は、中国やロシアが核実験モラトリアムを遵守していないとの懸念から、2025年に直ちに核実験を再開すると発表し2、同年の国連第一委員会の包括的核実験禁止条約(CTBT)を支持する決議で初めて反対を表明したため、本年のNPT運用検討会議の場でも否定的な見解を示す可能性がある3。トランプ大統領が核実験再開を発表した理由には様々な見解があるが、米中首脳会談前であったために中国との協議に影響を与えることを狙ったとの見方や、ロシアが核搭載可能な運用システム(巡航ミサイル「ブレヴェストニク」や原子力魚雷ポセイドン)の試験を行ったことに対する反応だったとの見方などがある4。こうした情勢の中で、NPT締約国が核実験モラトリアムの重要性を理解し、その規範としての維持を継続するようより強く働きかけることは喫緊の課題である。本稿では、核実験の検知能力の強化が核実験モラトリアムを維持することに寄与するという観点から、その重要性に着目する。

NPTとCTBTの関係

核実験禁止の規範を維持し続けるためには、NPTのすべての締約国が核実験をしないことへの意志を表明し続け、包括的核実験禁止条約(CTBT)と核実験の検証制度へのコミットメントをより強めることが重要である。NPTとCTBTの関係は、CTBTの条約交渉の初期段階にまでさかのぼる。NPTの前文は、CTBTの前身である部分的核実験禁止条約(PTBT)に触れ、「1963年の大気圏内、宇宙空間及び水中における核兵器実験を禁止する条約の締約国が、同条約前文において、核兵器のすべての実験的爆発の永久的停止の達成を求め及びそのために交渉を継続する決意を表明したことを想起し」5とはじまる。また、第6条は、締約国に対し、「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うこと」6を求めている。この第6条において、1996年にCTBTが国連で採択されて以降、非核兵器国(NNWS)はCTBTを核兵器国(NWS)が真に軍縮に向けて取り組んでいるかを測る物差しと見なしているのに対し、NWSはCTBTを核不拡散に寄与するものとして重視してきた7

過去のNPT運用検討会議、準備委員会及びクラスター1会合では、NWSを含む多くの締約国がCTBTの重要性について声明を発表してきた。例えば、NPTの最終文書が採択されなかった2015年と2022年のNPT運用検討会議では、米国もロシアもCTBTを直接支持する声明を発表している8。また、ロシアは2023年にCTBTの批准を撤回し、署名は維持したものの、2024年のNPT準備委員会において「我々は引き続きCTBTプロセスに全面的に参加しており、最近、国際監視システム(IMS)におけるロシアに設置されている観測所の整備を完了した。これは、これまでで最大規模の認証観測所である。米国がCTBTを批准し次第、我々は直ちに批准問題に取り組み始める用意がある」9と発表している。しかし前回(2025年)の準備委員会では、米国は「30年以上にわたり、我々は核兵器やその他の核爆発装置に使用される核分裂性物質の生産を停止してきた。これらは、第6条の目標を具体的に推進する効果的な措置である」10と核兵器用核分裂性物質生産禁止に言及するにとどめた一方で、ロシアは核実験モラトリアムに関して言及しなかった。こうした経緯を考慮すると、今回のNPT運用検討会議で米国とロシアが核実験禁止を重視する声明を発表する保証は必ずしもなく、核実験モラトリアムの存続が危惧される。

低出力核実験とその検証の強化

上述した経緯に加え、米国は『2025年の軍備管理・不拡散・軍縮に関する協定及び約束への遵守』年次報告書において、「中国とロシアがそれぞれのモラトリアムを遵守しているかどうかについて、依然として懸念を抱いている」11との見解を示した。また、今年2月には、中国が2020年に核実験モラトリアムに違反して低出力核実験を行ったとの疑惑も示している12。しかし、低出力核実験が議論されたのは、これが初めてではない。CTBT第1条は、「締約国は、核兵器の実験的爆発または他の核爆発を実施せず並びに自国の管轄又は管理の下にあるいかなる場所においても核兵器の実験的爆発及び他の核爆発を禁止し及び防止することを約束する」13と規定しているが、極めて小規模な核爆発を検知することは難しい。CTBTの交渉の際、核実験の定義を技術的に明確にしようとすると、機密情報をさらし、交渉の進展を妨げる恐れがあるとの懸念があったため、ジュネーブの軍縮会議では早い段階で、条約に核兵器の実験的爆発を定義しないことを決定した14。 ゼロ出力基準の明確な定義がないことから、NWS間では、未臨界核実験や極めて低出力の核実験の実施について解釈が分かれている。例えば米国は「CTBTも、米国による一方的な核実験停止措置も、臨界前実験を禁止しているわけではない」15と解釈し、2024年までに34回未臨界核実験を行っている16。また、米国は2019年にロシアが低出力の核実験を行ったと非難したが、ロシアはこれを否定している17

