第6回東京グローバル・ダイアログ 第5セッション「インド太平洋のチョークポイントを語る:台湾海峡・南シナ海・東シナ海・朝鮮半島」

本セッションでは、インド太平洋における地政学上の要衝である台湾海峡、南シナ海、東シナ海、朝鮮半島といった地域を念頭に、パネリストがそれぞれの立場からインド太平洋の安全保障環境の抱えるリスクについて分析を披露した。また、米国において第2期トランプ政権が発足するなど、国家指導者の交代及びその新たな外交政策が今後インド太平洋地域にどのような影響や変化をもたらすのかについても、各国の国内政治と外交政策の交錯にも言及しながら、それぞれの見解が述べられた。そして、これらのリスクや変化に対し、国際社会はどのように対応すべきかについて議論が交わされた。
トランプ政権とインド太平洋地域の関連について、トランプ政権のウクライナ政策がインド太平洋のチョークポイントに大きな影響を与えることが提起された。これは、トランプ政権の採用するウクライナ政策の方向次第で、中国や北朝鮮などの国家の今後の行動を左右し、北朝鮮とロシアとの連携にも影響が生じる上、ウクライナ紛争におけるディールの行方によってトランプ政権の北朝鮮への見方や政策が決定づけられるという指摘である。一方同盟国や同志国に対しては、トランプ大統領は国防に費やされるGDPや対米貿易黒字・赤字といった2つの指標を用いて評価・判断していることが説明された。米国とその同盟国や同志国との関係は根本的な変化が起きることも想定され、インド太平洋のチョークポイントを適切に管理するためには、多国間の連携を地域内及び地域横断的に展開することが重要であるとの認識が示された。
トランプ政権の政策や予測不能性は中国の対外行動にとって牽制となっており、台湾問題を含めて中国は慎重な姿勢を保つとの予想もあった。そのため、短期的には米中間の正面衝突は勃発せず、比較的安定的な状況が継続するとの見方があった。また、国内政治とインド太平洋の安全保障環境の関連として、韓国の政局に関わらず、日韓や日米韓の協力、自由で開かれたインド太平洋は重要であり、発展させるべきとの指摘もあった。
他方複数のパネリストから、インド太平洋にはチョークポイントというより「断絶(fault lines)」が広がっているとの見解が示された。この地域では、変化し続ける国家間の力の配分が安全保障環境の基底をなし、紛争が発生する蓋然性の高さを踏まえて、各国が国防力の増大に力を注いでいる実態が指摘された。地域全体で読み違えによる軽挙妄動を防ぎ、対立や課題に対処する重要性が強調された。
また、米国主導の国際秩序はチャレンジに直面しており、中国、ロシア、北朝鮮、イランなどの国家間のゆるやかな連携を生んでいることが指摘された。これらの国家は、多極化世界の形成を望むということが共通の国益(結節点)となっており、アメリカ主導の国際秩序とこれらのゆるやかな連携は、「断絶」上に対峙しているとの理解が示された。そして、北朝鮮がもたらす脅威やリスクを過小評価してはならないとの注意喚起がなされ、ロシアとの関係を深める北朝鮮の対米関係の行方や、北朝鮮の核戦力の増強及び抑止から核の先制使用へと変化した核ドクトリンの危険性といった問題も議論された。