こうした事例は、信頼を築く上で科学的検証と事実に基づく対話の重要性を改めて想起させる。例えば、CTBTOの検証制度のひとつであるIMSは、2019年に上述したロシアの疑惑が主張されたときには、異常な活動を一切検知しなかったが、その3カ月後に発生したロシアのニョノクサ海軍実験場での事象については、CTBTに関連する事象ではないものの、地震監視観測所および微気圧振動監視観測所を通じてこの事象に関連するデータを検知している18。しかし、ある爆発事象を核爆発と断定するためには、放射性核種の検出に頼る必要がある。例えば、放射性キセノンについては、どの程度の放射性キセノンが核爆発によって放出されるかは確かでないものの、小規模な核爆発であってもこれが地表に漏出した場合には、IMS放射性核種監視観測所において検出される可能性がある19。したがって、低出力核実験を特定する上で重要である。そして、放射性キセノンを世界的規模で検出する能力を保持しているのは、IMSのみである。

放射性キセノン検出技術の向上は、CTBTの締約国が事象を分析する際に、IMSの放射性核種データを独自に衛星画像や地震データなどの他の情報源と組み合わせることで、核実験と思われる事情をより鮮明に分析することに寄与する20。例えば、スウェーデンが開発した最新の放射性キセノン監視装置(SAUNA III)は、放射性キセノンガスの採取にかかる時間を従来の半分以下に短縮することができ21、より迅速にデータを解析することで正確な分析結果を提供することに大きく貢献すると考えられる。IMSにおける放射性核種監視能力の拡充といった継続的な技術的進歩は、CTBT下での検証能力を強化し、国際監視システムに対する信頼を築くものと期待される。CTBTは条約としては発効していない。しかし、条約の批准・署名国の貢献によるCTBTOの既存の監視メカニズムは、すでに地球上の90%以上をカバーし、こうした関連する科学的データを収集している22。NPT第6条にある核軍縮の誠実な交渉を行う上で、より正確な科学的データや信頼できる情報は爆発事象に関する事実の透明性を高め、核実験が見逃されないという信頼を醸成することに寄与するのである。

おわりに

2026年のNPT運用検討会議は、過去の2回の会議と同様に、最終文書の採択が困難であることが懸念されているが、これまで最終文書の成否にかかわらず、核実験モラトリアムという規範が継続的に支持されてきた事実は軽視されるべきではない。一方で、新STARTの失効や、CTBTへの支持の揺らぎ、さらに低出力核実験を巡る相互不信の増大は、核実験モラトリアムの持続性に大きな影響を与えている。特に、検証困難な低出力核実験の存在は、核実験の疑念を増幅させ、モラトリアムの崩壊リスクを高める構造的要因となっている。そのため、本年のNPT運用検討会議において、各国によるモラトリアム遵守の政治宣言がされ続け、共同声明などでその重要性を強く明示することは、最優先の課題ととらえる必要がある。

以上を鑑みると、提言として以下が考えられる。

  • 核実験モラトリアム重視への外交努力:NPT運用検討会議で核実験モラトリアムに対して否定的な結果となったとしても、各国がただちに核実験を再開するとは限らない。日本としては、CTBTフレンズメンバー国である豪州、オランダ、カナダ、フィンランド、ドイツと連携し、今年予定されているCTBTフレンズ外相会合などの場を活用して、核実験モラトリアムが言及され続けるよう閣僚レベルで各国に働きかけていくことが重要である。
  • CTBTを軸とした検知・監視能力の強化:核実験モラトリアム維持の鍵は、核実験が見逃されないという信頼によるため、正確な科学データを分析した事実に基づく外交が行われることが重要である。そのためには、既存の核実験検証能力を強化し続けていくことが不可欠であり、特に低出力核実験の検知にかかる放射性核種監視の検出能力の高度化や整備への投資、IMSの観測能力を拡充していくことは、核実験モラトリアムが核軍縮・不拡散を支える実質的な規範として機能することに資する。具体的には、CTBTOのIMSに貢献し続けることに加え、例えば日本独自の放射線キセノンの監視体制を設立すること等を検討することを提案する。
  • 東南アジア、太平洋及び極東地域での検知強化への支援:既存の検証体制の機能を維持し続けるためには、CTBT締約国が質の高いデータを送信し、各国が独自に分析できるかどうかが鍵となる。したがって、特に東南アジア、太平洋及び極東地域の国々において、現地の検知・分析能力を低下させず、維持・向上させることが重要である。例えば、すでに欧州がアフリカ、ラテンアメリカ、カリブ海諸国に対して支援しているように、CTBTOの国内運用体制(NDC)の能力構築スキームを活用する等して、日本や豪州が連携してリーダーシップを発揮し、同地域の観測所の整備や人材育成を支援して検証体制の底上げを図ることで、国際ネットワーク全体の検知・分析能力を向上することに寄与することが望ましい。

  1. Kimball, Daryl, “Nuclear Testing and Comprehensive Test Ban Treaty”, CTBT Timeline, Arms Control Association, April 2026.
  2. Trevor Hunnicutt, Ismail Shakil and Kanishka Singh. “Trump tells Pentagon to resume testing US nuclear weapons.” Reuters. 30 October 2025. https://www.reuters.com/world/china/trump-asks-pentagon-immediately-start-testing-us-nuclear-weapons-2025-10-30/
  3. “Diplomats Prepare for Difficult Nonproliferation Treaty Conference,” Arms Control Association, 17 April, 2026.
  4. Williams, Heather. “Can the United States Immediately Return to Nuclear Testing?” CSIS.30 October 2025.
  5. 外務省 「核兵器の不拡散に関する条約」https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/gun_hakusho/2006/pdfs/shi2_1.pdf
  6. Ibid.
  7. Dahlman, O., J. Mackby, S. Mykkeltveit, and H. Haak. 2011. Detect and Deter: Can Countries Verify the Nuclear Test Ban? Springer Science & Business Media, p.27.
    実際に、2010年のNPT運用検討会議の最終文書は、CTBTおよび核実験モラトリアムの重要性を改めて強調した文言を含み、合意して採択されている。(2010 Review Confernce on the parties to the treaty on the non-prolfieration of nuclear weapons, final document, 2010. https://www.nonproliferation.org/wp-content/uploads/2015/04/2010_revcon_action_plan_only.pdf)
  8. 2015年と2022年の米国とロシアのCTBTに関する声明は以下の通り。
    Statement by the United States, General Debate, NPT RevCom, 27 April, 2015: “We have pledged not to pursue new nuclear warheads or support new military missions or military capabilities for the weapons that we do have, and we haven’t tested a nuclear weapon in 23 years. We have clearly demonstrated our commitment to abide by the Comprehensive Nuclear Test Ban Treaty.”
    Statement by Russian Federation, General Debate, NPT RevCom, 27 April 2015: “We are deeply concerned by the lack of any tangible progress in the Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty (СTBT) coming into force. We recall that our country ratified the CTBT in 2000, and we are working hard to make it universal both in bilateral and multilateral formats.”
    Statement by the United States, General Debate, 2022 NPT RevCom, 1 August 2022: “To cap the growth of nuclear arsenals anywhere in the world, we continue to support the entry into force of the Comprehensive Nuclear-Test Ban Treaty. “
    Statement by the Russian Federation, General Debate, NPT RevCom, 2 August 2022: “We note the unacceptable situation around the Comprehensive Nuclear Test-Ban Treaty (CTBT). It has been more than a quarter of a century since the Treaty was opened for signature, but it has never evolved into a living international legal instrument. Responsibility for this lies with the eight Annex 2 states of the CTBT that have not yet acceded to the Treaty.”
  9. Statement by Russia, General Debates, Second PrepCom for the 11th NPT RevCon, July 23, 2024.
  10. Statement by the United States, Cluster 1, Third PrepCom for the 11th NPT RevCon, May 1, 2025.
  11. U.S. Department of State, “Adherence to and compliance with Arms control, nonproliferation, and Disarmament Agreements and Commitments,” April 2025., p.29.https://www.state.gov/wp-content/uploads/2025/04/2025-Arms-Control-Treaty-Compliance-Report-1.pdf
  12. 中国の核実験についてはこちらを参照 https://www.jiia.or.jp/jpn/report/2026/03/strategic_comment_2026-5.html
  13. Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty, treaty booklet, p.2 https://www.ctbto.org/sites/default/files/2023-10/2022_treaty_booklet_E.pdf,.
  14. Dahlman, O., J. Mackby, S. Mykkeltveit, and H. Haak. 2011. Detect and Deter: Can Countries Verify the Nuclear Test Ban? Springer Science & Business Media, p.21.
  15. “U.S. Nuclear Weapons Tests,” Congressional Research Service, 16 December 2024. https://www.congress.gov/crs_external_products/IF/PDF/IF11662/IF11662.3.pdf
  16. “U.S. Conducts 34th Subcritical Nuclear Experiments,” Arms Control Association. June 2024.
  17. Borger, Julian. “Russia 'probably' violating nuclear test ban treaty, top US official says.” The Guardian. May 2029.
    https://www.theguardian.com/world/2019/may/29/russia-nuclear-test-ban-treaty-probably-violating-us
  18. Sato, Mao. "Advancing Nuclear Test Verification without Entry into Force of the CTBT." Journal for Peace and Nuclear Disarmament 4.2 (2021): 251-267., p.256.
  19. Dahlman, O., J. Mackby, S. Mykkeltveit, and H. Haak. 2011. Detect and Deter: Can Countries Verify the Nuclear Test Ban? Springer Science & Business Media, p.86.
  20. Ibid., p.87.
  21. SAUNA III, https://scientaenvinet.com/images/produkte/sauna/Data_Sheet_SAUNAIII.pdf
  22. Sato, Mao. "Advancing Nuclear Test Verification without Entry into Force of the CTBT." Journal for Peace and Nuclear Disarmament 4.2 (2021): 251-267., p.264.